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日本の農薬使用に関して言われていることの嘘 – 本当に日本の農産物が農薬まみれか徹底検証する

食と農のウワサ

農薬と聞くと拒否反応が出てしまう――。過去のさまざまな報道からそのような捉え方をしてしまう人は少なからず存在する。しかし、その報道自体がそもそも嘘だったらどうだろう。「日本は世界有数の農薬大国」と言われるのも事実ではない。こうした農薬を取り巻く問題はヨーロッパでも起こっている。そこで今回、本誌にたびたび執筆している浅川芳裕氏に客観的な視点で切り込んでもらった。ちまたには嘘がはびこり、その嘘が原因で民衆はあらぬ方向に向かってしまっている。

『農業経営者』2020年3月号 特集「日本の農薬使用に関して言われていることの嘘」から転載(一部再編集)

「世界3位の農薬大国」日本は巧妙な統計操作によるもの

最近、“国際的に見て日本の農産物は農薬まみれで危険”といった主張がメディアでよく目につく。果たして本当か検証してみた。たとえば、こんな内容だ。

「FAO(国連食糧農業機関)の統計によると、日本の農薬使用量は中国並みで、世界有数の農薬大国。日本の農業は長期間の『鎖国』で、すっかり農業後進国になってしまった」(拓殖大学国際学部教授・竹下正哲「『国産が一番安全だ』と妄信する日本人の大誤解 日本は世界トップレベルの農薬大国」PRESIDENT Online、2020年1月21日)

「あまり知られていないが、日本は世界3位の農薬使用大国なのだ。1位は中国、2位は韓国、3位の日本もじゃんじゃん使う」(堤未果『日本が売られる』幻冬舎新書、2018)

「日本の農産物の安全基準は世界最悪」(食の安全に詳しい内海聡医師)

「日本の耕地面積当たりの農薬使用量は、中国、韓国に次いで世界で第3位だ。(中略)しかし“大本営化”(御用メデイア化)したマスコミはこうした基本的データすら伝えず、『日本の農産物は安心・安全』という情報を垂れ流しているのだ」(日刊SPA!ニュース、2016年2月22日付)

いずれの記事も、FAOの統計をもとに「日本は中国、韓国に次ぐ世界3位の農薬使用量」との数値を引き合いに出している。それを根拠に日本は「農業後進国」だの「安全基準は世界最悪」だの言いたい放題だ。

まず、彼らが根拠とするデータは実在するのか。元ソースからチェックしてみた。

表1と表2をご覧いただきたい。引用した文献『日本が売られる』および『日刊SPA!ニュース』に記載されているグラフだ。たしかに日本は中国、韓国に次ぐ3位となっている。

表1:『日本が売られる』P53
※耕地1ヘクタールあたりの有効成分換 算農薬使用量(kg)。農業用のみ。林野・ 公園・ゴルフ場など非農業用の農薬を除く。フランス、韓国は2009年のデー タを引用/出典:FAOSTAL2013.8.4

 

表2『日刊 SPA!ニュース』

表3がまったく同じ出典から筆者が作成した表である。両者を見比べてほしい。日本の正確な順位は3位ではなく、11位である(最新統計の2016年版では16位となっている)。

表3 @yoshiasakawa元ソースから作成

一体どういうことか。多くの国々を除外し、農薬が危ないイメージのある中国や韓国を併記することで、日本を「世界3位の農薬大国」に仕立てあげる巧妙な統計操作を行なっているのだ。

これは完全に虚偽であり、罪深い。もっともらしい国際比較で日本の農家があたかも農薬を滅茶苦茶に使い、国産農産物が農薬漬けのようなデマを蔓延させているからだ。

それにしても、異なる2人の作者(堤氏と内海氏)がデマを流すために、たまたままったく同じ統計操作を施すことがあり得るだろうか(大学教授の竹下氏は中国並みというだけで、表さえ示していない)。普通は考えられない。

実は、同じネタ元から単純にコピペしているだけなのだ。なぜそう確信をもって言えるのかは簡単だ。表1の注釈を見ればわかる。2人とも統計にアクセスした日として、まったく同じ2013年8月4日と記しているからだ。そんな偶然の一致などあり得ない。

そこで、デマの元ネタがないかどうか探してみた。書籍の全文検索サービス「Googleブックス」で調べたところ、「田中裕司氏著『希望のイチゴ』扶桑社、2016」がヒットした。

その中の第3章に「日本は世界第3位の“農薬大国”」という項目があり、堤氏の『日本が売られる』とまったく同じグラフ(表4)が登場する。統計処理法、表題、脚注、そしてその誤字(正しくはFAOSTATをFAOSTALと誤表記)まで一式まったく同じだ。つまり、堤氏のグラフは『希望のイチゴ』からの丸パクリなのだ。

