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Vol.21 肥育・コメ農家が「有機農業の規格」問題を語る【農家の本音 ○○(問題)を語る】

農家の声

還暦過ぎた元経営コンサルタントの農家、有坪民雄です。あいかわらずマスコミでもSNSでも、農薬の安全性に関するデマが後を絶ちません。農薬の使用をまるで農作物に毒をかけるかのごとくイメージしている人が少なくないからでしょう。そうした人たちが有機栽培を支持しているわけですが、国際的な基準に準拠し日本市場で唯一「有機」「オーガニック」を名乗れる規格の「有機JAS」栽培では、相当数の農薬の使用が認められています。今回は有機農業の現規格の問題を通じて今後の有機農産物について考えてみたいと思います。

農薬使用と有機農産物の生産の原則

有機JASの栽培で使用可能な農薬を説明する前に、日本農林規格が定める「有機農産物」の生産の原則について見てみましょう。

https://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/attach/pdf/yuuki-437.pdf 

a)農業の自然循環機能の維持増進を図るため,化学的に合成された肥料及び農薬の使用を避けることを基本として,土壌の性質に由来する農地の生産力(きのこ類の生産にあっては農林産物に由来する生産力,スプラウト類の生産にあっては種子に由来する生産力を含む。)を発揮させるとともに,農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した栽培管理方法を採用したほ場において生産すること。

b) 採取場において,採取場の生態系の維持に支障を生じない方法によって採取すること。
と書いてあります。bは松茸やつくし(スギナ)など人間が栽培していない、自生している植物について触れたものですからここでは触れません。触れるのはaで、要は化学的に合成されたものを使ってはならない、環境への負荷をできるだけ低減した方法で栽培されなければ有機農産物として認めませんよということです。

有機JASの規格は生産の原則と矛盾してないか

この原則を見た上で、「日本農林規格 有機農産物」9ページにある付属書Bに掲載されている、使っていい農薬のリストを眺めてみましょう。ざっと見ると天然の材料で作られたものや、古くから使われていたものが多く挙げられています。

たとえば冒頭の、皆さんにもなじみ深い、蚊取り線香の材料でもあった除虫菊乳剤。除虫菊乳剤とピレトリン乳剤は基本同じものです。除虫菊の成分であるピレトリンが殺虫成分になります。ピレトリンはほ乳類や鳥類には安全性が高いことで知られていますが、魚毒性が非常に高いことでも知られています。昔は水田でコメを収穫するだけでなく、ドジョウやフナなんかも獲っていました。そこにピレトリンをまくと、ドジョウやフナが死んでしまいますし、川に田の水が流れ出すと当然、川の魚が死にます。そのため、今でも野菜などでは使えても水田では使用禁止です。

ほかにマシン油という農薬もあります。これは石油から精製された機械油です。あれ? 化学的に合成されたものは禁止なのに、どうして機械油を使っても良いのでしょうか? 合成されていない、精製されたものだからいいのでしょうか? 銅剤にも同じ疑問がわきます。成分は銅(無機銅)ですが、銅鉱石を熱して精錬しないと銅は得られません。

さらに石灰硫黄剤は消石灰と硫黄を加熱混合して作られますが、これは化学合成ではないのでしょうか? 同じく硫酸銅と消石灰とを混ぜて作るボルドー液も同様です。

いくつか挙げましたが、これらの薬剤は「有機農産物の生産の原則」に合致しているでしょうか。ピレトリンは害虫も殺しますが、魚も殺します。マシン油をまくのを、環境に良いと言う人はいないでしょう。

石灰硫黄剤は強アルカリで硫黄温泉の臭いがします。皮膚や目に刺激性があり、散布する人にとってかなり危険な薬剤です。硫酸銅はボルドー液にして使いますが、硫酸銅単独では毒劇物指定されており、消石灰と合わせボルドー液にしないと危険な代物です。そのボルドー液も人が吸入すると危険ですし、目に入ると失明しかねない損傷を引き起こします。

同じく目に入ると失明の危機がある消石灰は石灰石を焼成して作られる生石灰に水を加えて作ります。化学反応としては石灰石・CaCO3(炭酸カルシウム)→生石灰・CaO(酸化カルシウム)→消石灰・Ca(OH)2(水酸化カルシウム)です。

一見、「有機農産物の原則」にはもっともらしいことが書いてあるのですが、細部まで目を向けると矛盾しています。私にはインチキ臭く見えてしまいます。

現代農薬の使用こそ有機生産の原則に合致する!?

