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Vol.13 牛乳、グルテン、白砂糖は悪!? 「アンチ●●」まとめその1【不思議食品・観察記】
科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。驚くべき言説で広まる不思議食品の数々をウォッチし続けている山田ノジルさんが今回注目するのは、既に否定されているにも関わらず、「有害」とみなす「アンチ●●」の世界。消費者として食の安全を求めるのは当然ではあるものの、こうした言説によって不安な気持ちを利用されているケースも多そうです。
日頃目にするあの食品が、実はヤバい! そんなノリで広まる「〇〇有害説」。別名「アンチ〇〇」とも呼ばれます。「アンチ〜」というネーミングを使うことに対して「レッテルばりだ」という抗議も現れますが、不安を煽ってセンセーショナルに根拠なき言説を発信する(もしくは拡散に協力する)のはやはり「アンチ〜」と呼ばざるをえないのではないでしょうか。たとえそれが「大切なヒトたちに、重要な情報を広めたい」という善意からであっても……。何かしらの商用PRであれば、なおさらです。
今回は、食における「アンチ●●」の有名どころをおさらいしてみましょう。
アンチミルク
明治時代の文明開化から、日本人の食卓に広められていった牛乳。母乳よりも牛乳! 牛乳飲めばスーパー健康! 今のアンチミルクとは真逆の方向でPRされまくり。そうすると当然逆張り勢が現れます。まずはマクロビのもとである「食養」周辺が牛乳批判。「牛乳は仔牛の飲み物で、人には適していない栄養だ」という有名なキャッチも、このころ登場したものです。その後の経緯はちょいはしょり、戦後に学校給食を経て家庭の食材へと浸透していきました。
するとまた、食の西洋化に警鐘を鳴らす医師などが現れ、決定打は管理栄養士による健康本の大ヒット作『粗食のすすめ』でしたでしょうか。牛乳有害説がドカンと広まり、その後マイナーチェンジを繰り返しながら、今の時代にも根強く浸透しています。
「日本人の体質には牛乳はあわない」「アトピーや花粉症が増えたのは牛乳が原因」「牛乳はカルシウムがとれると謳われているが、実はその逆で骨粗鬆症になる」「成長ホルモンや抗生物質が含まれているので危険」
これらは既に科学的に否定されているものの、こうした説はいつまでも拡散され、業界団体である一般社団法人Jミルク(旧・日本酪農乳業協会)が、ファクトブック「『アンチミルク』に答える解説集」までを作成するまでに。
この冊子をざっと見るだけでも、業界関係者の日頃のご苦労がしのばれます。昨今では昆虫食に火が放たれ、何の非もない事業者たちが対応に追われていますが、食品に関するこうした動きはきっとこれからも変わらないのでしょう。
ところで昨今は牛乳廃棄に注目が集まり、牛乳の消費を応援したり「コオロギ食より牛乳を!」という声が激増しているなか、アンチミルク勢はどうお過ごしでしょうか。
白砂糖有害説
「白い砂糖は絶対に買わないようにしている」
少し前にSNSのこんな投稿が共感を集め、ネットニュースにもとりあげられていました。白砂糖でなく茶色系を選ぶ理由は、「意識が高いわけではなく、塩と間違えないため」。わかりみ深さが笑いを誘い、ネット空間に共感の渦が発生したのでした。
この背景には「茶色い砂糖のほうが身体にいい」という言説があります。しかし実際は黒砂糖やてんさい糖は白砂糖と比べると確かに若干ミネラルが多いものの、それはごく微量であり、健康を左右するほどのものではないことが昔からあちこちで指摘されています。ところが根強くこんな言説が出回ります。
「白砂糖はミネラルなどの栄養素は取り除かれてしまっている」
「白砂糖は自律神経をぶっ壊す食べ物」
「砂糖を食べすぎると子どもがキレやすくなる」
「白砂糖は体を冷やす」
「キレやすくなる」というのは「砂糖をたくさん食べると血糖値が爆上がりしてインスリンが大量に分泌されて低血糖が起こりイライラする」というそれっぽい説明がセットになるのがお約束。「今の子供はキレやすい」と言うけれど、砂糖がそれほど口に入らなかった粗食な時代も、子どもの凶悪事件って山ほどありますよね。「砂糖なし育児で子どもが穏やかになりました!」という体験談も大変よく見かけますが、個人差はあれどエネルギーの塊のような子どもがいつもニコニコ静かにしているほうがよっぽど心配だと思ったり……。「穏やかでいてほしい」という気持ちはわかるけど。
牛乳や小麦も含み、自然派嗜好・健康意識の高い人たちは、基本的に「白い食品」がお嫌い傾向。血糖値については「炊き立ての白米」も危険視されていて(冷ましたほうがいい説)、あらゆる健康情報を取り入れたら一体どんな食卓になるのかぜひ体験してみたいところです。
アンチグルテン
数年前、スーパーのエスニック食材コーナーで「フォー」の袋を手にとって驚きました。パッケージに目立つように「グルテンフリー」と書いてあるからです。え? フォーって「米麺」だよね。「小麦粉入ってません」って当たり前ですよね。それとも私が知らないだけで「小麦入りフォー」が存在していたのか……?
