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食をめぐる市民の対立はなぜ起こるか 米映画「FOOD EVOLUTION」が教えてくれること

コラム・マンガ

こんにちは、小島正美です。本ブログ第41回の記事「人工甘味料は危険? 波紋呼んだ、大学共通テストの英文」で「専門家の意見の相違・対立が、世の中の争いのすべての原因だ」と書きました。ゲノム編集トマトが店に並ばない「バイヤーの壁」の背後にも、実はこの専門家の対立が潜んでいます。今回は、食や健康のリスクに関する争いには、常に専門家の対立があるということを話したいと思います。後半では、この事実をとても上手に表現したアメリカ映画「FOOD EVOLUTION」をご紹介します。

市民団体が、ゲノムトマト反対の申入書を提出

正美 ゲノム編集トマトをめぐり、先日、札幌市の市民団体がゲノム編集トマトの栽培や流通をやめるよう求める申入書を、販売会社の「サナテックシード」に提出しました。

ゲノム編集作物もそうですが、どんな場合でも、必ず異を唱え、それなりの科学的根拠を主張する学者がいます。ゲノム編集作物や遺伝子組み換え作物が危ないと主張し、栽培や流通を止めようとする市民団体も、ほぼ間違いなく、どこかの学者(理系の科学者とは限りません)の論文や意見に依拠しています。

科学的な知識に乏しい市民が「私は危ないと思う」と主張したところで説得力はありません。しかし、「○○大学の○○教授の説では危ない」と言えば、説得力は増します。

ママ美 ということは、結局、学者同士が対立しているということですか。

正美 そうです。別の言い方をすれば、少数派の科学者と多数派の科学者が常に対立・論争しているということです。放射線リスクや遺伝子組み換え作物、ワクチン接種のような問題になるとその争いが特に先鋭化するわけです。食や健康リスクに関する題材を約40年間、取材してきた結果、これはほぼ間違いないと考えています。

最近の新型コロナ感染をめぐっても、「インフルエンザで死亡する高齢者の多くはこれまで人工呼吸器をつけることなく、死んでいった。なのに、なぜコロナだと全員が人工呼吸器を取り付けられるのか。なぜコロナだけを特別視するのか。経済活動を止めたり、人の移動を止めることで別の疾患・死亡が増えたり、地域の文化や人同士の絆が失われる損害(リスク)のほうがはるかに甚大だ」(たしかに一理ありと思いますが)という学者や医師は少なからずいます。この考えに共鳴して、ワクチンを拒否したり、行政の規制に従わない人たちがいるわけです。

ママ美 報道を見ると、たいてい学者の意見が載っていますが、どちらの側の学者の意見を採用するかで記事のトーンは全く違うように思います。少数派の学者の意見を載せてバランスを取っているようなこともありますね。

学者同士の激突が、市民同士の激突を生む

正美 その学者同士の対立・論争が手に取るようにわかる映画があります。

米国で2016年に製作されたドキュメンタリー映画「FOOD EVOLUTION」(「食の進化」・上映時間50分)です。この映画は、ハワイの遺伝子組み換えパパイヤ、アフリカの遺伝子組み換えバナナなどの生産現場を追いながら、遺伝子組み換え作物の是非をめぐって、主に科学者、市民活動家、政治家、農家が激突する状況を撮影したものです。映画監督はスコット・ハミルトン・ケネディ氏で、アカデミー賞ノミネート歴のあるドキュメンタリー映画監督です。ナレーターは天体物理学者のニール・タイソン氏が務めています。

ママ美 私も見たいですね。一番の見応えはどこでしょうか。

正美 学者と市民団体の激しい口論が見ものです。遺伝子組み換え作物に反対する学者や専門家が10人程度登場します。私の知る限り、世界で反対している専門家の大半が登場します。その専門家たちの主張に共感する市民活動家たちが表舞台に出てきて、「組み換え作物を食べると免疫力が落ちて、風邪をひきやすくなり、エイズになる」とか「自閉症の原因にもなる」などと煽りまくります。すべての発信源はこの映画に出てくる専門家たちです。

一方、組み換えパパイヤを開発して、ウイルス病で絶滅寸前まで追い込まれたハワイのパパイヤ農業を救った学者も出てきます。賛成側の学者も、反対と同程度の約10人が登場します。米国の若い科学者たちが街頭でデモをする場面も出てきます。日本で若い学者のデモは見たことがありませんが、米国には行動力のある学者がいるのだと分かります。

若い科学者と街中で論争する市民派の女性(母親)は「オーガニックは神さまの贈り物で完全食です。ひとつでも危険な論文が出れば、避けるのは当然です」と絶叫します。これに対し、科学者は「オーガニックは科学が作り上げた近代的なコンセプトです。健康に良くない論文もあります」と反論する。

この映画をみていると、表舞台からは見えにくい学者同士の意見の対立(よく言えば学問的な論争)が、市民と農家の争い、市民同士の口論、市民と政治家の争いに顕現してくる様相がよく分かります。学者同士の論争を貨幣の裏と見れば、マスコミに登場する市民同士の争いは貨幣の表に相当します。その裏も表も見せてくれるのが映画「FOOD EVOLUTION」(日本語吹き替え版)です。実をいうと、私はこの映画の上映会をおこなっています。これまでに10回程度見ていますが、見るたびに新しい発見があります。

上映会できます

ママ美 だれでも上映会をおこなうことができるのですか。

正美 もちろんだれでもOKです。ただし、会場は希望者が確保することになります。5人以上集まれば、うれしいです。上映のための費用負担は一切ありません。私が上映の前に15分程度の解説をし、上映のあと討論という形でやっています。正味90分程度です。いまはオンライン上映会も可能です。

興味のある方は一度、上映会のファンサイトhttps://foodevolution-fan.jp/をご覧ください。また、メール(info@foodnews.online)をしていただいてもよいです。

ママ美 学者同士の対立は永遠になくならないでしょうが、それにしても、やっかいなことですね。

正美 何を決めるにせよ、時間と労力がかかるのは、自由と民主主義の社会的なコストだと心得るしかありません。そういうのが面倒臭くなると独裁者を渇望する声が出てきます。それもまた危ないですね。民主主義にはきっと忍耐が必要なのでしょう。

FOOD NEWS ONLINE「第46回 食をめぐる市民の対立はなぜ起こるか 米映画「FOOD EVOLUTION」が教えてくれること」を許可を得て転載(一部編集)

 

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筆者

小島正美(「食品安全情報ネットワーク」共同代表)

 

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