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Vol.19 野菜農家が「オーガニック給食推進」問題を語る【農家の本音 〇〇(問題)を語る】

農家の声

中部地方の野菜農家SITO.です。今般、「オーガニック給食」の推進を地元自治体に働きかける活動が日本各地で散見されます。この潮流に対して私はかねてから「それは誰のためにやっているのか」という疑問を持ち続けています。理由はいくつかあります。慣行農家の一人として本音で語ります。

慣行農業を等閑視してませんか

等閑視(とうかんし)とは「注意を払わずないがしろにすること。物事をなおざり(=深く心にとめないこと)にすること」を指します。今般のオーガニック給食運動の裏で、まさに等閑視されているのが、従来型の農作物生産である慣行農業です。今までの経験上、一部の過激な方を除いてオーガニック給食を推進する人々が、正面切って私たち慣行農家や栽培する慣行農産物を糾弾することは稀です。

しかしその一方で、慣行農業について正しい知識を持っている人が少ないことには危機感を抱かざるを得ません。「慣行」と「オーガニック」の二つを前にしていても、彼らはオーガニックの方しか見ていないからです。学校給食は規格通りに安定供給される慣行農産物を当然のように使用することで、子供たちの成長を支えてきた結果今日に至ります。ところが、オーガニック給食を推進する人々はこの系譜に注目しないのです。

ある現状Aに対して、ある変化を起こしてBに置き代えようとする場合、Aの何が問題で、それがBによっていかに解決・改善されるかを詳らかにすることが必要です。しかし彼らにはそれがない。現行給食の解決・改善されるべき問題点すら明らかになっていないのが現状です。私は正直腹立たしいというより、寂しさを感じます。

本当に「こどもたちのため」ですか

「え、オーガニックは安全だし身体によくて栄養も豊富だから給食の質が改善されますよね」などと答える方がいます。いやいや最初に言いましたよ。慣行農業を等閑視していると。

私は慣行農業で生計を立てているプロの野菜農家です。様々な論文やデータから、農産物の健康面、栄養面、安全性に関して、農法による差異がほとんどないことは自明なのです。

にもかかわらず「オーガニックは体に良い」「栄養豊富で安心安全」といった無理筋なキャンペーンには辟易とします。そうした発言には“オーガニックは”という主語が確かにあり、「慣行農産物は体に悪い」「栄養が乏しく危険」と事実を曲げて暗に比較されているからです。

これらをオーガニック給食推進の人々に指摘すると、十中八九「慣行農業を否定しているわけではない」と釈明されます。政治家もよく言います。では現行の給食に何の問題があるのかと問うても、明確な答えが返ってきた試しがありません。オーガニック化が健康に良いのなら現行給食が不健康であるという事実が必要になるのですが「日本全国で慣行農産物を使用した現行の給食によって、子供たちの健康が脅かされている!」という事実は存在しないのだから当然です。

現行給食との比較優位性はほとんどないのがオーガニック給食の実態で、だからこそ彼らは慣行農業を等閑視するのです。慣行農業や農法などについて深く知れば知るほど、オーガニック給食はその存在意義を失ってしまう。だから慣行は置き去りにするしかないのだと思います。

私には彼らがオーガニック給食という手段を使いたいだけで、「コドモタチノタメニ」という目的なき目的を振りかざす道化にしか見えません。これは大人のエゴであり、主客転倒も甚だしいと思います。日本での有機農業の普及率は依然として低迷しており、オーガニック農産物の売り先に困っている現状も耳にします。そんな折、給食は大きな受け入れ先として都合が良いのだと思いますが、差異の乏しいものに不正確なトッピングを施して推進するのは極めて不誠実な行為と言わざるを得ません。

差し迫る次の“フェーズ”

オーガニックが健康に良いとか、栄養が豊富だとかはいまだにSNS等で跋扈する誤情報ですが、オーガニックに関係する各種媒体、民間サイト、時に行政までもがこれらを言ってしまうことは残念でなりません。もしも、慣行農業を営む農家の子供が学校の食育でオーガニックの誤情報を受けとったとします。帰宅した我が子に「パパの作る野菜は体に悪いの?」と問われる親の気持ちはいかばかりか。

ここまで来てしまうとフェーズが1段階進みます。化学肥料や農薬を適切に使い安全で安定的な食料生産に資する慣行農業・農家への蔑視が始まるでしょう。こんな哀しい事態はなんとしても避けたいのですが、つい先日、有機農業の日(12月8日)を伝えるNHKのニュースで信じ難い内容を目にしました。

「ご飯を食べた男子生徒は『農薬を使っていないので安心して食べることができました。毎日、給食で出てほしいです』と話していました」

有機農業を伝える授業の中で「農薬を使った農産物は安心して食べられない」という誤情報の刷り込みがなければ、子供が自発的にこんな発言をするはずがありません。いよいよ国内農業の大部分を支える慣行農業に対して負のイメージが植え付けられていることに危機感を覚えました。このような非科学的な考え方が行政、そして国政にまで一部侵食してきていることは決して楽観視できるものではないと考えます。

さらに、給食をオーガニック農産物の「確実な売り先」として捉えている内容もありました。オーガニック給食に賛成する保護者の方々は、公金を使った新たな利益誘導とも言えるこの趣旨を本当に理解できているのでしょうか。

給食が慣行農産物から作られようが、オーガニック農産物から作られようがそれらに本質的な差異はほとんどありません。だからこそ健康や安全の優位性の誤情報を糊塗するしかないのでしょう。そんなもので子供たちを愚弄するのは絶対にやめて頂きたい。

オーガニック給食推進のデメリット

では、このような差し迫った状況で私たち慣行農家はどうすればよいのでしょうか。

科学的根拠を伴わないオーガニック信仰を今一度考え直す機会を、農家自ら積極的に創り出していくべきですが、個人的にはオーガニックそのものを否定する必要はないと考えています。ただ、公のお金が使われる「給食」に関しては、食の安全性は現行のもので十分に担保されており、オーガニックかどうかとは無関係であることは繰り返し周知徹底していかねばならないでしょう。

SNSの普及によって、デマや誤情報は放っておくと知らない間に蔓延してしまいます。しかもオーガニック給食推進運動において、農薬や添加物の危険性を訴える人の中には大学教授や行政職員すらいるのです。こうした影響力のある人たちへも根気強く指摘し続けていくことが重要です。

いまだに「農薬=発達障害や自閉症の原因」「オーガニック=健康に良い」といった、科学的に否定されている誤情報が世間に跋扈しています。この認識のままオーガニック給食が導入・推進されると、子供たちに間違った知識を与えるばかりか、何らかのハンディキャップを持つ子どもの親、さらには慣行農産物をつくる農家を苦しめることにもなりかねません。現在のオーガニック給食推進運動は、ありもしないメリットにみんながお金を払い、実際は差別や分断の種というデメリットを社会にまき散らす可能性が高いのです。割高なオーガニックをあえて給食に導入するより、現行給食を一層充実させて、子供たちにお腹いっぱいご飯を食べて欲しい。慣行農家としても親の立場からも切にそう願うのです。

 

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筆者

SITO.(露地野菜農家)

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