会員募集 ご寄付 お問い合わせ AGRI FACTとは
本サイトはAGRI FACTに賛同する個人・団体から寄付・委託を受け、農業技術通信社が制作・編集・運営しています

農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート40〉【ナス農家の直言】

農家の声

野菜の高騰にはじまり、コメ高騰ではJA悪玉論が噴出した2025年の農業界。年末の今回も、
「農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート40〉」をテーマに、
農家の私が農業に関する誤解や偏見を正していきます。

1.(中)化学肥料は火薬の原料だ!

「火薬の原料の硝石(硝酸カリウム)は化学肥料でも使われる!」
「火薬と同じ原料を使った野菜なんか食べてたら、病気になるぞ!」
という主旨の投稿をSNSで見ました。
たしかに硝酸カリウムが入った化学肥料はありますし、水に溶けやすいので、農家にとっては使い勝手がいい肥料の一つです。
しかし、硝酸カリウムは作物体内に吸収される時には、分解されてイオン化しており、硝酸カリウムのまま作物体内に残ることはありません。
硝酸カリウムをそのまま食べるわけでもないので、心配は無用です。

2.(左)山の水は農薬が入ってないから安全!

「平野の川の水は、農薬が流れてくるから怖い! 源流に近い水ほど安心して飲める!」
この投稿に関しては、正しい部分もありますが、間違いもあります。
たしかに平野部の農業用水を分析すれば、農薬は少なからず検出されるでしょうし、上流の水はキレイでごくごく飲めるイメージはありますが……
しかし、上流の水はきれいで農薬がないから安心して飲めるかと言われれば、そうではありません。
水質調査がされていなければ、キレイに見える水でも、どんな成分が入っているかは分からないからです。
野生動物のフンなどから、大腸菌やピロリ菌、寄生虫なども入っている可能性はゼロではないのです。
農業用水に流れている水を飲むのはおすすめできませんが、農薬が検出されない上流の水だから100%安全とは言えないのです。

3.(右)不耕起栽培にしろ!

「不耕起栽培」という言葉を、最近ニュースで時々見かけます。
不耕起栽培とは、文字通り耕すことをせずに、前作の残渣などをそのままにして、次の作の種や苗を植える栽培のことです。
不耕起栽培のメリットとしては主に、

  • 微生物層を崩さない
  • トラクターの耕運作業を省力化できる
  • 自然農にも通じる

があります。
広大な面積で穀物栽培などをしている海外では、耕すのにも相当な労力と時間がかかるので、不耕起栽培している例もあります。
一方で、不耕起栽培にはデメリットもあります。
向いている環境や土質、そして作物に依るということです。
ナスの場合、不耕起栽培すると、通常の栽培の50%以下しか収量が採れないというデータもあります。
不耕起栽培を否定するつもりは毛頭ありません。
それぞれの農家が、自身の農業経営に照らし合わせて、どんな栽培にするのかを考えればいいと思っています。
私は、さすがに収量を半分程度に減らしてまで、現時点で不耕起栽培をしたいとは思いません。

4.(一)ジャンボタニシ栽培で無農薬米を作ろう!

「ジャンボタニシを田んぼに撒いて、除草剤を使わずに米を作るぞ!」
「地域ぐるみで確立されたジャンボタニシ農法を、全国でもやればいいのに。」
昨年から今年にかけて、某政党の党員によるこれらの投稿が波紋を呼び、全国のニュースにもなりました。
スクミリンゴガイ(通称ジャンボタニシ)とは、

  • 元々は食用として輸入されていた個体が野生化
  • 繁殖力が強く、根絶が難しい
  • 食欲も旺盛で、田植えしたイネを1,2日で食べつくしてしまう
  • 環境省と農水省が作成した「生態系被害防止外来種リスト」に載っている

特に温暖地域で被害が広まっている、稲作農家にとっては厄介極まりない生物です。

水位の調節することにより、ジャンボタニシの動きをコントロールする除草方法があるのは事実ですが……
「ジャンボタニシ農法」は、ジャンボタニシの被害が広まってしまった地域が苦渋の策として行っていることであり、決してこの自治体も推奨しているものではありません。
もし偏った知識をかじっただけの素人が、ジャンボタニシを撒いてしまえば、迷惑以外の何者でもありません。
海外メジャーを毛嫌いしている方々が、外来種に頼る農法をするのは、矛盾しているような…
とにかく、外部からジャンボタニシを持ち込むのは絶対にやめてください!

5.(三)化学物質過敏症だから、無農薬しか無理!

