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農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート23〉F1種編【ナス農家の直言】
農薬に関するデマと同じくらい多いのが、種子に関するデマです。
特に「F1種」に関する誤解やデマをわざと流している人がちらほらいます。
種子に関する誤解を解きたい!
ということで今回は、
「農業に関するデマで打線組んでみた!パート23〈F1種編〉」
をテーマに、種に関する誤解やデマを農家の私ナス男が紹介します!
1.(右)固定種とF1種ってなんだ!?
まずは、固定種とF1種について説明します。
固定種とは、自然淘汰や優良な採種用の株から人間が選抜を繰り返すことによって、一定の形質が親から子に、代々引き継がれる品種のことです。
その品種が固定された地域の気候や風土に適応しているのが特徴で、全国各地で栽培されている「伝統野菜」と呼ばれるものは固定種であることが多いです。
一方のF1種は、形質の異なる系統を交配すると「優性の形質(品種が優れているという意味ではない)だけが子世代に発現する」というメンデルの「優劣の法則」を利用した種子のことです。
F1種子のF1とは、「Filial 1 hybrid」の略で、日本語では「一代雑種」などと呼ばれます。
固定種とF1種の主な特徴を、下の表にまとめました。
F1種は、安定した収量があるうえ生育が旺盛で病害虫にも強く農家として栽培しやすいほか、形質が揃うことから大都市への輸送もしやすいなどのメリットがあり、現在では野菜生産の主流となっています。
では、ここからF1種に関する誤解やデマを挙げていきましょう。
2.(二)F1種からは種ができない!
一番多いのがこの「F1種子からは種が全くできない!」というデマです。
F1種は毎年種を買う必要があるのは事実ですが、F1の野菜から種ができないわけではないです。
この写真は、F1種のナスから出来た種が勝手に発芽してナスができている様子です。
むしろF1種でも、種がこぼれたらわんさか発芽する印象ですね!
ただし固定された形質ではないので、F1の種(F2)には形質にばらつきが出てしまいます。F1種は出来ないのではなく、形質がばらつくので毎年新しいF1種を買う必要がある、ということを覚えてください。
3.(三)種取りできないと農業は終わり!
「種取りこそ農業そのものだ!」
と活動家たちがデモをしている様子がニュースで流れていました。
種取りに対する農家の私の意見は「種取りは農業の一部ではあるけど、農家が種取りをしなくても農業は続いていくだろう」です。
現に、ほとんどの日本の農家がF1種を使って野菜を栽培しています。
種取りを否定しているわけではありませんが、活動家たちは現実も見るべきです。
4.(左)固定種を種取りすれば、種子代はほぼゼロ!
F1種が毎年種子を更新する必要があることから、
「毎年種を買えば、種苗費が農業経営の負担になる! 種苗会社に搾取されている!」
という意見もよくあります。
たしかに、種取りをすれば種苗費に関しては安く抑えられるでしょうけど……
農業で生計を立てるには、種取りをする時間と手間も考慮に入れないといけません。
そう、作物によっては種取りは大変な作業なのです。
他の品種と交雑してはいけないので、
- 袋を被せて他の花粉で受粉しないようにし
- 採種株以外の花を開花する前にとり
- 採取した種の保存にも気を配る
といった決して安くない労働と手間をかける必要があります。
それならば、種取りの時間と手間の分を他の作物を栽培して、その利益でF1種を買うという選択肢も当然アリです。
ちなみに私は、F1種のナスの苗を毎年買っています。
種取りして発芽させて育苗して……を全て自分でやってしまうと、貴重な農閑期の休みがなくなるからです!
5.(一)F1種を食べると体がおかしくなる!
違う形質を持つ親株を交配してF1種を作るためには、親株が自分の花粉を受粉させないことが条件になるのですが……
F1種が危険と言われてしまう理由の一つに、「植物の生殖を人為的に操作しているから」というのがあります。
「人為的に受粉を操作しているから、自然な状態ではない!」
「不妊になる可能性もあるんじゃないか!」
などと、F1種へのひどい誤解やデマが広まってしまっています。
しかし、飛んできた他の株の花粉と交配(交雑)することは自然界でも普通にあり得ることです。
それにF1種の野菜を多く食べている現代人は、みんな不妊になっていないとつじつまが合いません。
きっと、F1種は危険だと言っているデマ屋も、F1種の野菜をこっそり食べているに違いありません!(笑)
6.(中)F1種の90%以上は海外産!
まるで90%以上のF1種子が海外企業で支配されているかのような某大学教授の主張ですが、これはミスリードです。
正しくは「多くのF1種子が日本企業の海外圃場で生産されている」です。
日本の某種苗会社のHPには「国内ではなく海外圃(ほ)場(=農場)で種子を生産しているのは、種の生産のリスク分散のため」と書かれています。
世界各地にタネの生産地を分散することで、病気や異常気象の影響のリスクを抑え、高品質な種を安定的に供給することができます。
日本の種苗会社の種の品質の良さや、企業努力が伺えますね。
7.(捕)F1種から固定種は生まれない!
「代々選抜して守ってきた種だけが固定種だ!」
「F1種からは固定種にはできない!」
というのは、誤解です。
形質の安定しないF1種の種(F2)ですが、優れた形質のF2を繰り返し選抜すれば固定種になります。
固定種は古来からの種だけではなく、現代でも生まれているのです。
8.(遊)スーパーには固定種の野菜は皆無だ!
前述した通り、揃いの良さなどの理由でF1種の野菜が一般的なスーパーでは多く並びます。しかし、「一般的なスーパーには固定種の作物はない」わけではありません。
コシヒカリやあきたこまちなど、コメはそのほとんどが固定種です。
他にも、ムギやダイズなども、固定種が多く栽培されています。
スーパーの野菜売り場にも、固定種は案外あるのかもしれませんね。
9.(投)固定種の方がF1種よりおいしい!
野菜の味の評価は個人の主観による部分が大きく、固定種F1種どちらの方がおいしいかというのは断言できません。
固定種の伝統野菜が好きという人もいますし、F1種の苦くないピーマンや甘いミニトマトが好きな人もいます。
固定種とF1種の味の優劣や勝敗をつける意味、あります?
まとめ
私はF1種のナスを栽培して出荷していますが、固定種や種取り、固定種の野菜を買う消費者を否定しているわけではありません。
たしかに、野菜の栽培や輸送などの効率の面では、F1種に分があります。
世界のF1種の圃場で異常気象があり、F1種の価格が上がったり、充分な種を確保できないという可能性はあります。
そしてやはり、地域の伝統野菜にはやはりニーズはありますし、後世に残すに値するものです。
それぞれの農家の考えに合った品種を選べばいいだけ、消費者の方は食べたい品種を買えばいいだけ。F1に関するデマを流す人に惑わされずに、買い物のときには賢く野菜を選んでいただきたいものです。
筆者ナス男(ナス農家&サイト「農家の決断」管理人) |