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Vol.4 野菜農家が「畑のトイレ」問題を語る【農家の本音 〇〇(問題)を語る】

農家の声

神奈川県相模原市でネギ・トウモロコシ・サツマイモを主軸に栽培している伊藤綾乃です。父が他界したのをきっかけに、農地管理を兼ねた家庭菜園からスタートしました。雇用なし、家族のサポートほぼ無しの、極小規模ワンオペ女性農家です。Twitter(@ayano110)で、日々の農作業の右往左往や、畑をはじめたことで気になりだした農業周辺のあれこれについてつぶやいています。

見過ごされがちな畑のトイレ問題

農業の労働環境で見過ごされがちなのがトイレの存在です。私自身「畑にトイレがあればいいのにな」と常々思っています。その気持ちをTwitterで何気なくぽろりと呟いた二つの投稿へ、思わぬ数のいいねとコメントをもらいました。

①「農業の労働環境改善のために、政府とか自治体がトイレ設置してくれるようなことがあれば、泣いて喜んじゃう。」
②「農業女子プロジェクトとかで、作業着や女性でも扱いやすいトラクターや刈払機みたいなのを開発してたけど、畑のトイレと水問題を解決してくれた方がありがたいと思う。私、152cmのチビっこだけど、機械類は意外と問題感じてないしなぁ。ウェアは、ほら、あそことかあるし。」

①②の投稿へついたコメントの中には「茂みの中の自然トイレ」をやむなく利用した経験や、泥汚れを気にしつつ公園やコンビニのトイレを拝借する等々あり、改めて、農業の現場におけるトイレ問題が未解決のままなのだなと感じました。

普段、自分はどうしているのかと言いますと、もよおす度に手を止め、軽トラに乗り、自宅へ戻るか買い物をしつつコンビニで用を足し、また畑へ戻るの繰り返しです。一回にかかる時間は約30分ほどですが、1日の作業中に数回往復することを考えると効率が悪いです。加えて、機械類を置いたままにして畑から離れることで起き得る事故や盗難の不安も付きまといます。

SDGsでも「安全な水とトイレを世界中に」という目標を掲げていますし、2023年は農業に携わる若手女性の増加を図る取り組み「農業女子プロジェクト」が開始から10年目の節目の年でもあり、農業の現場で働く女性にとって悩みの種と思われるトイレ問題について書いてみたいと思います。

畑でした経験がある……

先のツイートへの反応があったこの機会を利用して、農業の現場にいる方々がトイレについてどう感じているのか、Twitterの機能を利用してアンケートを取ってみました。
一つ目は、畑にトイレが欲しいか否かと、設置済みまたは必要に応じて設置しているかを尋ねました。

畑にトイレが欲しいか否か

二つ目のアンケートは、畑にトイレが無かったことで惨事が起きた、または畑で「しちゃった」ことがあるかを尋ねました。

畑にトイレが無かったことで惨事が起きた、または畑で「しちゃった」ことがあるか

回答者数が少ないので、これを農業者全般の意見として捉えるのは難しいところだなと思う半面、畑にトイレは必要ないと感じている方は14%のみ。そして、畑でしちゃったことや惨事になったことがある方が43名(自分も含めると44名)という結果になりました。

この結果を見て、改めて畑のトイレ問題、どうにかならないものかと思うのです。

どんなトイレがあると便利か

既製品の仮説トイレがあるじゃないかという意見もあるかと思います。しかし過去に、イベント会場や工事現場で見かける既製品の仮設トイレの購入を検討してお値段を調べたところ、ワンオペ零細農家が気軽に手を出せるものではないことが分かり、断念した経緯があります。

いざとなれば自作をする前提で、私なりの「女性が使うにあたり必要最低限」の条件を考えてみました。

・コストは最低限(水洗はあきらめる)
・壁があって個室であること(ポップアップテント等でない)
・組み立て式で、必要に応じて、繰り返し設置と解体ができる構造
・女性でも組み立てやすい構造
・軽トラに載せて移動できる大きさ
・ホームセンター等身近な場所で部材が調達できて、自分で補修が可能
・不用になった際に廃棄しやすい素材であること
・本体は防災トイレ等を利用し、排泄物をこまめに処分できるもの
・本体は樹脂製で汚れても洗えるもの

どうしても譲れないなと思ったのが、「個室感」でした。

アウトドアに慣れている方でも、使っているトイレは公共のものや施設併設のきちんとした壁のあるトイレを使用しているはずで、排泄行為が人目に触れることへの抵抗感は、私自身を含め大抵の人にとってはかなり強いはずです。

手軽なポップアップテント等を利用することも考えたのですが、素材によっては中での動きが透けて見えてしまう不安が拭えないため、壁の素材には木材等を利用したいところです。

設置と解体が繰り返し可能な組み立て式かつ軽トラで移動できる、については、台風等で撤去したほうが良さそうな場合の収納性や、不用になった際の移動性を想定しています。私の条件だとほぼ必要ないのですが、大抵の農家さんは複数の圃場=農場を利用しており、圃場間を移動しながら作業をします。クレーンやフォークリフト等がなくても、必要に応じて手軽に移動できるものが良いと思います。

廃棄しやすい素材の利用については、「仮設トイレを購入した後、もし不用になったらどう処分するのか?」と考えていた際に気になった点です。自治体の処分場等に粗大ゴミとしてだしやすい素材が理想的かなと思います。

トイレ本体については、バイオ系で堆肥化もアリだなと思いもしたのですが、畑に人糞堆肥を入れるわけにもいかないので、むしろ、都度都度処分のしやすい防災用や介護用のものを利用するほうが撤収性や移動性も確保しやすいのではないかと思います。

試作するメーカーが現れた!

生理がある年代の女性も働いていますし、男性も圃場の真ん中で尿意便意をもよおすかもしれないのに、トイレ問題が解決されていないのが農業の現場です。できれば、どこかの農業関連メーカーさんが「畑のトイレキット」を製品化して販売してくれたらいいのですが……

そう思っていたら、なんとツイートを見ていた山形県酒田市のアイデア農機具メーカー株式会社美善(https://www.kk-bizen.jp/)さんよりDMが届き、農業のトイレ事情を改善すべくツイートをもとに商品開発をしたいとの申し出がありました! 現在試作中ですので、畑のトイレ問題に悩む農家の方々今後の進捗にご期待ください。

 

【農家の本音 〇〇(問題)を語る】記事一覧

筆者

伊藤綾乃(露地野菜農家)
ワンオペ女性農家・規模ちっちゃいマイクロ農家。
神奈川県相模原市の元養蚕農家で生まれ育ったものの、栽培どころか種を蒔いたこともなかった人。父の他界により遺された1.2haの畑の管理と己の食いしん坊欲求を満たすために、家庭菜園からスタートし、いつのまにやら販売もする農家になったものの、足らない知識と技術に悩みながら日々右往左往中。Twitter:@ayano110

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