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第13回 デトックスという物語、毒出しという疑似科学【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

コラム・マンガ

世間を騒がせている「脱ステロイド」の問題に寄せて、オーガニックの世界でも何かと登場する「デトックス」「解毒」といったキーワードとの共通点、その危うさを間宮さんが自身の経験も交えて触れます。
なお、今回は先月の続編を予定していたのですが、都合により延期します。ご了承ください。

「脱ステロイド療法」番組

「脱ステロイド療法」を好意的に紹介したテレビ番組が、皮膚科医などの専門家から強い批判にさらされている。放送直後から多くの医師が怒りの声を上げ、1週間と経たないうちに関連する学会や患者会が連名で抗議声明を発表し、番組側が謝罪する事態に至った。

仕事柄というのか、コミュニティ柄というのか(そんな言葉はないが)、かつて僕の周りにも、アトピー等の皮膚疾患に苦しみ、脱ステロイドを取り入れる人が少なからず存在した。何人かの友人・知人からは、皮膚炎が極度に悪化して命の危険まで感じられるような経験も含め、壮絶なエピソードを幾つも聞いた。

今回声を上げた医師たちの怒りの根源には、脱ステロイドで苦しむ患者を誰よりも近くで見てきた記憶があるのだと思う。

疑わしいものは取り除く

脱ステロイドに関心を示すほど皮膚疾患に苦しんでいる人は、身の回りの生活環境にも様々な要因を探し求めることがある。

食事、水、空気。
着ているもの、家の内装、使っている洗剤や石鹸。
シャンプー、化粧品、電磁波。

ひとつひとつ試しては、変化を感じたり、失望したりを繰り返すなかで、より自然なもの、人工的な化学物質を含まないものに目を向けて、疑わしいものは少しでも取り除いていこうと考える。

そのどこかのタイミングで、より安心して外食ができる場所として、オーガニックカフェのようなところにたどり着くこともある。なかにはアトピーの赤ちゃんを抱いて訪れる人もいる。

では、果たして有機の食材はアトピーに良いのだろうか。そんなことはわからない。多分、そんなに意味はないのかもしれない。

飲食店として

それでも、ここの食事ならと頼ってくれる人を、そのことで得られるわずかな安心感を、わざわざ突き放すことにも、何の意味もない。他のお客さんと少しも変わらず、笑顔で接して、心地よく過ごしてもらえればそれでよかった。飲食店って、そういうものだと思う。

「自然な食事」をして、「自然なもの」を身につけて、因果関係があろうがなかろうが、心の安定が得られて一時的にでも改善を感じられるなら、ひとまず納得いくまで色々と試してみたらいいと思う。

もちろんそれが行きすぎて、化学物質に過剰な恐怖感を抱いたり、脱ステロイドなどの危険な療法に取り込まれるリスクは周囲が認識しておく必要があるにせよ、有機野菜を美味しく楽しんで食べてもらうこと自体は何のマイナスにもならない。

ただ、もしこちら側から「オーガニックなら治るかもしれない(オーガニックじゃないと悪化するかもしれない)」などと囁きかけてしまうなら、とたんに話は一変する。

年越し半断食デトックスリトリート

著名なマクロビオティック(注:玄米などの穀物を中心に、旬の野菜や海藻などをバランス良く食べる食事法)料理家が手がける「年越し半断食デトックスリトリート」という企画がある。その名の通り、年末年始の合宿を通じて「体内の老廃物や病毒素を排毒」できるのだという。

これに参加した直後だという人に会ったことがある。高揚した感じで、自分は大きく変わったのだということをしきりに強調していたのだが、他人から提供された2、3日のプログラムで大きく変わってしまうような人生ってなんだろう、と思う。そして、「老廃物や病毒素」が具体的に何を指すのか示されていないので、本当に「排毒」ができたのかできなかったのかは、確かめようがない。

清浄の物語としてのデトックス

皮膚に限らず、何らかの心身の不調に苦しむ人にとって、ときに「デトックス」や「毒出し」という言葉は強い魅力を放つことがある。辛く出口が見いだせない日々のなか、その原因が自分ではない何かにあり、努力次第ではそれを外側に追放できるかもしれない、と思えることは希望になる。

今の自分は何らかの外敵によって不当に汚されており、本来の姿ではない。この外敵を追い出し、「清浄な、あるべき自己を回復する」というストーリーは、物語論の原初的な類型とも重なり、とても普遍的な強い引力がある。

「脱ステロイド療法」においても、ステロイド使用を止めたことで湿疹が悪化して皮膚がボロボロになるのを「毒が出ている」と肯定的に表現し、患者にさらなる忍耐を促す。それでも耐えるのは、例えかりそめでも回復への希望が示されているからだ。

デトックスは疑似科学

だが、明治大学科学コミュニケーション研究所の評定によれば、デトックスという言葉自体が何を意味するのか、学術的にも定義されていないため、「デトックス」は科学的検証の対象になり得ない疑似科学とされている。かけがえのない健康や命をかけるには、あまりにも危うい。

農や食の世界でも「デトックス」は定義さえ不明瞭なまま、商品説明や販売戦略の手段として、きわめて恣意的に用いられているのが現状だ。有機食材を選ぶことで「解毒ができる」とうたう活動や団体は、後を絶たない。

例えば「有機野菜を食べると体内の農薬を排出できる」といった一見それらしく聞こえるニュースはその典型だが、AGRI FACT上でも既に検証されている通り、よく読めば基準値の数千〜数万分の一レベルの、あまりにも微かな変化を取り上げているにすぎないことがわかる。そもそも有機野菜の効果で排出されているとさえ言えないのだが、あたかもそう受け取れるような紛らわしい書き方をしている。

ほんの少しずつ変わっていける

冒頭に挙げた、脱ステロイド番組への抗議はきわめて正当なものだが、一方で、辛い症状を耐えて不安を抱えてようやく診察室にたどり着いても、忙しすぎる医師にほとんど話を聞いてもらえなかったり、心ない言葉を投げつけられて孤立し、怪しい代替医療に心を動かされてしまう患者がいるのも事実で、それを責めることはできない。

同じように、食や農の安全性についても、不安を抱く人たちが悪いわけではない。不安に思う気持ちそのものは、きっと大事なものを守りたいという願いがあってのことなのだから、尊重していてほしい。

変わらなければいけないのは、現在流通する食品の安全性を充分にわかりやすくアナウンスすることも、その基盤となる信頼構築もおぼつかないままの国や政府、そこにつけ込み声を大にして危険を煽る人たち、その状況を黙認したり、便乗している人たちだ。

社会が変わるまで、まだ少し時間がかかると思う。今回のテーマについて言えることは、まず「デトックス」や「解毒」という言葉を見つけたら、少し疑って身構えてほしい。判断がつかなければ周囲に相談する。人から勧められても、ひとまずお茶を濁しておく。

そして、「劇的な変化や回復」をうたうものには、とにかく近づかない。人は玉ねぎの薄皮を一枚ずつ剥いでいくようにしか、日々ほんの少しずつしか、変わることはできない。でも、ほんの少しずつなら変わっていけるって、本当は希望でしかない、とも思う。

筆者

間宮俊賢

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