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Vol.2「波動が高い」食べ物!?【不思議食品・観察記】

コラム・マンガ

科学的根拠のないトンデモ健康法ウォッチャー山田ノジルさんの連載コラムがAGRI FACTでついにスタート。驚くべき進化を遂げつつある不思議食品の数々や、その沼にはまった住人たちをモヤモヤしながらウォッチし続けている山田ノジルさん。Vol.2は「波動が高い」食べ物の世界を観察します。


環境にやさしい。安全・安心。体にいい。おいしく感じる。社会貢献。
オーガニックを選ぶ動機は、このあたりでしょうか。実際はオーガニックだから安全、体にいい、環境にやさしいとは限りませんが(おいしいかどうかは好みの問題)、学校給食も採用され始めたり需要が増えているなどの現状を見ると、そのイメージが確実に浸透しているのがわかります。それだけでもなんだかな~と釈然としませんが、それが些末のことに感じられるほど、飲み込みにくい言説があります。それは「波動」や「エネルギー」といった概念です。

波動とは、英語でいうとVibration。直訳すると本来は「震動」であるはずですが、物理学で波動(Wave)という言葉が使われるのにあやかるためか、「波動」「エネルギー」と呼ばれています(このへんはWikiにも描いてありますね)。そしてその実態は、オカルト・疑似科学、なんちゃって代替医療の世界。波動医療というジャンルもありますが、もちろんトンデモ(有り体に言ってインチキ)。食材の世界で使われる場合は、「生命が放つ未知のエネルギー」くらいのざっくりした概念でしょう。
目に見えないエネルギーの概念は、さまざまな文化に存在し、「気」や「オーラ」「霊性」に置き換えても大体同じことが言えそうです。定義も基準も曖昧なので、それぞれの感性で左右される不確かなものといっていいでしょう。

食べものについての波動は、だいたいこんな感じで説明されます。
「全ての生き物は波動を発している。エネルギーの高い波動、よい波動に共鳴し、体に取り込むことが真の健康につながる」
言い回しのバリエーションは無限にありますが、主張はほぼ同じ。特に魂や霊能力、直観力を磨く! といった自己啓発、スピリチュアル界隈で、よく見ることができます。
「化学的なものを使わずに作られたものはエネルギー・波動が高い」「日本人にあっている波動の高い食べ物がある」「波動の高い食べものをいただくと、病気にならない」「波動の高い、安心安全なオーガニック」「愛が食材の波動を高める」etc。

それなら逆に波動の低いものとは? 加工肉や添加物、農薬、ジャンクフード。いわゆる自然食、オーガニックのカテゴリーから遠く離れたものたちです。「わたしたちは食べたものでできている」から、できるだけいい食材を選ぼうという一見真っ当な主張を入り口に、スピリチュアルや疑似科学的な世界へ飛び込んでいくようです。

食は栄養面だけでなくさまざまな文化をはらんでいますので、そうしたスピリチュアルな付加価値で判断することそのものを、非難することはできません。しかし発信の相手や場所によっては、ぶっちゃけかなり迷惑な霊感商法です。昭和の時代は先祖の因縁が~と言って売られていた高額な壺が、令和の今はオーガニック、自然農法の野菜にとってかわっているのです。

さまざまな伝統宗教にも「フードタブー」は多々ありますが(イスラム教の豚食など)、それは信者たちの間で共有されるルールであり、関係ない人たちを巻き込むことはあまりないように思えます。しかし、波動やらエネルギー語りのそれは度々、SNSなどを通じて無関係の人たちを脅す結果となっています。普通に流通している食品を食べている人たちに向かって、「波動が低い食べものは体に毒をためこむ」とか言ってしまうので、不安・不快がスイッチオン。病気や障害を抱える人たちは「一般的な栄養学とは違うけど、それが原因か?」と、子を持つ親たちは「子供に万一のことがあってはいけない」と耳を傾ける場合もあるでしょう。

放射能や農薬添加物、またはこうしたスピリチュアルな理由から、オーガニック・自然食を実践している家庭はどうなるのか。私の知るほんの数例ですが、だいたい子供へしわ寄せが行き、気の毒な状況が発生しています。一般的な食材を使っている学校給食を親から禁止され、友だちには「アレルギーだ」と嘘をつかなければならず困っている。薄味で調理された自然食が口にあわず、結果偏食。食材を理由に外食が禁じられ、「会食」を体験する機会が奪われている。皆が食べているのは「毒」と教えられたことが、学校等でのトラブルの原因になる。市販のお菓子に執着する。さまざまです。

いろいろな視点から、食に敬意を抱くのは素晴らしいことです。しかし周りを振り回したり、不安を煽る、子供に不自由さを強いるような主張はほどほどに。また、これらは反医療や陰謀論とも相性がいい世界ですので、体にいい食べものを求めただけのつもりだったのに、おかしな政治活動に利用されかねません。食べものを波動で語るものにはじめで出会った人は、「これは道楽」とくらいにとらえておくといいかもしれません。

【不思議食品・観察記】記事一覧

筆者

山田ノジル

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