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農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート19〉【ナス農家の直言】

農家の声

今回も、
「農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート19〉」
をテーマに、農家の私が農業に対する誤解や偏見を正していきます。

1.(中)オゾン水を使用していたら安全!

「オゾン水使用と書いてある野菜は、農薬の心配がない!」

という主旨の投稿をSNSで見かけました。
たしかにオゾンには強い酸化効果があり、殺菌目的で野菜の洗浄に使われるケースはあります。
オゾンの化学式も単純で(O3)、化学物質を敬遠する方にとっては好まれているようです。
ただしオゾン水は一般的に出荷調整の時に使用されるもので、「オゾン水使用」と書かれていたら農薬を使っていないわけではないです。
そしてオゾン水で、野菜に付着している全ての種類の残留農薬を完全に除去できるわけではありません。
このシリーズでは何度も言っていますが、たとえ作物から残留農薬が検出されたとしても、ADI(一日摂取許容量)の基準内であるので安全は担保されています。
オゾン水を使用していなくても、スーパーの野菜は安全ですので、ぜひ手に取ってください。

2.(左)農薬は検出されなければ、みなしとしてなかったことにされる!

「農薬を使用しても、検出されなければ「みなし」として使用していないことにしてよい!」

という投稿をSNSで見かけました。
「みなし」が通用する業界があるのかは分かりませんが、農薬に関しては「みなし」は通用しません。
たしかに農薬は紫外線などで分解されるので、適切に農薬を使用していれば残留農薬検査でも検出限界値以下(ほぼゼロ)はよくあることです。
しかし、使用した事実をなかったことにすることは農薬取締法上できません。
農薬使用をなかったことにするメリットは、無農薬をアピールしたいケースでしょうが……、
特別農産物に係る表示ガイドライン」に引っかかるので、無農薬表示はできません。
農家は正直に農薬使用を農薬履歴に書くしかないので、嘘をついて消費者を騙すことができないことは覚えておいてください。

3.(右)マク○○ルドのポテトに使われるジャガイモは危険!

みんな大好き! マク○○ルドのポテトも、デマの対象になっています。

「ジャガイモに有機リン系農薬を使用した農家は、5日間も外に出られない! そんな危険な農薬をマクドナルドは使っている!」
とアメリカの学者が主張していました。

しかし問題とされている農薬は、アメリカでは2009年に農薬使用が中止されており、マクドナルドは自社のジャガイモに長らく使用されていないと証言しています。
そして「農薬使用後の5日間も外出できない!」ではなく、「農薬散布直後の一定期間の立ち入り制限間隔を遵守する必要がある」です。
特に農薬を使用したら外出できなくなるわけではなく、一定期間畑に立ち入るのを止めましょうということです。
アメリカでも、誇張されたデマが流れているんですね。

4.(一)ジャガイモはガス抜き期間がないと食べられない!

「ジャガイモは化学物質を抜かないと食べられないので、大気制御された小屋に6週間は保管しないといけない!」

上に登場した学者は、こんなぶっ飛んだ主張もしています。
たしかにジャガイモを、倉庫などで保管する企業や農家はあるかもしれませんが……それは化学物質を抜くためではありません。
定期的に保管して、一年中ジャガイモを流通させるためです。
思い込みの激しい方のデマには、ついていけませんね。

5.(三)ビル・○○ツのコーティング農薬に注意!

一部界隈によると、ビル・○○ツ氏は何やらコーティング農薬なるものを開発しているらしいです。
調べてみると、そのコーティング剤「Apeel」は、

  • 防腐剤の代わりになり得るもので、
  • こすっても落ちず、水分を閉じ込め、酸化から作物を防ぎ、
  • 鮮度を従来よりも2倍から3倍長く保持できる

のが特徴だそうです。
植物由来が主成分のこの商品は、アメリカ食品医薬品局(FDA)によって承認されており、非常に安全で1日の許容摂取量は(218㎎/人)と考えられています。
うーん……。
ビルゲイツ氏は一部界隈では相当嫌われているので、なんでもかんでも批判の的になってるだけではないかと私は思います。

6.(捕)インボイスで農家が廃業している!

2023(令和5)年10月から、インボイス制度が導入されて、売上が1000万円以下の農家も消費税を納めることになりました。

「消費税なんか小規模農家は払えない! インボイスで農業を辞める人が出た!」

とX(旧Twitter)で見ました。
たしかにインボイスが始まってから、経理や確定申告関連の実務が増えた農家はいるはずですし、痛い税金支出なのはその通りですが……。
いっても十万円程度と思われる消費税を払えないから廃業というのは、すでに危機的な経営状態のはずです。
しかも制度が始まって間もないですし、消費税の支払いは2年後で、まだ納めてもいないのに……。
おそらくですが、売上が少なくてインボイス関連の実務が分からない高齢の農家が、遅かれ早かれ離農していただけでは?
発信しているアカウントは、農薬に関してもデマを流しているアカウントでしたので、現時点で消費税廃業した農家が存在することが怪しいのですが。

7.(二)ADIの基準が安心できない!

「一日許容摂取量=ADIが決められているといっても、その基準に『抜け』があるかもしれない!」
「大人を基準に設計されていたら、子どもはADIをオーバーしてしまうかも!」
という不安を覚える方もいるかと思いますので、改めてADIの基準を見てみます。

ADI(一日許容摂取量)=無毒性量(動物実験で悪影響が出なかった量)×0.1(動物と人間の身体の違いを考慮)×0.1(個人差を考慮)
となります。
「なんで大人基準なんだ! 体の小さな子どもに合わせるべきだ!」
という意見もありますが、式にあるように、体重差は織り込み済みなのです。
それに、ADIは一生食べ続けた場合の許容量を示したものです。
ADIは体重1kgあたりで表されるので、一生食べ続けている間に子どもも大人になります。
ADIはそのくらい厳しい基準ということをぜひ知ってほしいと思います。

8.(遊)肥毒層を取り除け!

自然農の用語で「肥毒(ひどく)層」という言葉があります。

「作土から20~30㎝下でできる層で、ここに肥料成分が溜まっていると、病気などの発生源になる!」
「天地返しやサブソイラーで肥毒層を取り除こう!」

という説明で、いかにも肥料成分が毒であるような言い方ですが……
自然農における「肥毒層」とは、慣行栽培における「硬盤(こうばん)層」だと私は解釈しています。
硬盤層とは、作土から20~30㎝下でできる、文字通り硬い層です。
これを破壊しないと、水はけが悪かったり根っこが張りにくくて生育に影響します。
……説明がほぼ一緒ですよね?
サブソイラー(爪のようなもの)を土に刺して引きずったり、緑肥を撒いて根っこを深く迄伸ばすことで対処していますが、自然農も同じようです。

9.(投)肥料を撒いたら、硬盤層が出来てしまう!

「肥料を撒くから土が固まって根が健全に張らなくなるんだ!」

と主張する方がいますが、これは間違いです。
硬盤層は、肥料を撒くからできるのではなく、トラクターなどの機械を圃場(ほじょう)に入れて踏み固めてしまうからできてしまうのです。
つまり自然農の畑でも、トラクターなどの機械を畑で使っていれば硬盤層は出来得ます。
肥料=毒と吹聴している方がいるのか分かりませんが、論理を飛躍させずに考えることが大事です。

まとめ

農業デマは万国共通で、海外でも農薬をディスりたい活動家はいます。
英語で書かれているものは、なんとなく真実のように感じられるかもしれませんが、冷静に和訳することが大事です。

 

【ナス農家の直言】記事一覧

筆者

ナス男(ハイパーナスクリエイター「ただのナス農家」)

 

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