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最終回 あきたこまちRをめぐる議論【「放射線育種と『あきたこまちR』】

食と農のウワサ

2024年2月7日、食の信頼向上をめざす会主催の第21回ZOOM情報交換会『放射線育種と「あきたこまちR」~「あきたこまちR」はどこがどう画期的なのか~』が開催された。長谷氏(量子科学技術研究開発機構(QST)量子技術基盤研究部門 高崎量子応用研究所 量子バイオ基盤研究部(当時))、小松氏(秋田県農林水産部 水田総合利用課土壌・環境対策チームリーダー(当時))は最後に、消費者等から寄せられた疑問に対して、科学的な観点から解答を提供した。(最終回)

それでもあきたこまちRが必要な理由

不安を抱く方々からの意見として、カドミウム汚染地域でのみ栽培すべきだという声が一部ある。これに対して小松氏は「汚染地域」という言葉の定義や、湛水管理対策などが必要な農地は全体の約2割あることなどを説明した。また、国内外の厳しい基準(見直し等の可能性を含め)や輸出に対応するため、全体的にカドミウムを吸収しにくい品種に切り替えることが重要であると強調した。リスク管理の観点からも、このアプローチは有効であるという。

消費者からは、放射線育種を明示すべきだという声もある。これに対し、小松氏は、放射線育種は突然変異の確率を高めるだけで、自然界で起きている突然変異と変わらず、安全性に問題がないことを強調した。これまでも放射線育種由来のコメ・大豆など既に多く食されており、表示が必要という訳ではないと述べた。そして、「あきたこまちRは交配育種であり、従来のあきたこまちと変わらない品質と食味を持ち、安全な品種です。他の品種を選ぶ自由もあります」と小松氏は付け加えた。

さらに、不安を抱く方々の中には、イオンビーム照射技術が日本以外であまり使われていないことへの懸念もある。しかし、長谷氏はイオンビーム技術が日本だけでなく、外国でも利用されていることを指摘した。また、また、マンガンの吸収能力が低下していても、栽培試験で収量や品質に問題がないことが確認されていると説明した。

「イオンビーム技術は日本発ですが、バングラデシュやベトナム、マレーシアでも利用されています。安全性に関しては、突然変異による品種改良はすでに広く行われており、特に問題はありません。実際、あきたこまちRは長年の試験を経て、従来の品種と差がないことが確認されています」と長谷氏は語った。

有機JAS認証は放射線育種でも可能

コシヒカリ環1号にはカドミウムを吸いにくい遺伝子の特許があり、その遺伝子を持つあきたこまちRを農家が栽培するときには特許の許諾料がいるので、農家の経営を圧迫するのではないかという懸念に対して、小松氏は、その負担は非常に低額であり、農家の経営を圧迫することはないと説明した。

「特許権と育成者権を合わせた許諾料は、1キロ当たり5円程度で、10aあたりの種もみ使用量は4キロ程度です。つまり、10aあたり20円程度で大きな負担ではないと思っています」と小松氏は説明する。また、有機JAS認証については、「国にも確認しましたが、これまで同様、放射線育種(由来も含む)は有機JAS認証できますし、海外でも同様に認証されており、問題ありません」と小松氏は断言した。

農業の技術革新と風評被害

あきたこまちRの導入に伴う風評被害対策について、小松氏は、丁寧な説明と情報提供を通じて正しい理解を促すことが重要だと強調した。メディアや報道機関にも正確な情報を提供するよう呼びかけた。

「風評被害対策として、正しい情報を丁寧に提供し、理解を深めてもらうことが大切です。既に多くの消費者が正しい情報を理解し、問題ないと認識しています」と小松氏。

一部の消費者からは、自然に反するものを食べたくないという意見や、放射線を当てた米の安全性への疑問があるようだ。これに対して長谷氏は、植物の放射線感受性は人とは異なり、当てた線量は植物が生き残るレベルであることを説明。そのうえで、

「植物は放射線に対して非常に強く、人の致死量とは比較になりません。また、放射線を当てたことで強い放射線を放つようになることもありません」と長谷氏は説明した。

岡山大学の研究者が、放射線を当てなくても低カドミウム米を開発できると発表したことについて、小松氏は、「海外の基準値にも対応できるかを実際に農地で効果を確認する必要があります。こちらの品種は日本の系統とは異なるインディカ種がベースであり、地域では交配育種し栽培特性とカドミウム低吸収性の確認が必要で年数がかかります。あきたこまちRやコシヒカリ環1号は、すでに高いカドミウム吸収抑制効果が確認されています」と指摘した。

あきたこまちRは、コシヒカリ環1号(イオンビーム技術を用いた突然変異育種)との交配育種(交配後、更に7回戻し交配)によって生まれた新しい品種であり、カドミウムをほとんど吸収しないという優れた特性を持つ。一部の消費者の間にある懸念や疑問に対して、専門家は科学的な根拠を持って丁寧に説明している。今後も、この技術の普及とともに、安全で安心な食品の供給が期待される。

あきたこまちRをめぐる議論は、科学技術の進歩と消費者の安全意識のバランスを考える上で重要な事例である。

【第1回はこちら】

 

編集

AGRI FACT編集部

 

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