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Vol.34 参政党の炎上案件で知名度爆上がりのジャンボタニシ。どうしてこうなった!?【不思議食品・観察記】
科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。驚くべき言説で広まる不思議食品の数々をウォッチし続けている山田ノジルさんが今回注目するのは、参政党炎上に使われる「ジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)」。40年ほど前に食用目的で輸入された生き物が、どうしてこうなってしまったのか!?
食用目的で輸入され野生で繁殖
今回は、もはや食用だということが忘れ去られがちな「どうかしている」食べ物について記録します。
食用目的で輸入されたものの、さまざまな事情から日本の食卓に定着しないまま、野生で繁殖。そして外来種として、厄介者扱いされている生き物はたくさんいます。例えばウシガエルや、その餌であるアメリカザリガニ(夏はIKEAで美味しく食べられます)。ブラックバスなんかも、定番とも言える有名どころ。そんなジャンルで知名度爆上がりなのが、どピンクの卵を産むことで知られるジャンボタニシ(スクミリンゴガイ、略称!?ジャンタニ)です。
どピンクの卵塊(らんかい)が特徴的。着色をミスったとびっこのよう。
知名度を押し上げたきっかけは、もちろん(?)参政党。過去に「ジャンボタニシ農法」なるどうかしている情報を発信したことからSNSで大炎上し、現在に至るまで参政党いじりの燃料に使われ続けているのです。
ジャンボタニシは80年代に食用目的で輸入されてきた、南米原産の淡水巻貝。しかし日本の食卓には定着せず養殖も次第に放置され、その結果、凶悪なまでの生命力で野生で大繁殖。何でもモリモリ食べるので、水田植物の被害が問題視されています。ちなみに普通に食べられる貝なので、ベトナムなどではジャンボタニシ料理が存在します。日本でも食べられる店があり、輸入食材店でむき身の冷凍品などを買うこともできます。
ジャンボタニシ農法とは、その活発な食欲を利用して雑草を食べさせるのが狙いです。田んぼの水位を数センチ単位で管理すれば、大事な稲は守られ、不要な雑草だけを食べさせることができる……という主張ですが、それには相当な手間がかかるうえ、さまざまなアクシデントでまあ普通に逃げ出しますわな。そうそう都合よく、コントロールできるはずもありません。自然相手のものは何でもそうですが、ジャンタニ農法は高確率でコントロールし損ね、その結果として外来種を野に放つので、普通にヤバい。海外でもジャンボタニシ農法は存在するようですが、うまくいっているという話はあまり聞きません。
参政党のジャンタニ推しを農水省がストップ
おさらいすると、ジャンボタニシ=参政党というイメージが定着したのは、2024年春のこと。党員が「我が家は40年以上ジャンボタニシ活用して無農薬米作ってる」、続いて奈良支部が「慣行農法では嫌われ者のジャンボタニシくん。自然農法では味方になってくれます」とSNSに投稿。すると農水省が「ジャンボタニシ放飼は止めてください」と呼びかける展開とまでなりました。
2025年に入ってからの参政党は、ジャンボタニシ批判を受け、「党は(ジャンボタニシ農法を)一切推奨していない」「嘘のプロバガンダ」と語気強く否定していますが、2015年には現党首の神谷氏が「ジャンボタニシが雑草を駆除しています」なる投稿で、田んぼを視察している写真を投稿も掘り起こされています。黒歴史って、世間は忘れてくれないものです。
