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医学情報に一喜一憂しないための科学論文の見極め方

コラム・マンガ

医学の研究成果は毎日のように発表され、代替医療に関するものもあります。医学研究はよくニュースに取り上げられますが、科学雑誌に掲載されている記事を正確に理解するのは容易ではありません。かかりつけ医などに意見を聞く以外に、医学研究の基礎知識や専門用語がわかるようになると、より適切な健康判断ができるようになります。ここでは、科学研究論文を理解する上で知っておくと役立つポイントを9つ紹介します。

1.科学論文の構成に注目

科学雑誌に掲載される論文はほぼどれも同じ構造で、5つのセクションで構成されます。

・要旨(アブストラクト)・・・要点を簡潔にまとめたもの
・研究方法・・・研究方法の詳細
・結果・・・研究で得られたデータや、データの分析など。ここではデータの評価はしません。
・考察・結論・・・研究結果についての著者の考えや意見。ほかの研究者が常に同じ解釈をするとは限りません。その研究が自身の健康に関係するかどうかがわかるのはここです。
・参考文献・・・研究の方法や結果を解釈するのに参考にした過去の論文。

2.研究の種類で目的が異なる

研究の種類によって、プロセスや目的が異なります。

「基礎研究」の目的は、生命活動の基礎的なプロセスや、ある治療法が体に影響を与えるメカニズムを理解することです。

「トランスレーショナルリサーチ」の目的は、臨床試験の効果と安全性を厳格にチェックするため、必要な情報を段階ごとに構築していくことです。基礎研究もトランスレーショナルリサーチも、実験室で行われるものと、臨床現場でボランティアを対象に行われるものがあります。

「臨床試験」の目的は、ある治療法が人に対して有用で安全であるかどうかを検証することです。規模や種類はさまざまです。適切に計画された臨床試験を行うことによって、新しい治療法やライフスタイルが効果的で安全であるかどうかがわかります。しかしそのような臨床試験は複雑で期間が長く、費用も非常にかかるため、通常まず小規模な研究を行い、効果が確認された場合のみ実施されます。

「予備的な研究や試験的な研究」は、その治療法が安全かつ有用であるかを知るための足掛かりとなります。それらの結果をもとに、さらに大規模で最終的な臨床試験を実施するかどうかが判断されます。

これらの研究はどれも非常に重要ですが、臨床試験は人を対象としている点でよくニュースに取り上げられます。したがって、以下は臨床試験に焦点を当てています。

3.研究の規模によって正確性、信頼性が異なる

一般的に、研究の対象人数が多いほうが信頼性の高い結果が得られます。偶然による結果の割合を抑えられ、研究の正確さがあがるためです。

たとえば、50人を対象にした試験で対象者の状態が改善されたとしても、それが治療によるものなのか偶然によるものなのか、統計的に判断できません。

一方で、500人を対象にした試験で改善された場合には、統計的に治療の効果であると考えることができます。

参加者が少なすぎると研究が失敗する可能性があるため、統計学者や科学者は、臨床試験がうまくいくために必要なボランティアの数を見積もるツールを使っています。

4.対照臨床試験であるかどうか

「対照臨床試験」では、他の条件は同じで治療法だけが異なる2つのグループに参加者を分けて、治療の効果を比較します。たとえば、新しい試験的な治療を受けたグループと、標準的な治療を受けたグループ(「対照群」)とを比較します。対照群は新しい治療の効果をみるための「基準」となり、この場合では標準治療が対照治療です。

対照群には様々な種類がありますが、参加者をいずれかのグループにランダムに割り振り、自分がどちらのグループなのか知らせないのが理想的です。そうすることで、受ける治療以外のほかの条件をそろえることができます。別の分け方の対照群が使われることもありますが、治療以外の要因が結果に影響する可能性が高くなります。

「プラセボ対照試験」では、対照群は研究されている治療に似せた偽の治療を受けます。たとえば、研究対象の薬とそっくりで、医学上は何の効果もない偽の薬などです。もう一つの例はシャムと呼ばれるもので、研究対照の治療が鍼治療のような行為である場合に使います。シャムは実際の治療行為に似せられていますが、なんら治療の効果のない偽の施術です。プラセボ対照試験を行う際には、治療を施す研究者もボランティアも、自分がどちらの治療グループなのかわからないようにします。こうすることによって、ボランティアに自分の受けている治療がどちらなのか知られにくくなります。

5.バイアスの回避

臨床試験において、思い込みなどのバイアスを取り去ることは容易ではありません。患者自身も治験責任医師も治療内容を知ってると、いかに客観的に判断しようとしても、効果があったかどうかの判断に影響を受けてしまいます。したがって、バイアスを少なくするためにどのような措置がとられたか確認することが重要です。たとえば、誰がどの治療を受けたのか、被験者にも治験責任医師にもわからないようにする方法があります。研究者はつねに研究の客観性を保つよう努力しなければなりません。

6.利益相反

利益の相反やその他のバイアスの原因がないか調べるのも重要です。研究資金の提供者が誰なのか確認しましょう。スポンサーおよび研究者が、研究結果から生じる金銭的利益やイメージアップと密接な関わりがないこと、同じような研究結果がほかの独立した機関からも出ていることなどをチェックしましょう。幸いにして、現在ほとんどの医学雑誌の記事には資金についての情報が記載されています。

7.過去の研究との比較

ほかの研究者からも同じ研究結果が出されることで、その治療法の有用性と安全が担保されます。研究結果が一つだけでは偶然の可能性を否定しにくく、別のボランティアと研究者による再現性が確認されてはじめて、結果の信頼性と有効性が確かなものとなります。また、独立した立場から複数の研究結果をまとめて、データの分析、評価を行うことはとくに有効で、システマティックレビューまたはメタアナリシスと呼ばれます。

8.統計的に有意だが臨床的に有意ではない

「統計的に有意」であるとは、試験群のあいだにみられる結果の相違が偶然によるものではないことを意味します。一方、「臨床的に有意」であるとは、その研究で観察された効果の大きさが十分であるということです。たとえば、2つのグループの治療効果に統計的有意な差が認められたとしても、その効果があまりにも小さい場合は、臨床で使用しても意味がありません。

9.研究が行われた時期

いつ行われた研究なのか、日付をチェックしましょう。国立医学図書館の医学文献データベース(PubMed)で、それよりも新しい研究があるかどうか調べることができます。

研究者の見解は、新しい発見で大きく変わることがあります。たとえば、ある補完的アプローチが有用であるという試験的な研究結果が、その後の大規模な臨床試験で否定されることもあります。

認知症に対するイチョウ葉の試験はその一例です。認知症の発症に対するイチョウの効果を調べるために最大規模の臨床試験が行われ、その結果イチョウの有益性は確認できませんでした。しかし、補完療法の治療効果を調べるうえで、対象者をランダムにグループ分けすることの重要性が認識され、高齢者を対象とした大規模な認知症予防の臨床試験の実施についての知見も得ることができました。

これらのポイントをチェックし、また自分でも何か疑問を持ったらそれについて調べてみましょう。情報をしっかりと把握し、賢い消費者になることが、正しい健康管理へとつながります。

 

※「健康研究の意味を理解するのに役立つ9つの質問(アメリカ国立衛生研究所)」を翻訳・編集した。

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