表4『希望のイチゴ〜最難関の無農薬・無肥料栽培に挑む〜』

堤氏はその剽窃(ひょうせつ)したグラフをもとにして自分で調べた真実のようにこう語る。「1位は中国、2位は韓国、3位の日本もじゃんじゃん使う」―日本の農産物に対する不安を煽って終わりだ。本文中で、その統計が何を示しているのかさえ、一切説明しない。

いや、できない。日本農業を貶めることだけが目的で、もともと農業に対する知見もリスペクトもないデマゴーグたちだから仕方がない。

筆者が代わりに解説しよう。

このFAO統計が示しているのは「国別・耕地1ha当たり農薬使用量(有効成分の重量)」である。各国の農薬使用量を各国の耕地面積で割って計算される。もっともらしいが、面積当たりの農薬使用量は作物の種類や栽培方法、期間、病害虫の種類、密度などによってまったく違う。

以上の条件を一緒くたにして、この統計が示すのは各国の耕地面積1ha当たりの農薬使用量の平均値である。この平均が曲者である。それぞれの国の耕地において、果物など病害虫に弱い作物や施設園芸など狭い場所で密植する野菜面積の比率が高ければ平均値は上がり、それに比べ病害虫被害が少ない穀物面積比率が高い国の値は低くなる。

その証拠に最新統計(2016)の表5を見てほしい。面積当たり農薬使用量が上位に来る国は病害虫被害に遭いやすいトロピカルフルーツなど果物の生産が盛んな南の小さな島国が多い。

表5:@yoshiasakawa作成

次に多いのはイスラエル(8位)、台湾(15位)、日本(16位)のように国土が狭く海に面した高湿度の農業先進国だ。施設園芸が盛んで、年中野菜を作っているから平均使用量は上がる。湿度が低く、冷涼な国でも、施設園芸の盛んなオランダ(19位)の順位は高く、日本とあまり変わらない。

ちなみに、冒頭で引用した拓殖大学の竹下・農業コース教授は、この農薬使用量比較で、イスラエルやヨーロッパ農業を礼賛し、「日本の農薬使用量は中国並み」「日本は農業後進国」「最先端技術を駆使したイスラエルの農法を学べば、日本の農業問題はほとんど解決できる」と豪語するが、支離滅裂だ。まず農薬使用量がイスラエル(8位)の方が日本(16位)より多い時点で自説が矛盾するだけではなく、さらに中国(10位)より低い時点で崩壊している。そもそも、この統計から各国の農業技術の優劣を比較している時点で農業の素人と言わざるを得ない。

一方、面積当たり農薬使用量の下位に来るのが仏・独・米などだ。作期が長く、農薬を年中使う果物や温室野菜と比べ、短い作期かつそもそも農薬使用量が比較的少ない穀物の面積比率が圧倒的に高いから平均は低くなる。

他方、穀物比率が高くても、二毛作ができる温暖な国では冷涼な一毛作の国より平均は高く出る。もっと言えば、面積当たり農薬使用量統計でさらに下位に来る国々は北欧や砂漠の国などだ。病害虫が越冬しづらかったり、乾燥地帯でもともと病害虫の密度が低いから農薬が少量で済む。

最下位層の国々になると気候もほとんど関係ない。そもそも化学農薬が入手できなかったり、使っても商品作物として価値が生まれない開発途上国が大半を占める。

国別の作物の種類、作り方、気候や経済状況を無視し、農薬平均使用量を国際比較しても意味がない。読者に正確な情報を伝えたいなら、国別の平均値ではなく、国別かつ作物別単位面積当たりの使用量を集計すべきだ。同じ作物別なら基準がそろい、ある程度は国際比較の意味が出る。

作物別なら同じコメ作りでも、たとえば日本、米国、中国の稲作比較で、どの国がどんな農薬を使っているのか。理由は何か。病害虫の種類やそれに応じた散布時期や方法、成分の違いは何か。たとえば、同じ成分でも国別に農薬の使用量や回数が違うのはなぜか。各国のコメの残留農薬基準はどうなっているのか。データを用い、ファクトに基づきながら、建設的な議論ができる。消費者に対しても説明可能である。

ここまで書いても、日本農産物の危険を煽るデマゴーグたちはおそらく理解できない。それ以前に、彼らの面積当たりの農薬使用量の大小だけで、その生産国の農産物の危険度を判定する論点がいかに雑かおわかりいただけただろう。

