寄付 問い合わせ AGRI FACTとは
本サイトはAGRI FACTに賛同する個人・団体から寄付・委託を受け、農業技術通信社が制作・編集・運営しています
規格外野菜に関する誤解で打線組んでみた【落ちこぼれナス農家の、不器用な日常】
農薬に関する誤解とともに多いのが、規格外野菜に関する誤解です。
規格外野菜の実情について、もっと消費者に知ってほしい!
ということで今回は、
「規格外野菜に関する誤解で打線組んでみた」
をテーマに、農家の僕ナス男が解説します!
消費者の方にぜひ読んでほしい内容です!
1.(中)ちょっとくらいの傷なら売れよ!
「ちょっとくらいの傷でも捨てるのか! 出荷規格が厳しすぎるのでは!?」
という意見はけっこうありますが……
消費者の方にはあまり知られていないかもしれませんが、きれいなA品と廃棄される規格外の間に、いくつかの規格があるのです。
スーパーに並ぶキレイなA品しか出荷できないわけではなく、B品でも問題なく出荷できます。
例えばナスの場合。
程度の軽い傷や多少の曲がりなら、出荷できます。
このような野菜は、スーパーではなく外食企業や加工工場に行くことが多いです。
規格外になるものは、下の画像のような種が見えていたり病害虫にやられていたりして、輸送に耐えられなかったりどうしようもないもの。
農業に詳しくない消費者が見ても、これだけひどければ捨てるでしょう。
農家と消費者では規格外野菜の程度の認識がけっこう違うので、その差を埋めていければと思っています。
2.(左)規格外野菜でも味は変わらない!
「多少傷があったり曲がっていたりしても、味は変わらないだろ!」
と思われるかもしれませんが、規格外野菜は正規品と比べて味が落ちる場合が多いです。
ナスなら少しの曲がりであれば大差ないですが、あまりにも曲がりすぎているナスは皮が硬いです。
また下の画像のように、形は良くてもつやがなく色がくすんでいるナスは過熟しているので食味は悪いです。
もちろん規格外の方がおいしいという例外もあります。
樹上で完熟させた果物や野菜の場合です。
イチゴやブルーベリーなどがそれに当たるでしょう。
ただしこのような作物を完熟させてしまえば、輸送の時間などに耐えられないので出荷できません。
流通はほぼないので、現地に出向いて食べてください!
3.(二)規格外をそのまま畑に捨てるのは無駄!
「規格外野菜が出たにしても、なんで畑に捨てるんだ!」
「何も意味がない! 無駄だ!」
と思うかもしれませんが、全く無駄になるわけではありません。
なぜなら、土に棲む微生物の餌になるから。
廃棄した野菜を畑に鋤(す)きこむと、微生物の栄養になり、土づくりになります。
出荷調整する手間も省けるし楽なので、病気などを持ち込みたくないなどの場合を除けば、農家もこの選択をよくします。
消費者から見ると、畑に野菜を捨てるのはショッキングに映るかもしれませんが、メリットがあって正当な選択肢だということを理解してほしいです。
4.(三)規格外野菜を捨てるくらいならタダで配れ!
「なんで食べられる野菜を捨てるんだ! もったいないだろ!」
「生活に困窮している人もいるんだ! タダで配れ!」
こういう声に対しては、声を大にして言いたい。
農家はボランティアではありません!
生計を立てるために、命を懸けて仕事をしています。
もちろん農家の僕としても、何か手助けになればとは思います。
しかし、赤字になってまで慈善活動を強制されるのは理解に苦しみます。
貧困の問題は農家ではなく行政の問題だと思ってますし、野菜をタダで配ったところで簡単に解決できる問題ではありません。
5.(右)農家だって安くても売れば金になるだろ!
「売れずに困っている規格外野菜はありませんか?」
という営業は今もけっこうあります。
先述した通り、農家視点での規格外は相当にダメなものです。
そんなものを流通させれば、正規品を買うお客さんが少なくなります。
その結果、正規品の価格が安くなり、規格外野菜が正規品の足を引っ張ってしまうでしょう。
悪貨が良貨を駆逐するの言葉通り、短期的にはお金になりますが、長い目で見ればかえって利益は出ないことが多いです。
6.(補)農家はよく余った野菜をおすそ分けしてるじゃないか!
こういうことを言うと、
「農家は近所におすそ分けしてるじゃないか! それをちょっとでいいからもらえないの?」
と言われそうですが、少量なら自家消費するかパートさんにあげるだけです。
家族や農家の仲間、近所の方には日頃の信頼や借りがあるので配ることはありますが、赤の他人にタダで野菜をあげるのはものすごく抵抗があります!
農家だって、日頃付き合いがあったり信頼できる販路にしか規格外野菜は売りませんしあげません!
まあ買い叩かずに正規の価格で買ってくれるなら、喜んで出しますけどね!
7.(一)加工品で売ればいいだろ!
「少しのキズや虫食いなら、そこだけ切って加工品にすればいいだろ!」
「6次産業化で、売れ!」
という意見もあります。
6次産業化とは、生産から加工販売までを農家が全て手がけることです。
出荷できない規格外野菜でも、自分で加工販売まですれば売り物にできて利益を出せる販売方法で、6次産業化でしっかり利益を出している農家もいます。
このような6次産業化の努力をしている農家を否定するつもりは全くありませんし、工夫して野菜を売って利益を出している人を同業者として尊敬しています。
規格外野菜を安く買い叩く業者に売るのは反対ですが、農家自身で工夫して販売するのは賛成です。
ただし、全ての農家が加工品を売って黒字にできるわけではありません。
● 衛生管理
● 人件費
● 設備投資
● 営業や出荷
これらを農家自身がこなすには、時間や労力雇用が必要でしょう。
僕を含め多くの農家は、JAや市場の規格に対応するために栽培戦略を立てています。
まずは品質を上げて規格外をできるだけ減らす努力をしていこうと、僕個人としては考えています。
8.(遊)メディアの規格でも規格外野菜を取り上げているだろ!
捨てるはずだった規格外野菜を貰って、その野菜でアレンジ料理を作るという番組の人気企画もあります。
僕も学生の頃その企画を楽しく拝見していた一人です。
ただ農家の立場になってみて、改めて考えると複雑です。
大前提として宣伝を見込めるメディアや著名人だから成り立つ企画で、見返りもメリットもない赤の他人にはあげられません!
実際に映像では、提供を断る農家もいますしね。
素人の方はマネしないでくださいね!
9.(投)野菜の規格は変えられない!
「規格を変えられないから、規格外はなくならないんだ!」
なるほど確かにそうかもと思える意見ですが……
例えばJAも、規格変更はできなくはないんです。
ですがそれは難しいというのが現状です。
なぜなら、品質基準を落としてしまうと個人や産地のブランド価値は下がってしまうから。
いろいろな意見の農家や取引先があり、なかなかこちらの都合だけで規格を変更することは難しいという事情もあります。
「規格に縛られるのは嫌!」
であれば、自分で販路を作って自分で規格を設けるほうが手っ取り早いのかもしれません。
どの出荷先を選ぶかは、個人の自由ですしね。
まとめ
規格外野菜の話題は昔からあることで、社会情勢が悪い時に特に多くなる印象です。
色々な意見があるかと思いますが、今回紹介したように、農家としても規格外野菜を出荷できない理由があります。
消費者の方は、どうぞご理解ください。
筆者 |