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農薬に関するデマで打線組んでみた!〈パート11〉【落ちこぼれナス農家の、不器用な日常】
今回も、
「農薬に関するデマで打線組んでみた!〈パート11〉」
をテーマに、農家の私ナス男が紹介します!
1.(左)JAから買わされる農薬は高すぎる!
JAや農薬は一部の方からは嫌われる存在なので、このようなデマも生まれるのでしょうか。
全てがデマですので、順番に否定します。
まず、JAは農薬を強制的に買わせたりしません。
他の民間企業から買う農家もたくさんいますし、JAからお咎めを受けることはありません。
そして農薬の価格ですが、民間企業やネット販売のものとほとんど差がありません。
ものによっては、JAの方が民間企業より安い農薬もあります。
ちなみに私は、民間の種苗会社から農薬を買うことが多いです。
理由は、出荷の帰りに寄れる所にあるから。
農薬の価格がほぼ変わらないので、利便性で買う所を選んでいます。
2.(中)残留農薬で腸内環境が荒れる!
「国内の実験で、残留農薬が腸内環境に与える負の相関が確認された!」
と、有名なユーチューバーが動画にしていました。
たしかに、有機リン系殺虫剤によって腸内環境に影響を与えることが示唆されるような論文が、近年発表されました。
しかしこの実験の結論は、「残留農薬が腸内環境へ有意な負の変化を与えたとは言えない。」です。
もちろんこれから実験が進んでいく中で新たに分かる事実もあるかもしれませんが、この論文の一部を切り取って、「残留農薬=胃腸を乱す危険なもの」と推論するには拙速です。
3.(一)界面活性剤は危険だ!
「界面活性剤には、発がん性や催奇形性があるから危険だ!」
というように、農薬や展着剤に含まれる界面活性剤についても、危険性を訴える方がいます。
これについては、このシリーズで何度も紹介している通り、量の概念を無視しています。
界面活性剤にも色々な種類がありますが、当然農薬登録の時の厳しい審査を通過していますし、用法を守れば安全性に問題はないと言えます。
4.(右)海外資本に、農薬市場は支配されている!
「農薬も海外メジャーに独占されている!」
シンジェンタやバイエルといった海外企業の農薬も日本では売られていますが、シェアを独占されているかと言えば、それは違います。
農薬メーカの事業動向・戦略について調査結果を発表 | Chem-Station (ケムステ)
上の円グラフは、農薬の登録件数と企業を表しています。
シンジェンタやバイエルは一桁の登録数で、その上の登録件数の日本の企業がたくさん!
海外企業に独占されてる状況では全くなく、むしろ、日本の企業は頑張ってますよね!
国内企業の農薬で私もよく使うものもあるので、これからも頑張ってほしいです!
5.(三)農薬は人間での臨床試験がされてない!
「農薬は人間に対しての治験が行われていない! つまり、治験の真っ最中だから危険だ!」
と思われる方もいるかもしれません。
たしかに、農薬はヒトに対しての治験はほぼ実施されていません。
人への臨床試験を行えれば、より正確で確実な安全性の試験になると思いますが、
農薬の毒性の試験をヒトに対してやるのは、倫理的に難しいからです。
だから農薬に限らず、毒性の試験にはラットなどの動物が使われています。
無毒性量を安全係数である100でさらに割って一日摂取許容量=ADIを算出しています。
ちなみに、毎日食べ続けても問題ないとされる数字、食パンなら約277㌔です。
これを危険と見るかは人それぞれでしょうけど、私はADIに達する量を食べられる自信は1ミリもありません。
6.(二)農家は早朝にコソコソと農薬散布している!
「やましいことがあるから、農家は昼じゃなくて人目が少ない早朝に農薬散布をしている!」
と穿った見方をされる方もいるかもしれませんが……
農家が早朝もしくは夕方に農薬散布しているのは、
● 早朝夕方は風が弱く、農薬が飛散しにくいから
● 昼の暑さで薬害が出るリスクがあるから
● 農家が早起きだから
が主な理由です。
住宅地や通学路の近くの畑なら、その周辺の住民の方の活動時間のピークを避け、暴露させないように工夫しています。
ちなみに私も農薬散布をする時は、夏は朝4時に起きて準備をしています。
7.(捕)早生の作物は農薬が多く必要になる!
「早生(わせ)の品種は作為的に早く収穫できるように品種改悪されている! そのため、晩生(おくて)よりも農薬がたくさん必要になる!」
と、異次元の話をされている方がいました。
早生(わせ)晩生(おくて)とは、栽培期間の長さを示す表示のこと。
例えば同じ枝豆でも、早生と晩生では栽培期間が違い、早生の方が初夏に早く採れます。
そして、早生の方が農薬散布が多くなるかというと、全く逆です。
晩生より早生の方が栽培期間が短い分、農薬散布の回数は少なくなる傾向にあります。
やはりSNSの情報には、デマもたくさんあると思っていいでしょう。
8.(遊)リンゴにはワックスが塗ってある!
昔からあるリンゴに関するこの噂は、間違いです。
艶々に見えるのは、リンゴが出す天然のロウ成分であり、自然に発生するもの。
艶を出すためにワックスを塗っているわけでも、長持ちさせるために防腐剤を塗っているわけでもありません。
海外産のリンゴは表面に防腐剤などが塗られているものもあるようですが、日本のリンゴは水洗い程度でそのまま食べていただいても大丈夫です。
おいしいリンゴを皆で食べましょう!
9.(投)農薬のせいで農家は精神疾患が多く自殺が多い!
「農薬が精神に異常をきたしている!」
「農家の自殺率が高いのは、農薬のせいだ!」
というツイートを見ました。
調べてみると、たしかに2022年以降に自殺者が増えたのは残念ながら事実です。
昨年1年間の農林漁業者の自殺者数が395人に上り、前年を97人(32.5%)上回ったことが厚生労働省のまとめで分かった。原因・動機別で「経済・生活問題」が139人と3割以上を占め、資材高騰などによる経営環境悪化も背景にあるとみられる。酪農・畜産の状況を調査している農業団体は「厳しい状況はわかるが誤った選択をしないでほしい」と呼びかけている。
しかし、この主張は根拠が不十分すぎると私は思います。
● 健康問題の中で、農薬が原因と断定できる根拠がない。
● 農業経営の悪化も、原因の一つである。
● 他の産業でも、自殺者数は残念ながら増えている。
などが理由です。
記事と同様の内容のグラフだけで、
「農家は農薬が原因で精神疾患を患っている!」
というのは、論理が飛躍しすぎています。
コロナショックやウクライナ情勢の悪化などで、農業の情勢は一気に悪化しました。
農業経営が赤字になり、融資返済が滞っている農家もいるでしょう。
なかなか状況は好転しませんが、私もなんとか踏ん張って農業を続けていく所存です。
まとめ
消費者の方が目にする農薬の情報はネガティブなものが多く、農薬にいいイメージがない方もいると思います。
私としては、消費者の方の農薬に対する印象が少しでも変わればという思いで、これからも発信を続けていきます。
筆者ナス男(ハイパーナスクリエイター「いわゆるナス農家」) |