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Vol.38 断食VS四毒抜き! 永遠に平行線な“陰謀食バトル”見物【不思議食品・観察記】

コラム・マンガ

科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。驚くべき言説で広まる不思議食品の数々をウォッチし続けている山田ノジルさんが今回注目するのは、「四毒抜き」健康法への、アンチ言説。今年2月には、陰謀論者としても知られるあの有名ジャーナリストが新刊にて、四毒を切り込みに行きました。その四毒抜きの提唱者は先日Xに「救急搬送された」と救急車内で撮った画像をポストしてひんしゅくを買いました。クセの強い猛獣同士だけにバトルは必至!? アンチ四毒本を読んでみたレビューをお届けします。

仲良くケンカしな⁉ 陰謀論者の突っ込み本

健康法として定着してしまった感のある「四毒抜き」。当連載の過去記事でも紹介しましたが、意外なほどの息の長さを見せてくれています。ハッシュタグや売れ筋ランキング、各種SNSのコミュニティでも、なかなかの存在感。

四毒とは、元参政党幹部、現在は日本誠真会党首の吉野敏明氏(以下、よしりん氏)の提唱した「食ってはならない4大食品」のこと。理由として、日本人の体質に合わないからだと主張しています。「小麦・植物油・乳製品・甘いもの」は、歴史・文化・体質とミスマッチしているので、真の食事で健康を取り戻そう! というわけですが、世界観が一般のそれとはだいぶ違い(前記事 Vol.33ご参照)、「目覚めた人」の見る異世界です。しかし意外にも、巷で広く受け入れられているのは、薄目で見れば「少しユニークな和食回帰」くらいにとらえることができるからなのかもしれません。

そんな四毒は、もう何年も各方面から「物申す!」と突っ込まれまくりですが、2026年2月には、吉野氏と同じ界隈の住人である社会派ジャーナリストの船瀬俊介氏(以下、船瀬氏)も満を持しての風情で参戦。改めて紹介するまでもなく、船瀬氏は古参のビジネス陰謀論者としてもよく知られる、超超有名人です。

船瀬氏の有名著作は1999年発行の『買ってはいけない』(週刊金曜日)。同書には複数の共著者がいるが、船瀬氏担当のテーマには面白い物も多い(一世風靡した引き締め効果のあるクリーム「スヴェルト」とか)。しかしやはり「マクドナルドの肉はミミズが入っている」を広めたのはひどすぎて、インパクト特大でしたね。

そのほか船瀬氏は、アンチミルク&白砂糖、反ワクチン、反医療など、いわゆる「主流」を殴って回る※、ファイターです。陰謀論の文脈から、ヴィーガンと断食も全力推し。ついでに自然派界隈で有名な、故・真弓貞夫医師の遺志を継いで活動しているといった記事も見かけます。よしりんとは、比べ物にならぬほどの、圧倒的なキャリアだといえるでしょう。

※もちろん比喩。ってことまで書かないと、ガチの暴行だと思われる、最近のネット社会……。

とはいえ波動医学や陰謀論など、よしりんとの親和性は非常に高い。ですから今回のガチンコは、外野から見れば完全にトムとジェリー。エンタメとして、どうぞ仲良くケンカしてろ……でしかないのですが、一応手にしてみることにしました。新刊のタイトルは『やるな!「四毒」』(興陽館)。キャッチコピーは「信じた人は早死にする。」とは、攻めてるぅ。

『やるな四毒!』その内容は?

読了。凄かった。四毒実践者たちが「わかってない!」とお怒りなのも、ごもっともであった(別に筆者は四毒支持でもなんでもないが)。「そんなこと言っとらんがな」という曲解の嵐だったので。これは船瀬氏ファンも、しょんぼりしちゃうんじゃなかろうか。

四毒のひとつが、植物油。だから実践者たちは動物油に殺到している、と主張しているのです。目覚めた菜食者という設定の船瀬氏にとっては、肉こそが健康の最大の毒。ラードに牛脂、超加工肉、どれもこれも大病の原因!! 四毒実践者が肉まみれなのは、よしりんはお肉大好きと公言して、毎日水炊き食ってるって言っているのが証拠! 肉を推奨するとは何事か! というのが大筋でした。船瀬氏が絶賛推す「断食」を否定していたことへのお怒りも、だいぶ大きいようです。

続いては、悪魔勢力(イルミナティ、フリーメイソン、ディープステート)による人類支配だという、おなじみの陰謀論が展開されていきます。

つまり「肉」という一点突破で、我田引水。読み進めていくうちに「四毒、どこに行った……?」と迷子を捜す、保護者の気分。

医学も栄養学も、人類支配の洗脳装置。その目的は、地球の人口を5億人まで削減すること。だから戦争、医療、栄養という手段で、人を抹殺する計画なのだ。食べなきゃ治るのに、専門医は全員頭を丸めろ! 少子化対策⁉ 断食すれば、子どもも生まれる! これ、畜産の世界でも常識! つまり言語道断な四毒抜きヨシリンは、悪魔勢力の道具のひとつとして使われているようなものである……と。