これに対し、化学合成された現代の農薬はどうでしょう?

ピレトリンは、いわゆる合成ピレスロイドのモデルとなった物質です。ピレトリンの殺虫性能は高かったのですが、先に挙げた魚毒性以外にも農薬として使う上でいろいろ欠陥がありました。そのため合成ピレスロイドの歴史は、ピレトリンの欠陥を潰していく歴史になりました。あまり売れなかったせいか数年前になくなった*シラフルオフェンという農薬は、魚毒性は全く問題なく、2週間程度の薬効を維持した後分解する、農薬としての性能も安全性もピレトリンよりはるかに優れたものでした。

*シラフルオフェンは農薬としてはなくなりましたが、農薬以外の用途ではまだ使われています。

批判が多いネオニコチノイド系農薬は、新しい農薬を作ってみたら偶然ニコチンと化学構造が似たものになったことでネオニコチノイド農薬と呼ばれます。ネオニコチノイドで今、最も売れているのはジノテフランと言う薬剤だと思いますが、これもシラフルオフェン同様、魚毒性は全く問題ないため、水田でも使われています。毒性は、同じ神経毒であるカフェインの1/10くらいでしょうか。カフェインは、もちろんお茶やコーヒーに入っている成分です。

そうした農薬の歴史や今の薬剤の性能を一つ一つ見ていくと、こんな結論になります。

有機栽培で使っていいとされている農薬は、有機農産物の生産の原則から外れているものが少なからずある。外れている薬剤は20世紀以前の化学農薬がまだできていなかった時代のものと言っていい。20世紀初頭から始まった化学合成農薬の歴史は、欠陥も多かった19世紀以前の農薬の欠陥を克服する歴史であった。そして迎えた21世紀、19世紀の古い農薬よりはるかに安全で環境に優しく機能性に優れた使い勝手のよい進化した薬剤(農薬の有効成分)も出てきている……。

ならば、有機農産物の生産の原則と矛盾するような、欠陥の多い19世紀の農薬を使い続けるのは善なのでしょうか?

こんなことを書くとびっくりされるかも知れませんが、今の農薬開発者は、人体への安全性など全く開発目標にしていません。そんなものは達成されていて当然で、達成されないモノを出すと他の農薬メーカーから笑いものにされますし、農薬登録が認められず、開発費用も全てムダになります。

農薬メーカーの開発競争の舞台は、とうの昔に環境負荷の低減に移っています。その結果生まれたのがシラフルオフェンやジノテフランといった最新の化学農薬なのです。もちろん農薬メーカーの環境負荷低減の努力はこれからも続きます。

とはいえ、今、市販されている農薬の全てが環境に優しいものばかりではないので、慣行栽培の方が絶対安全などと言うつもりもありません。私が主張したいのは、人と環境に優しい農業をするなら、その目的に合致した最高の資材を使うべきであり、農薬も同様に考えて選ぶべきではないのかということです。

有機農産物の生産の原則という、矛盾の多い原則で指定された旧式の農薬より安全で環境に優しい化学農薬があるなら、ちゅうちょなくそっちを使う。それが安心安全な農作物を作る農家のすることではないでしょうか。

さらに言えば、安全安心な農作物を作る上で、有機JAS農産物の栽培原則はもはや古いとさえ言えるでしょう。むしろ本当の安全安心な農作物を作ろうとする農家の足かせになっていると言ってもいいかも知れません。

有機JASの原則を越える新原則が必要

今、必要なのは、有機JASの原則を越える安心安全な農作物を作れるように原則を作り直すこと。作り直された原則(新規格)に準じて作られる農作物はおそらく「有機栽培」ではなくなるでしょう。しかし現規格の有機栽培より安心安全な農作物ができる。それを私は「環境負荷低減作物」といった名前をつけて認証するのがいいと思っています。

もちろん「有機JASの原則なんかクソくらえ! オレは有機JASで指定された農薬も使わずにやってるわ!」などとおっしゃる方は、引き続き有機JASの認証を得られます。有機栽培がなくなるわけではありません。むしろ、一部の有機農家が「環境負荷低減作物」に移ることで有機農家の農産物の希少性が増して高価に取引されるようになり、結果、Win-Winの関係になると予想しています。みなさんはどうお考えですか。

 

【農家の本音 〇〇(問題)を語る】記事一覧

筆者

有坪民雄(肥育・コメ農家)

 

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