「農薬まみれの野菜ばっかり食べさせられているから、化学物質過敏症になる!」
この主張は言い過ぎで、根拠がありません。
化学物質過敏とは、微量な環境中の化学物質に反応して、種々の多彩な症状を訴える症状のことです。
発生機序が未だ明らかにされておらず、治療方法も確立されておりません。
農薬も当然化学物質ですから、化学物質過敏症の発症の原因となる可能性はゼロではないのですが…
農薬が原因となっているかどうかについては、現時点では報告された事例はありません。
実際に化学物質過敏症の症状の方に聞いたところ、その方は慣行栽培の野菜を食べたとしても、調子が悪くなったりはしないそうです。
化学物質過敏症については、まだ分からないことも多いので、軽はずみな発言は慎むべきです。

6.(捕)味〇素がmRNA農薬を開発し始めた!

一部界隈で、度々批判の的にされている味〇素。
mRNA農薬の開発に乗り出すというニュースが流れた時も、SNSには、
「農業分野にも進出して、食をおびやかしている!」
などと、味〇素に対する批判的な投稿がありました。
しかし味〇素は2011年には、アミノ酸肥料などで農業分野に進出しています。
味〇素の農業分野進出を批判するとしたら、10年以上遅いです。

7.(二)スマート農業はDSの陰謀!

「AIやロボットを農業分野に導入して、喜ぶのは海外メジャーだ!」
「農薬を使っている大規模農家は恩恵を受けて、小規模の無農薬栽培の農家には何のメリットもない!」
近年よく聞くようになったスマート農業の推進に関しても、DS(ディープステート=闇の政府)の陰謀だとして、気に食わない方がいるようです。

  • 労力を軽減できて
  • 収量も上げられて
  • 農業勘のない初心者でも利用できる

農業人口が減り続ける今の時代では、農作業の効率化が必要不可欠。
農作業の効率化に寄与できるスマート農機具の導入に、私は大賛成です。
実際の農業の現場で使えるようなコスパのいいスマート農機具が、これからどんどん開発されてほしいと思っています。

8.(遊)新興国は農薬が買えないから無農薬栽培している!

「そんなに金持ちじゃない国では農薬が買えないんだ。」
「マレーシア国産の野菜は、ほぼ無農薬か減農薬だよ。」
との投稿があり、真偽を調べてみましたが、間違いでした。
マレーシアなどの新興国も、農薬を使った慣行栽培をしています。
日本と同じように、工業化や都市化の影響で耕作面積が減少しているので、食料を安定的に生産するためには農薬の存在が重要になる、とも言われています。
つまり新興国であっても、農薬の適切な使用は、食料生産には欠かせないものであると言えるでしょう。

9.(投)地産地消こそこれからは大事!

「地産地消」という言葉は、だいぶ消費者にも知られるようになってきました。
たしかに、地産地消(地域で育てた農作物をその地域で消費すること)は

  1. 輸送や費用の負荷も少ない
  2. 新鮮な野菜を消費者が手にできる
  3. 地域の活性化になる

など、メリットも多いです。
しかし農家の私としては、地産地消の欠点もいくつか見受けられます。

①例えば私の地域では、ピーク時に1日○○本以上のナスを出荷しますが、大量のナスを全て田舎だけで消費することができるのかは疑問です。
②温暖地域ではリンゴが育てにくいですし、極寒の地域では冬の間作物が生産できないので、100%地産地消で賄うことは難しいです。

台風などの災害を受けてしまえばなおさらのこと。
適地適作(その作物に適した地域で栽培する)も軽視すると、栽培の難易度はハードモード確定!
その地域で全ての農作物を栽培して賄うことは、現実的ではないのです。

③地産地消が、農家にとって一番利益が出るとは限りません。

自分の育てた野菜を、一番高く評価してくれる所に卸すことも、一つの正解のはずです。
農家の私としては、地産地消ももちろん大事ですけど、もう少し広い視野で見た「国産国消」を消費者の方におすすめしたいです!

まとめ

ジャンボタニシやJAの役割など、偏った農業の知識は暮らしや食生活の質を下げます。賢い消費者になるには多角的に、冷静に情報を集めることが大切です。2026年も皆さんの役に立つ農業情報を発信していきます!

 

【ナス農家の直言】記事一覧

筆者

ナス男(ナス農家&サイト「農家の決断」管理人)

 

 会員募集中! 会員募集中!

関連記事

記事検索
Facebook
ランキング(月間)
  1. 1

    農薬を落とすというナントカウォーターの勧誘を受けてみた(前編):63杯目【渕上桂樹のバーカウンター】

  2. 2

    Vol.6 養鶏農家が「国産鶏肉と外国産鶏肉」問題を語る【農家の本音 〇〇(問題)を語る】

  3. 3

    渕上桂樹(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

  4. 4

    第3回 グリホサートの科学と開発秘話【ラウンドアップ「枯葉剤」説の虚構 “反農薬・反GMO・反資本主義”活動家が作った構造的デマ】

  5. 5

    参政党の事実を無視した食料・農業政策を検証する

提携サイト

くらしとバイオプラザ21
食の安全と安心を科学する会
FSIN

TOP
会員募集中
CLOSE
会員募集中