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第14回 インタビュー:なぜ発達障害と有機給食を結びつけてはいけないのか①【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

コラム・マンガ

第12回の記事(有機給食がカルトの餌場になる前に)では、公立学校の給食に有機農産物を導入しようという動きが日本で活発になっている、その背景や構造について簡単に解説を試みました。今回はその続きで、後半部分に発達障害の当事者の方へのインタビューを取り上げています。

有機給食と発達障害

第12回の記事でも触れたように、有機給食推進の正当性を主張するためのロジックとして「発達障害」が度々取り上げられている。

観測する限り、その内容は「発達障害の増加は食品中の残留農薬が原因」とする主張と、「発達障害は有機給食で改善する」という主張の2種類に大別される。

どちらも「だからこそ有機給食を」という結論に辿り着く点では共通しているが、前者は原因に、後者は改善策にフォーカスしている点で、微妙にニュアンスが異なっている。

ただ、実際には両者の違いが発言者のなかで整理されないまま語られている場面も多い。

そのため、「残留農薬の摂取には、すぐには現れない長期的な悪影響が懸念される」という主張と、一方では「農薬使用量の増加と発達障害の増加がぴったりシンクロしている」とか「有機食材に切り替えればすぐに効果が現れる」といった、明らかに時系列の矛盾した主張が混在しており、聞いている側が混乱することもしばしばある。

両者を結びつける3つの言説

発達障害と農薬(有機)を結びつける言説には、幾つかの流れが存在するが、有機給食に関連しては特に以下のようなものが見られる。

アメリカで遺伝子組換え食品反対運動などを展開している民間団体「マムズ・アクロス・アメリカ」を創設したゼン・ハニーカット氏は、後述する前島由美氏によれば「遺伝子組み換えの食品が発達障害と繋がっていたことを、我が子3人の食の見直しで証明」(原文ママ)したという。

この活動を日本にも輸入する形で2019年に「デトックス・プロジェクト・ジャパン」という団体が立ち上げられた。

顧問を務める木村―黒田純子氏(環境脳神経科学情報センター副代表・医学博士)は、2012年に『ネオニコチノイド系農薬にはヒトの健康を害し、特に子どもたちの脳の発達に影響する可能性がある』とする論文を発表している。

この論文は、欧州食品安全機関(EFSA)のレビューでは厳しい評価を受けているが、有機給食関連の講演会などでは、木村―黒田氏による同様の研究が度々引用され、いわば理論的支柱として重用されている。

この際、先述した「農薬使用量の増加と発達障害の増加がぴったりシンクロしている」相関関係を示すグラフが併せて示されることも多い。

もうひとつの流れとしては、2019年に「フーズフォーチルドレン(FFC)」を設立した前島氏らの活動がある。前島氏は「『発達障がいは脳内アレルギー』という専門家の言葉と、偶然手に取った国光美佳氏の『食べなきゃ危険』を読んで、食での取り組みを決意」(原文ママ)し、2013年にこども園を開園した。

2019年には園の運営を通じて得た経験から著書『輝きを取り戻す“発達障がい”と呼ばれる子どもたち』を出版。

フーズフォーチルドレンの活動においても、現在に至るまで「発達障害は有機給食で改善する」との主張を全国各地の講演で繰り返しており、特に草の根の市民グループに対して影響力を持ち始めている。

不安に感じる必要はない

子育て中の方などは特に、こうした情報にSNS等で触れることで漠然とした不安や自責の念を感じてしまうかもしれない。

一部の週刊誌などが充分な検証もなく、これらの活動を好意的に紹介している場合もあるため、一見信憑性の高い情報のようにも映る。

ただ、実際にはいずれも科学的根拠の薄い、信頼性の低い内容と言って差し支えないものばかりなので、ひとまずは安心してほしい。

既に今まで子供の健康を願ってできる限りの努力で積み上げてきた食生活を、慌てて見直す必要など微塵もない。

また前回も少し触れたように、これらの活動団体を見ていくと、様々な部分で過激な反ワクチン活動や陰謀論との親和性、疑似科学、マルチビジネス等との関連性を見出すことができる。

この点も極めて深刻な問題なのだが、今回に関しては、有機給食の推進にあたり発達障害の増加を引用することがなぜ不適切なのか、という点に絞って掘り下げたい。

適切でない当事者不在の議論

発達障害と農薬に関連があるのかないのか?といったファクトの問題以前に抜け落ちているのは、ここで槍玉に挙げられている発達障害当事者の視点だ。

発達障害が増えている、という課題設定をする以上、当事者不在の議論はそもそも適切ではない。

仮に有機給食の団体や活動家が、発達障害の増加を真剣に懸念しているならば、まずやるべきは農薬の危険を叫ぶことではなく、然るべき専門家や研究機関、支援団体、当事者団体との適切なコミュニケーション、情報交換ではないだろうか。