これは「グルテンフリー」が流行し、需要が増えたことで昔からあるフォーにもいっちょ付加価値を盛ろうとした工夫でしょう。
グルテンとは、小麦の種の中に含まれている栄養素のひとつ。ガムのように伸びる性質があり、うどんのコシやモチモチ感、パンの弾力などを生み出します。様々な小麦粉製品でそのおいしさを楽しめるものの、まれにグルテンを受けつけない「セリアック病」という免疫疾患の人にとっては大敵です。「グルテンフリー」はその治療法として生まれた食事療法ですが、それを一般にも取り入れようと提唱されたのが「グルテンフリーダイエット」(2013年に書籍が発売)。そしてアスリートなどの有名人たちが「グルテンフリーでパフォーマンス向上!」という体験談をだしたものだから、ブームが過熱していきました。
そこからセリアック病の拒否反応である小腸トラブルが一般の話にアレンジされ、腸内環境云々〜と語られています。小麦製品を避ける食スタイルは、糖質ダイエットにもつながるので、いろいろな食理論をまたぎながらジワジワ広がっていきました。
「グルテンを食べると多幸感が得られるので中毒性がある」なんて話があるからでしょうか。久しぶりにグルテン(小麦製品)を食べる人がその高揚感と相まって、「グルテンをキメる」なんて表現しているものもあり、いつからパンは禁断のブツになったのか、世相の面白さが現れています。
しかし小麦粉製品であるパン・麺類には愛好者も多く、アンチグルテンな風潮を揶揄ってか、おいしそうな料理画像とともに「アンチグルテンフリー」と書いた投稿も見つけられます。食の主張がSNSのタグで可視化できるのは、今の時代ならではですね。
アンチ味の素
うま味調味料こと、グルタミン酸ナトリウム。料理のチート的アイテムとして、一部から愛され、一部から蛇蝎のごとく嫌われる「味の素」です。
ひと昔前は「化学調味料」と呼ばれ、コレを使うと「バカ舌になる」、頭痛などを引き起こす「中華料理店シンドローム」になるなど、根拠なき言説が出回りました。今でも比較的よく見るのは「子どもに化学調味料や砂糖を与えると発達障害になる」系の脅しビジネスです。よくわからない食コンサル商売の場や自然派界隈では、「危険な白い粉」扱いです(祖母たちの時代は味の素は頭がよくなる! って言われてたというのに〜)。
そんな「アンチ味の素」の対抗選手としてトップを突っ走っているのは、バズレシピな料理研究家。味の素のナイトとして、ご活躍をお祈りしております。
都市伝説では「味の素の原料は髪」というネタがありましたが、今はそれが一周回って斜め上の方向へ飛び立ち、「シャンプーに味の素を加えると髪がサラサラになる」というポジティブなアレンジ法まで発生しています。創意工夫が過ぎるぜ。
このほか「コオロギ」「添加物」「電磁波」「塩」「水道水」等々、まだまだあるのですが、今回はひとまずこんなところで。続きは「その2」でご紹介しましょう。
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