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農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート22〉【ナス農家の直言】
今回も、
「農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート22〉」
をテーマに、農家の私が農業に関する誤解やウソを正していきます。
1.(中)農薬の歴史は浅すぎるから安全かは分からない!
「農薬が安全かどうか判断するには、時期尚早だ!」
と、農薬に対して文句を言っている人がいます。
しかし、農薬の歴史は意外にも古いのです。
日本の農薬で確認されてる最古の使用例は、17世紀末の鯨油だそうです。
つまり、少なくとも300年以上の歴史があります。
近代的な化学農薬については、1930年代のDDT(製造中止済み)という殺虫剤から始まったようです。
化学農薬にも100年近い歴史があり、その歴史の中で、安全性に関する様々な法律の規制や見直しがあります。
今農薬登録されている農薬は、その農薬の安全性の歴史の上にあるのです。
歴史が浅いから安全ではない、という批判は的外れです。
2.(二)農薬の法律の歴史が浅すぎる!
「農薬は古くから使われていたかもしれないけど、農薬を取り締まる法律はまだ歴史がない!」
という反論が飛んで来そうなので、先回りしてお答えします。
農薬に関する法律=農薬取締法は、1948年(昭和23年)に制定されました。
当時は戦後の食料危機のため増産を急ぐあまり、粗悪な農薬も出回っていて、農家に農薬の被害が出てしまう例が少なくありませんでした。
そのため不正粗悪な農薬を追放し、農薬の品質保持と向上を図ることを目的に、農薬取締法が制定施行されたのです。
農薬取締法が制定された後も、環境汚染や健康に関する国民の意識が高まるなか、1963年・1971年・2002年・2018年と時代に合わせた改正が行われてきました。
どの年代の改正も、農薬の安全性をより厳しく評価する内容に変わっています。
農薬取締法にも、70年以上の歴史と安全性に関する改正があるのです。
3.(三)光合成培養液を使えば、無肥料無農薬!
これは某政党の関係者の投稿の内容ですが、農家の私も光合成培養液という言葉は初耳です。
正確には似たような名前の資材は存在しますが、それでも光合成培養液なる資材を使うだけで無農薬無肥料が可能になるなんて、世紀の大発明です。
ぜひその資材を公開して、全国の慣行栽培農家に実地試験をしてデータを出しましょう!
この某政党の党首は、以前ネット番組でひろ〇きさんに、「データ出してください」と言われてましたが、まだデータを出されていないようです。
光合成培養液に関しても、ぜひご一緒にデータを公開してください。
4.(一)農薬はワクチンの普及と同じ図式だ!
「コロナワクチンを思い出せ! 農薬を普及させたらそれと同じ図式になるぞ!」
このようにデマ屋は、農薬の議論で劣勢になるとすぐにワクチンと結びつけて話をずらします。
ワクチンについては詳しくないので、これ以上ワクチンに対する言及はしませんが……、論理が破たんしているので、陰謀論で強引にワクチンの話にずらして、自身の主張を正当化して気持ちよくなりたいだけに見えてしまいます。
「なんだ、陰謀論か」と世間に呆れられ、賛同は得られないでしょう。
農薬の危険性を世間に広めたいのであれば、陰謀論にこじつけずに、誰にでも分かるように説明してください。
5.(左)山の土と食べ比べれば、いい土か分かる!
オーガニック系インフルエンサーの方で、このような発言をしている方がいます。
「農薬や化学肥料を使っていれば分かる!」ということなのかもしれませんが……
土を食べること自体が危険です!
どんな微生物がいるのか、分かったもんじゃない!
農家ですら、自分の農地の土を食べませんよ!
良い子は絶対にマネしないように!
6.(右)グリホサートを空中散布している!
「訴訟が連発されている危険な農薬をドローンで撒いているなんて!」
つまり、ヘリコプターやドローンでグリホサートの除草剤を散布しているという批判です。
たしかに非選択性除草剤を空中散布出来たら楽でしょうけど、現実にはありえません。
空中散布が認められている農薬は、まだまだ少なく限られているからです。
グリホサート系除草剤のように認可されている農薬であっても、認められていない使い方をすれば、農薬取締法に違反します。
グリホサートと言えば、インプレッションが稼げるのでしょうか?
7.(捕)グリホサートに耐性のある雑草はどう対処するんだ!
「グリホサートばっかり使ってると、変異して効きにくい雑草が出てきたらどうするんだ!」
と、抵抗性のある雑草の出現を不安視している人もいます。
たしかに農家の私でも、グリホサートが効きにくい雑草はあると実感しています。
じゃあ現場では除草作業が出来ずに作業が進んでいないのかというと、全くそうではありません。
グリホサート抵抗性雑草はグリホサートが効きにくいだけで、他の除草剤には抵抗性はないからです。
そして以前の記事でも紹介したように、除草方法は他にもあるのです。
根っこごと枯らすグリホサート系除草剤は、特に使い道が限られるので、私の中では優先順位は低いです。
ただ、雑草の変異や抵抗性に関して、これからも注視することは必要というのが、農家の私の意見です。
8.(遊)リンの肥料は不要!
「肥料としてのリンは要らない!」
と、私にある農法のURLを送ってきた方がいました。
リンは肥料として吸収されにくい成分で、地中に残りがちです。
そして肥料を極力控える農法があるのは事実ですし、それを否定するつもりはありません。
だからと言って、作物にリンは不要とは言えません。
リンがゼロでは作物はまともに育たないのは、農業の教科書にも載っている基本です。
農家に反論があるのであれば、まずは基本的な教科書を読んでからにしてください。
9.(投)有機JAS認証が3日で取れる商品がある!
某天然塩を売っている人が、「3年かかる有機JAS認証を3日で取れるようになる」商品を販売するそうです。
これは間違いなく、ぼったくり商品です。
有機JAS認定を取るには、多年生の作物では3年以上化学肥料や化学農薬を使用しないことが条件です。(それ以外の農産物は、播種又は植付け前2年以上)
つまり有機JAS取得には、2~3年以上前から準備しないといけませんが……
2~3年の期間を、3日に短縮できると言うんですかね?
時間軸を操れる商品なのでしょうか?
ギャグにしては面白いですけど、この程度では人は騙せません。
……騙される人、いませんよね?
まとめ
農家が見ればギャグみたいな農薬デマもありますが、消費者の方は分からないデマもあるかと思います。
胡散臭い情報には、まずは冷静になって簡単に信じないことです。
筆者ナス男(ナス農家&サイト「農家の決断」管理人) |