しかし、そうしたコミュニケーションがとられているという話は寡聞にして知らない。

その最低限のプロセスを経ることなく、当事者不在のままで、相関関係からの推論や期待、または支持の少ない論文を繰り返し引用し、あたかも因果関係が確定しているかのように誘導するアプローチは、仮に言葉の上では発達障害の増加を憂えているように聞こえても、かえって当事者の不利益になりかねない。

そうであれば、発達障害を都合よく運動に利用しているだけと受け取られても仕方がない。

実際に、有機給食推進のインフルエンサーが投稿したSNSの書き込みに対して、発達障害当事者またはその家族からクレームが入ることもある。

知る限り、このようなクレームに誠実な応答がされている場面を未だ見たことがない。

なんらかの政治的な主張や、誤った言説によって不当な差別や偏見が強化されようとしているとき、当事者からの異議申し立てに耳を傾けることは極めて重要になる。

そこで今回、Twitterで発達障害に関する様々なニュースを発信し、自らも発達障害の当事者であるアカウント「発達障害のニュース」さんにインタビューをお願いすることができたので、今回と次回に渡って、その内容をお届けしたい。

インタビュー(「発達障害のニュース」さん×間宮)

間宮:はじめまして、よろしくお願いします。まず、発達障害に対する社会の認識や理解、報道のあり方について、現在どのような問題や課題があると感じていらっしゃいますか。

発達障害のニュース:発達障害という言葉、そして発達障害と診断されている人に対する誤解があるのは問題だと思います。発達障害に対する理解や支援は非常に充実しており、発達障害と診断されて支援を受ける事はその人や家族に幸せをもたらします。発達障害は悪い事ではないのです。

発達障害に関する歴史的経緯を振り返ってみます。日本で発達障害が取り上げられ始めたのは2000年頃からです。2004年の発達障害者支援法の成立をきっかけに、職場や学校での理解や支援が急速に充実しました。報道に関しましても、2010年以降、NHKを始めとするテレビ局が熱心に取り上げてくれるようになりました。こういった支援の充実や認知の広まりが、ここ20年間の発達障害と診断される子供の増加をもたらしています。

過去20年間の体制整備により、発達障害と診断されること自体は本人や家族にとって不利益なものではなくなりました。その一方、世間では発達障害の人達を「空気が読めない」など誤ったイメージで語る面があります。一般の人々の知識や理解不足が、2021年現在の重要課題であると私は思います。発達障害についてもっと知ってほしいです。

間宮:支援体制の充実に伴い関係者の理解が進んだ一方で、日頃当事者やその家族と接点の少ない人々の理解度という点ではまだまだ時間差やギャップが認められるということですね。

そのことを踏まえた上でお尋ねしたいのですが、有機給食を推進する団体や活動家、市民運動が、食品中の残留農薬と発達障害の増加の関連を主張し、それを根拠に導入を求めるケースが多発しています。

このような活動や発信が「学校給食の有機化」という文脈で行われていることをご存知でしたか。また、その内容についてどのように受け止めていらっしゃいますか。

発達障害のニュース:発達障害の増加という主張自体に誤りまたは虚偽があると思います。2000年にはほぼ誰も知らなかった発達障害という概念が、わずかな間に日本中に知られるようになり、診断される子供が増えたというのが真相です。発達障害の人は大人にも大勢います。それだけでなく、昭和時代にも、江戸時代にも、さらにさかのぼって石器時代にも一定の割合いたと考えられます。

人の顔が1人1人違うのと同様に、脳も1人1人違いがあります。脳の得手不得手が極端だけれど、当たり前にいていい人、でも一般の多数派とは違いがあって困っている人。そういう人達に発達障害という診断がつくようになったというのが本当のところです。

学校給食の有機化という文脈で発達障害が取り上げられている事を知っている人は関係者のなかにほとんどいないと思います。発達障害の専門医・研究者・専門メディアなどがこの話題を取り上げる事はなく、誰も気にしていないというのが現実です。

当事者や家族がこの事を知ったならば、気分を害すると思います。発達障害の増加を防ぐという言葉は、発達障害の人は減るべき邪魔者だと言っているように響きます。そもそも発達障害の当事者や家族は農薬が原因だとは思っていません。

そして、学校給食の有機化で発達障害の増加を防ぐという話には強い違和感を禁じ得ません。なぜならば、ASD(自閉スペクトラム症)と診断される子供達の大部分は3歳になるより前にその兆候が現れています。小学校の給食を有機化しても発達障害の増加は防げませんし、政府による規制の範囲内の残留農薬が小学生を発達障害にする事もないと私は思います。

【後編に続く】

参考

発達障害のニュース Twitterアカウント

※記事内容は全て筆者個人の見解です。筆者が所属する組織・団体等の見解を示すものでは一切ありません。

 

【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】記事一覧

筆者

間宮俊賢

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