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「トンデモ書籍、発売前に丸裸になる」:34杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

コラム・マンガ

『子どもを壊す食の闇』という本が新しく発売されることになりました。何やらタイトルからしておどろおどろしいですよね。子どもを持つ親なら気になってしまいますよね。著者は農業トンデモで有名なあの山田正彦氏。実はこの本、発売を前にしてある騒動がありました。今回のコラムでは、トンデモ新書に対して人々が声を上げたことで帯(推薦文)が取り下げられ、丸裸になってしまったという寓話のようなストーリーをご紹介したいと思います。

トンデモ感大ありの推薦文

問題となったのはこの帯(推薦文)です。
『子どもを壊す食の闇』山田正彦

「なぜ発達障害児が20年間で40倍に増えたのか?」
「なぜ日本だけ、がんやアレルギーがこんなに多いのか?」
農薬/食品添加物/遺伝子組み換え・ゲノム編集食品、このままにはできない!
「学校給食を起点に日本の食を変える」

帯にはこのような記述があります。
いやいやいや、まだ発売前なので中身は読んでいませんが、これはヤバいですよ。
「日本だけ、がんやアレルギーが多い」という法螺も大概ですが、私がアウトだと思ったのは発達障害児が増えている理由として食べ物を挙げている点です。
実はこれ、著者の山田正彦氏が「学校給食を有機に!」という運動でその理由として掲げているものなんです。
AGRI FACTコラムニストの間宮さんによると、この本はもともと『学校給食有機化(仮)』というタイトルだったものが『子どもを壊す食の闇』に変わったそうです。
学校給食といえば、農家も業者も調理する人もみんなが一生懸命提供しているのに、有機野菜ではないからと『子どもを壊す食の闇』と表現するのはあまりにも下品すぎませんかね。

そして、この発達障害のクダリです。
もともと概念がなかったんですから、「発達障害」の診断が増えるのは当たり前でしょう?
20年も前と比較してどうするんですか?
発達障害の診断が増えるのはいけないんですか?
当事者の親たちに「食べ物のせい」と言うんですか?

発達障害の子を持つ親たちはたびたび浴びせられる「○○を食べさせたからじゃない?」「○○で治るよ」といった無責任な言葉に疲弊しているんです。
そもそも、発達障害に限らず、何らかのマイノリティ要素を持つ人が“増えた原因”にあれこれ憶測を巡らせることが相互理解に資するとは到底思えませんし、むしろ差別的ですらあります。
著者の山田氏の元にも、発達障害当事者から抗議の声や説明を求める声が届いているのですが、今までその声に応えた様子は(私の知る限り)まったくありません。
このことから私の中で「考え方は違うけど、子どもたちのことを思う気持ちは同じである」という説が消えました。

発売前に推薦文が取り下げ

では、発達障害当事者・親たちは、この帯(推薦文)をどう思っているのでしょうか。
SNSではやはりたくさんの反応があり、問題視する声が上がっていました。
私が参加している発達障害の子を持つ親たちの会でも落胆や悲しみの声が上がりました。
こうした声は次第に多くなっていきました。

そんな動きもあり、この推薦文は本の発売を前にして取り下げられました。
小さな声は大きなうねりとなったのです。
問題の本はこのような姿に。
『子どもを壊す食の闇』山田正彦

推薦文を書いた斎藤幸平さんは自身のSNSで「今回の帯は発達障害激増の原因が農薬や添加物にあるかのような誤解を与え、不安を煽る結果、傷つく方もいらっしゃることに考えが十分に至っておりませんでした」と述べ、取り下げに至った考えを語りました。
私は、斎藤さんがこの推薦文を書いたことよりも、当事者の声に真摯に耳を傾けたこと、速やかに推薦文を取り下げたことに注目するとともに、決断に敬意を払いたいと思います。

これが、トンデモ書籍が発売前に丸裸になってしまった顛末です。
山田氏はよく「声を上げよう!」と呼びかけていましたが、本当にみんなが声を上げた結果、自分の本がこんな姿になってしまったというわけです。
とほほ……。

もちろん、このあと再び新しい帯が作られるかもしれません。
昔話に登場する裸の王様も、物語の後には服を着たと思います。
ですが、一度こうして本が裸になった恥ずかしい出来事こそがこの物語の教訓だと思います。
『子どもを壊す食の闇』は発売前にして「差別の闇はどうやって作られるのか」という重要なことを教えてくれました。

肩書を利用してトンデモをばら撒き、子どもを壊す食の闇を作り出し、人々の声で正体が露呈した恥ずべき裸の王様は、いったい誰なのでしょう。

 

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

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