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どんと来い、トンデモ村人(前編):8杯目【渕上桂樹の“農家BAR NaYa”カウンタートーク】

コラム・マンガ

私は農業をテーマにしたバーを経営しています。職業柄、色々な農園とつながりを持つこともあるのですが、特に印象的なできごとがありました。まるで一昔前のTVドラマ「トリック」のような奇怪な体験でしたので、今回はそのお話をします。

自然農を土台とした
複合的ビジネスへの誘い

物語はある依頼から始まりました。「古民家を拠点に自然農を土台とした複合的なビジネスを始めたいと思っています。地元の人々に健康をもたらし、長崎の耕作放棄地を宝の山にしたいのです。ぜひ協力してもらえませんか?」というものです。

私は自然農というものをよく知りませんでしたが、「長崎の農業が盛り上がるのは良いことだな」と思い、現地に行ってみることにしました。

車を走らせること1時間あまり、森に囲まれた山深い場所にその古民家はありました。ずいぶん登ってきたのか、車を降りるとひんやりした空気を感じました。看板に書かれていたのは「くるくる村」の文字。サイトを見ると、「循環型農業を目指す意味などが込められている」と記されていました。

「長崎を世界一の
オーガニック産地に!」

くるくる村の代表者は、2019年の長崎県議会議員選挙に立候補して落選したM氏という男性(種子法廃止に反対する活動をしている)。一緒に運営するのは「長崎のじゃがいも男」を名乗る男性でした。2人は「長崎を世界一のオーガニックの産地にしよう!」と意気投合し、くるくる村を開設したのだそうです。私は「世界一のオーガニック? どういう意味だろう?」と思いながらも説明を聞きました。そして彼らから「くるくる村は農業のみならず、医療も複合したサービスを提供したいと思っています。ぜひ渕上さんの力を借してほしい」と頼まれました。「農業はわかるけど、医療? 大丈夫かな?」と不安がよぎりましたが、農業のことで頼られるのは悪い気持ちがしませんでしたし、「県議会議員に立候補するくらいの人がやっている農園なので大丈夫かな」と考えて協力することにしました。

そして、「くるくるパートナーズ」なるプレミアム会員に勧誘されました。「くるくるパートナーズ」の特典は“会員限定のイベントに参加できる権利や限定情報などをゲットできる”というもので、会費はカード払いで毎月1,000円。特典内容は正直言ってかなり薄めですが、それを承知の上で「農園を応援するカンパだと思えばいいか」とプラスに考えて加入しました。ちなみに私は会員第一号。ちょっとうきうきしていました。私はその後、「色々な人を招いてイベントを開きたい」という要望に応えて、果実酒作り教室やジンジャーエール手作り体験会を開いてお客さんを集めたりもしました。

うまく行かない農業
理由は「波動が低い」から

とはいえ、私が一番関心を持っていたのはくるくる村の農業。

くるくる村ではじゃがいもだけを栽培していましたが、説明を聞く限りではどうやらうまく育たず困っている様子でした。原因は、病気が発生したとか天候に恵まれなかったとかではなく、忙しくて植える時期が遅くなったとか、除草が追いつかなくて草が生えすぎているとかそういう類のもの。私はつい「なぜベストを尽くさないのか」と思ってしまいました。

彼らは「この畑はまだまだ波動が低い。前のオーナーが農薬を使っていたからだ」と説明していました。私は思わず「波動なんてインチキじゃないですか。じゃがいもが育たない理由は波動じゃありません。植える時期が遅いせいで成長する前に霜にあたったからじゃないですか? それと、マルチもしていないし、草がボーボーだからじゃないですか?」と投げかけ、営農指導員の紹介やマルチの融通、そして農作業の手伝いなど協力を申し出ました。ところが、「草は自然です。自然と共存したいのです」「マルチは自然じゃない」「今までの農業は見直すべきだ。これからは自然農法だ」のようなニュアンスでやんわり拒否されました。

その後、彼らは「我々はカネ儲け主義の農業ではない。今の農業は目先のカネに捕われている」というスローガンを掲げ、収量を全く気にとめなくなりました。彼らにとっての農業は私の知っているものではなく、“思想を表現するツール”として活用されるようになったのです。

驚愕のイベント告知
「STAP細胞を作ろう!」

私は徐々にくるくる村に行きにくくなり、(月々の会費だけ払って)たまにSNSでチェックする程度になりました。そんなある日、何気なくSNSを見ていると驚愕のイベント告知を目にしました。それはなんと

STAP細胞を作ろう!

というトンデモないもの。「イベントを開いて人を集めたい」とは聞いていましたが、さすがにこれは予想もしないイベントでした。STAP細胞とは、小保方晴子氏が大騒動を巻き起こしたあのSTAP細胞のことです。くるくる村が招待した人物によると、「実は、STAP細胞は簡単にご家庭で作れるのです」「アメリカの製薬会社は利権のためにもみ消そうとしているのです」「玄米を乳酸菌発酵させたものを飲むと身体の細胞が活性化されてSTAP細胞が生み出されます。不老不死のような効果をご覧に入れましょう」と自信たっぷりな様子。あまりのトンデモぶりに私は頭がくらくらしてきました。

しかし、これは奇妙な世界の始まりに過ぎませんでした。この村はあらゆるトンデモが大集合するトンデモ村へと変貌することになります。そして、私はあるきっかけで再びくるくる村に乗り込むことになるのです。
つづく

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

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