神谷氏が「党がジャンボタニシを養殖しているわけではない」(誰もそんなこと言ってない)、「忘れてた(笑)」(視察したことを?)、「それをやってる農家さんがいるのに、悪く言うのもねえ?」といったトークを配信している動画を見ましたが、作物のみならず環境にデカいダメージを与える外来種を撒く行為を、笑って見ている時点でアウトです。「食料自給率100%」という公約を発表し、「愛国心」を強調する保守政党ですが、日本の自然ひいては食糧生産現場を破壊したいのでしょうか。愛国とは精神面だけの話であり、実際の環境はどうでもいいのかもしれません。
このジャンタニ農法騒ぎで自分が真っ先に思い出したのは、中国の文化大革命期に、毛沢東の主導で行われた「四害駆除運動」でした。大規模な公衆衛生キャンペーンとして、コメを食べてしまうスズメは特にけしからんと、徹底的に駆除。その結果、間接的に害虫を増やして飢饉を招き、数百万人から数千万人もの餓死者を出したという悲惨な歴史です(結局は後にスズメを輸入するハメになった)。生き物や環境に対し、行き当たりばったりの適当な扱いをすると大変なことになるという、寓話のような悲劇です。なぜ、普通に専門家の意見と調査を取り入れないのか。ファクトチェック無視のイメージ&直観優先の怖さが凝縮されています。
※余談:文化大革命期の環境破壊は、中国SF『三体』のネトフリドラマでも描写されていましたね。あの作品で『沈黙の春』(レイチェル・カーソン著・1962年出版)が再びベストセラーになったという。
神谷代表は衆議院選挙で「日本をなめるな!」と訴えていましたが、日本以前に地球をなめすぎではないでしょうか。「日本の農業や自然環境を守ろうと訴えていて」(Xより引用)というなら、ぜひジャンタニほか、外来種の正しい利用法を開発して欲しい。
本来の使い道である食用を体験!
外来種は「食べれば解決!」というほど単純な話ではありませんが、何はともあれ、本来の目的に立ち返り、おいしく食べてみました。過去に何度か食べてはいますが、主観ではなく、大勢の意見も聞いてみたい。
ちょうどいい機会をいただけたのは、8月3日に行われたトークショーでした。登壇したのは、選挙&陰謀論ウォッチャーの皆さまですから、ジャンタニにもそこそこご理解(?)があってありがたい限りです。
2025年8月3日に開催されたトークイベントに、ジャンタニご飯をお持ちしました。
調理は会場のキッチンにて。これをやらせてくれる高円寺パンディットの懐の深さよ。
ジャンタニの入手は、自然豊かな土地に住む友人が。丸裸になっている田んぼから網ですくい(もちろん所有者の許可をとってます)、ネットに入れた状態で水につけ、しばらくの間泥抜きしてもらいました。
「ジャンタニは寄生虫がいるから危険だ」なるご意見もありますが、それは昆虫食陰謀論時のコオロギと同様に、食品リスクは他の生き物と大差ありません。肉はとにかく加熱が重要。必要以上に何度も茹でこぼし、内臓を取り除き塩でぬめりをとりました。そして冷凍保存。
イベント用に試作したジャンボタニシ&つぶつぶ入りグローバル飯。
今回は時事ネタを込め、政府備蓄米である古古米に、ローラの就農発信で話題のつぶつぶ(アマランサス)を混ぜて焚き、そこに醤油、酒、砂糖で炊いた外来種=ジャンタニをイン。南米原産であるアマランサス&ジャンタニが、日本の主食にミックスされたグローバル飯となりました。参政党の旧ゴレンジャーであるよしりん提唱の「四毒」的には、お褒めを頂けるでしょうか。
味はというと、ほぼ「貝」(それはそう)。種類は違えど、在来種であるタニシとさほど味は変わらない印象でした。スープに使うと滋味あふれる出汁がとれるので、ベトナムではフォーなどに使われているというのも納得です。
ただし、内臓を取り除く作業がなかなかに大変。何でも美味しく食べるには、手間がかかるのは仕方のないことですが。イベントでは、会場の皆さまが、残さずきれいに食べてくださって、ありがとうございました。
日本では、ジャンボタニシは田んぼに撒かずせっせと美味しく食べましょう。しかし個人では限界があるので、何か画期的な処理システムを開発する政策をぜひお願いします。
筆者 |