人が摂取する残留農薬への言及はない

そんなに日本の農産物の危険性を訴えたいなら、圃場での使用量ではなく、実際に人が摂取する残留農薬について言及すべきだが、それはしない。

筆者が彼らに代わって解説しよう。

そもそも農薬の使用基準は、「健康への悪影響が生じない」よう定められている。具体的には、農薬の対象作物ごとにメーカーから申請された使用方法で使った場合、どれだけ残留するのかを調べ、その値が残留基準値を超えないようにその農薬の使用基準が決められるのだ。

残留農薬値の設定にあたって日本では、食品衛生法に基づき「食品中に含まれることが許される残留農薬の限度量」を厚労省が設定している。具体的には「健康への影響を判断するための指標が二つ」設けられている。

「農薬を長期間(生涯)にわたり摂取し続けた場合に、健康への影響がないかの指標:一日摂取許容量(ADI)」(脚注1)および「農薬を短期間に通常より多く摂取した場合に、健康への影響がないかの指標:急性参照用量(ARfD)」(脚注2)である。

注1:ADI(Acceptable Daily Intake):ヒトがある物質を毎日一生涯にわたって摂取し続けても、健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量。
注2:ARfD(Acute Reference Dose):ヒトが24時間、またはそれより短時間の間の経口摂取によって、健康に悪影響が生じないと推定される摂取量。

食品を通じた農薬の摂取量がこれらの指標を下回ることを確認し、残留基準が設けられているのだ。

でもどうやって、人体が摂取する残留農薬を計算しているのか。それが「TMDI:理論最大1日摂取量」である。これは、「残留基準値×あらゆる食品の平均摂取量」で試算される。その意味するところはこうだ。

まず、残留基準の設定により、各食品に農薬がその基準いっぱいまで残留していると仮定(最大値)する。そのうえで食品ごとに当該農薬の摂取量を算出し、その値を全食品で積み上げることにより推定する値である(注:ちなみに、厚労省は日本におけるありとあらゆる食品の摂取量を調査。国民平均のTMDIのほか、幼小児、妊婦、高齢者といった集団ごとも調べている)。
ポイントは、その総和がADIを超えていないかどうかだ。

人の健康によって肝心なのは、消費される食品全体を通じた農薬摂取量であり、ADIに基づく残留農薬のリスク管理の視点である。

そうはいっても、上記の数値は理論上の推定量に過ぎず、実際に我々が日々の食生活で摂取している実際の農薬摂取量はもっと多いのではないか、という反論もあるかもしれない。

その疑いに対する回答は簡単だ。農薬のリスク管理制度は3点セットで、理論と実際が検証される仕組みになっている。

一点目がすでに解説した「農薬の残留基準値の設定」、もう一つが「残留農薬のマーケットバスケット調査」、そして3点目が「残留農薬のモニタリング検査」である。

マーケットバスケット調査では残留農薬の一日摂取量を調べる。市販の様々な食品を組み合わせ(各食品の国民の平均摂取量に基づく)だけではなく、食品に応じて煮る、焼く等の調理を加えたものをサンプルとして、残留農薬の検査を行うもの」(厚労省)だ。この調査により、「理論最大摂取量(TMDI)による推定に比べ、食事を通じて人が摂取する農薬の量をより実態に近く推定することが可能」(同上)となる。

毎年行なわれているが、これまでの調査結果を見ると、我々が実際に摂取している残留農薬はADIの約100分の一程度であることがわかる。

ここから、残留基準値を超えないよう定められた農薬の使用基準によるリスク管理の仕組みが全体として機能しているといえる。

それでも、個別の農産物や輸入野菜等で残留農薬を超えるものもあるのではないか、という危惧を表明する人もいよう。この懸念に対応しているのが、まさに3点目の「残留農薬のモニタリング検査」である。

厚労省や自治体が輸入食品や国内流通食品に対して、残留農薬の抜き打ち検査を実施している。ニュースや地元でそうしたケースを見聞きしたことがあるだろう。残留基準違反は公表や廃棄等の措置が取られる。

そうした公的検査に加え、農産物の生産や流通に携わる業界では「残留農薬の自主検査」を行なったり、その前に生産者は防除暦を記録し、取引先に提出したりといったことが一般に行なわれている。

以上のような官民の努力を一切無視し、“国際的に見て日本の農産物は農薬まみれで危険”を主張する輩たちは皆、我々日本農業界にとって、信用棄損者であり、営業妨害者である。

今後もデマを続けるようなら、農業界が一丸となって抗議し、お詫びと主張の撤回を求めていくべきである。

残留基準についてもっと知りたい方はこちら

筆者

浅川芳裕(農業ジャーナリスト、農業技術通信社顧問)

 

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