そして訪れる終盤は、波動装置・波動療法の宣伝。断食、栄養学、波動医学を学んでください! なる呼びかけでフィニッシュ。よしりんのクリニックや政治について「正気を疑う」と強い論調で書かれていますが、どっちもどっち過ぎました。

ちなみにこれらのお説は基本、千島学説※が根拠となっているので、それを否定する世界の我らには、難しすぎたのかもしれません。

※生物学者・千島喜久男が提唱した独自の生命理論。現代医学の常識とは全く異なり、「現代医学が隠している真実」として扱われるケースも多い。

対話・議論が成立しない世界

陰謀論、ヴィーガン、断食、アンチミルク、アンチ白砂糖、反医療。アンチ四毒本は、四毒を枕にした船瀬氏の発信まとめ本でした。これを味わうと、あら不思議。四毒情報だけならば、あのよしりんが、だいぶマイルドに見えてきました。どうかしている発信のほうが多いよしりんですが、界隈の中ではマシに見えてしまうのはズルいわー。

さて、そんな内ゲバじみた茶番劇はさておき、船瀬氏のロジックについて少し視点を変えてみたい。そこには、昨今のネット空間に溢れかえる「ある光景」が象徴的に現れていたように思います。

「よしりんの『四毒』は植物油を槍玉に挙げるくせに、なぜ動物油の害に触れないのか!」

船瀬氏が綴るこの憤りは、自分の聖域(こだわり)を汚されたと感じて勝手に憤慨し、エアリプを飛ばす、SNSで見かける光景に思えました。さらに相手を「勉強不足」「無知」と見下すその言葉の裏には、「ワイのテリトリーに触れるなら、ワイと同じ理論と作法で語れ」という身勝手な押し付けも透けて見えます。

こうしたトラブルが起きると、決まって「対話が大事」と説く者が現れます。しかし、これは四毒に限った話ではありませんが、前提となる土俵が根本から違う者同士において、対話など所詮ポーズに過ぎません。一部に共通点があったとしても、彼らの主張は永遠に交わることのない平行線をたどるだけ。議論として成立するのはなかなかに困難でしょう。

船瀬氏×よしりんという対戦カードの場合は、栄養学という皮を被りながらも、実際には科学的根拠に基づいた検証ではない以上、自分の信じている物語を、比べあう堂々巡りでしかないように思えます。

侮れない「物語」のポテンシャル

以前も触れましたが、四毒抜きにせよヴィーガン(あるいは時々の断食)にせよ、極端な食事制限を取り入れればダイエット効果が出るのは当然のことです。

この「制限の多さ」という点では、かつて流行した「糖質オフ」も同様でした。当時の体験談でよく耳にしたのは、外出先での食事の難しさです。街で見かける手軽な食べ物は大半が炭水化物(糖質)であるため、食べるものが見つからず苦労するという話が絶えませんでした。

自分の仕事仲間も糖質制限中、「外出先で食べられるのはケンタッキーくらい(衣を剥いで食べていたのでしょうか?)」、「コンビニで買えるのはプレーンヨーグルトかサラダチキンだけ」とこぼしていたものです。

私自身も実践したことがありますが、これは想像以上にめんどくさかった。毎日「いかに飽きずに鶏むね肉を食べるか」という戦いに明け暮れる日々。単に「痩せたい」という程度のモチベーションでは、継続の難しさを痛感せざるを得ませんでした。

一方、「四毒抜き」では、よしりんが提示する「物語」が、モチベーション維持に大きな役割を果たしそうです。もちろん、その独特な世界観を受け入れるという高いハードルはありますが。

「世に溢れる旨そうな食い物は、すべてまがい物である」と断じ、日本人のアイデンティティを重んじながら、「目覚めた」仲間と共に正しく清らかに生きる――。

単に「痩せたい」という動機よりも、こうした壮大な物語に没入する方が、継続する力は格段に強くなるでしょう。他の意識高い食事法にもある他者を見下ろすような選民意識的な側面は否定できませんが、修行のような食生活さえも、強い「使命感」によって乗り越えさせてしまう不思議な力がそこにはあるのかもしれません。

こうしたコミュニティは他者から否定されるほどに、絆が強くなっていくといいます。すると、船瀬氏がヒールを買って出たことにより、四毒はますます盛り上がっていくのでしょう。

グルテンフリーなどと接続して、アメーバーのようにさらに浸食していく様を、今後も観察していきます。

 

【不思議食品・観察記&沼物語】記事一覧

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