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農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート20〉【ナス農家の直言】

農家の声

今回も、
「農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート20〉」
をテーマに、農家の私が農業に関する誤解や偏見を正していきます。

1.(中)牛のゲップにはメタンが含まれている!

これはデマではなく、本当です。

牛の呼気の中にはメタンが含まれています。
反芻(はんすう)動物は4つの胃を持ち、嫌気性微生物の働きで分解するためです。
世界中にいる牛や羊などの反芻家畜から出てくるメタンの総量は、世界における温室効果ガスの総排出量の5%を占める(CO2換算)と言われています。
メタンガスの発生が少なくなる飼料など、牛が吐き出すメタンの量を減らす取り組みは研究段階ではあるのですが……
経済性の観点から現場で取り入れられている例はまだほとんどありません。

「じゃあ牛を飼うな! すぐに代替タンパク質源を取り入れろ!」

と、環境活動家の方は主張しますが、ちょっと待ってください!
今すぐに牛肉の代わりになり得るタンパク質源はありませんし、牛肉は世界の食事でも欠かせない食材です。
牛のメタンガス対策は、畜産農家だけではなく、人類全体の課題だと捉えるほうがいいと私は考えます。

2.(左)水田もメタンを発生させる!

これも、本当です。
水田ではメタン活性菌が活動しており、水を張った還元状態で活動が活発になります。
「じゃあ地球温暖化対策として、米を一切作るな!」というのは、考えるまでもなく無理な話です。
日本人だけでなく、世界中の人が米を食べていますから、メタンを減らすために水田をなくしてしまうことはできません。

なので、水稲の栽培方法を工夫することでメタンの発生を減らす研究は進んでいます。
例えば、田んぼの水を抜く「中干し」と呼ばれる工程の期間を延長すること。
ひび割れるくらい乾燥させることで、メタン活性菌の活動は抑制され、平均3割もメタンの発生を減らすことができたというデータもあります。


メタン:水田から出る温室効果ガス (常陽新聞連載「ふしぎを追って」) (情報:農業と環境 No.114 2009年10月) (affrc.go.jp)

水田に苗を植える田植えではなく、乾田直播(乾いた田んぼに直接種を撒く)などの技術も進んでいます。
この先技術の進歩が進んでいけば、より地球環境にも優しい米作りができるようになっていくと考えられています。

3.(右)農業は環境虐殺だ!

エコサイド=環境と虐殺をかけた造語ということですが、かなり過激な表現に聞こえます。
世界経済フォーラムの年次総会、通称「ダボス会議」で、「農業や漁業は『エコサイド』と認知すべきだ」と発言した方がいて、再び物議を醸しました。

農家の私としては、農業は人間のエゴであり、少なからず環境を破壊する行為であるという点においては同意です。
ただし、農業を断罪して、いきなりストップして、それで世界の人々の生活は成り立つのでしょうか?
対案がないのであれば、ただの暴論です。
人間のエゴである農業を、より環境負荷の少ない農業、栽培技術に進化させていくしかないと思います。

4.(一)EUの農家の大規模デモはなぜ起こったんだ!

EU(欧州連合)内の農家たちが、EUの政策に対して大規模にデモを起こしていることをご存じですか?
ただ農家が集まって声を上げるだけではなく、

  • 政府の関係施設に畜産の糞尿を撒いたり、
  •  トラクターで列を作ってデモ行進したり、
  •  主要道路をトラクターで封鎖したり、

かなりのインパクトがあります。
この背景には、

①いき過ぎた環境政策
②農業支援の少なさ

が原因とされています。

①2050年までに農薬や化学肥料を半減させるという脱炭素政策を打ち出したのですが、あまりにも現実離れしていると現場で働く農家からの反発がありました。
病害虫や気候変動に強い品種の改良や、培養肉の普及などの対策案もあったのですが、やはり直近で農薬や化学肥料を半減させることは無理がありすぎるのです。

②世界的な資材価格高騰の煽りを受けて製造原価は上がっているのに、農産物の価格はついてきていません。
農家への支援の足りなさも、農家の怒りに火をつけた要因の一つと言えるでしょう。

そしてさらに、先ほど紹介したダボス会議での発言もあって、デモは激しさを増しています。
現場の意見を反映させずに、左翼政治団体や環境活動家の言い分をそのまま通したような、楽観的で無謀な数値目標を見切り発車させた時点で、政治の失敗だったと私は思っています。
そしてこのEUの動きは、日本にも無関係ではありません。

5.(三)日本の農業政策に影響はあるのか!

EUの農家デモにより、2030年までの農薬や化学肥料の50%削減目標は撤回されました。
そうなると、再び取り上げなければならないのは、日本の「みどりの食料システム戦略」です。

みどりの食料システム戦略トップページ:農林水産省 (maff.go.jp)

「2050年までに農薬や化学肥料を50%にする」という、EUの政策のマネをした中身なので、今回のEUの撤回ではしごを外された形になっています。
一部界隈が主張するように、デモを起こして、「みどりの食料システム戦略」を頓挫させれば納得するんですかね?

元々実現は難しいと日本の生産現場の声も多かったので、私としては撤回に賛成ですが、さてどうなることやら。日本政府の動きに今後注目です。

6.(捕)日本の農家もEUの農家を見習え!

「EUの農家はデモを起こして権力に立ち向かった! 日本の農家も立ち上がれ!」
と、無農薬無肥料の理想を掲げる方の投稿がありましたが、今回のデモを理解されているとは思えません。
「農薬や化学肥料を50%削減する」政策をデモで撤回させたのだから、ご自身の無農薬無肥料の理想からは遠ざかることになるのですから。
デモの中の、「培養肉やゲノム編集作物の普及に関しての一部の主張のみ賛成」ということでしょうか?
デモの過激な動画だけを切り取って騒ぐのは止めていただきたいです。

7.(二)鳥害ネットを張るな! 鳥がかわいそうだろ!

レンコン田に鳥害防止のためのネットを張った画像を批判している動物愛護団体があります。
鳥たちにとっては邪魔なものですけど、農家にとっては鳥害から作物を守るために必要な措置です。
テグスのような細い糸は、鳥からは角度によっては見えないから翼に引っかかり、そうするとその畑には怖がってしばらく来なくなる、という理屈です。

私の地域のキャベツや白菜畑も、ヒヨドリ対策としてテグスを張ることもあります。
ヒヨドリたちは、キャベツを一つずつ食べ切るわけではなく、つまみ食いしていくので、広範囲でだめになっちゃうんですよね……
鳥害を受けたものは、当然出荷できません!
鳥害防止のテグスを張ってはいけないのであれば、食べられてダメになった作物分の補償は動物愛護団体がしてくれるのでしょうか?
過剰な動物愛護は、農家の私には理解に苦しみます。

8.(遊)獣害駆除もするな!

鳥害ネット批判だけでなく、獣害対策にも批判の声は少なからずあります。
イノシシ、シカ、クマ、ハクビシン、サルなど、畑の作物を荒らす獣害は主に中山間地で多く発生します。

また畜産農家にとっては、野生のイノシシが農場に接近することは、豚コレラをはじめ感染症などのリスクが跳ねあがることを意味します。
感染症が出てしまえば死活問題になり得るので、電柵などの対策を厳重にしているのです。
野生動物も生きるために必死でしょうが、農家も生活がかかっているので必死なのです。

参考

9.(投)温暖化で米がうまくなった?

某大物政治家が、北海道での演説中にこう発言して物議を醸しました。
温暖化によって平均気温が上昇し、北海道の米の収量が上がったり、食味が良くなったのは事実です。
冷害で米が不作だった年(最近では1993年の米不足=平成の米騒動)も過去にはあるくらいですから、平均気温が2度上がったら、米の生産にはプラスの影響は出るだろうというのが、北海道の米農家の意見です。

しかし、暖かいを通り越して酷暑が普通になると、米の食味も品質も落ちます。
もちろん、「ゆめぴりか」や「ななつぼし」などの有力品種が出てきたことや農家の生産技術向上も、北海道の米の収量や食味を向上させた要因ですね。
某政治家さんは過去にも物議を醸す発言を何度もしていて、苦々しく思っている人も多く、あわや炎上騒ぎになった、ということでしょう。

まとめ

日本だけでなく、世界でも農業の現状は厳しさを増しています。
海外発のデマにも惑わされることなく、冷静に多角的に情報を集めて判断してほしいです!

 

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筆者

ナス男(ハイパーナスクリエイター「ただのナス農家」)

 

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