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第19回「怪しさ」から身を守るシンプルな方法を考える(後編)【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

コラム・マンガ

1月4日開催の東京・吉祥寺でのトークイベントに講演者として招かれた間宮さん。会場で披露できなかった内容を前編に引き続きここで紹介します。


前回の記事掲載から数日後、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。

大変なことが起きたという恐怖と悲しみ、一刻も早く終結してほしいという平和への願い、といった普遍的な心情くらいは、身の回りの誰とでも自然に共有できるものと思っていたが、甘い考えだった。

ほどなくして、オーガニック関係者のSNS投稿やメーリングリスト等で、一般に報道されている内容とは真逆の「真実」に気づいた、という声が聞こえ始める。

この戦争は仕組まれた茶番劇だ。

メディアはみんな嘘をついている。

プーチンにはやむを得ない事情があった。

ウクライナでは実はロシア軍は歓迎されている……。

ある日、ウクライナ問題については馬渕睦夫という人の動画を見ればすべて腑に落ちると教わったので、どのような人物かと調べてみたら、「疫病も戦争も全部ディープステートの計画」と主張している人だった。

無防備すぎるくらい、典型的な「陰謀論」だ。

メディアの報道や公的情報を鵜呑みにしない姿勢はもちろん大切なことだし、紛争当事者を純粋な善と悪に隔てることなど不可能だ。

だがなぜ、わからないことはわからないと言えないのか。

専門家や研究者でもない一市民にとって、わからないことは罪ではない。

なのに、なぜよりによって「その山」を選んで登ってしまうのか。

デマ・陰謀論の研究は世界的に進んでいるというが、その成果が社会に浸透するまでどれだけ時間がかかるのか、誰にもわからない。

生活のなかで、とりいそぎ「怪しさ」から身を守るシンプルな方法が、やはり必要だ。

うっすらとした不安を抱える人へ

先にお断りすると、何も革新的な提案があるわけではない。

さらに今から触れることは、デマ・陰謀論の発信源となるインフルエンサーや、すでにそれらに強く影響されてしまった人々に対しては、無力だ。

宗教学者の辻隆太朗氏によれば、陰謀論とは「世の中はこうあるべきだという認識と現実とのギャップを、自分で理解するのに都合のいいように埋める解釈枠組の一つ」であり、それが導き出されるためには「『世界は間違っている』という判断と、自然にそうなるはずがない、という前提が必要である」という。(現代思想2021年5月号特集「陰謀論」の時代

このような世界観のもとで、食と農のデマ・陰謀論にほとんど依存的に執着し、発信側に回っている場合には、深刻な病気の経験や、社会への強い不信感を抱くに至る、やむを得ないルーツが背景となっている場合も少なくないため、単なる事実の提示や訂正はほとんど意味がない。

それよりも、食の安全について関心はあるものの、体系的に学ぶ機会がないままうっすらとした不安を抱えながら日々の生活を送る大多数の人にとってこそ、シンプルな防衛策が必要だ。

遅さが生む力

前回、種苗法改正の例を挙げ、誤った情報拡散が社会の議論リソースを食いつぶしていると述べた。

だがそもそも、大文字の「社会」など持ち出すまでもなく、ひとりひとりの有限な人生が無駄な議論に費やされることなく、もっと豊かで幸せな時間のために使われてほしいと願うし、自分自身もそうありたい。

誰もが生活のなかで社会のあらゆる課題に対して心を配り、多角的に情報を集め、その真偽を正確に判断することなど実際には不可能だ。

そんなことをしようとしていたら、あっという間に心を病んでしまう。

かといって、コロナ禍で私たちが学んだ通り、専門家や著名人であっても、専門外の分野では陰謀論めいた思考に囚われてしまうことは往々にあって、特定の誰かを信じていれば大丈夫ということでもない。

だからこそ、あえて「判断をおこなわない」あるいは「判断を遅らせる」ことに、思いがけない価値が生まれる。

保留フォルダを持つ

食と農の分野に限って言えば、少しでも聞いていて違和感を持ったり、真偽の判断がつかない情報に関しては、ひとまず自分の中で「保留フォルダ」を作って投げこみ、寝かせておくことをお勧めしたい。

簡単な箇条書きの手書きメモなどで、見える化してストックしておくのもいいと思う。

それでモヤモヤした気持ちを抱えることになったとしても、すぐに判断しない、行動を起こさないという「遅さ」こそが、流されにくい力を生む。

口で言うほど簡単ではないと思う。

こわい話を聞いて不安になるのは誰でも当たり前で、何も悪いことではない。

特に、誤った情報が拡散される際には、受け手の感情に揺さぶりをかけるような強い表現が用いられることが多い。

表向きはポジティブな言葉を使っているようでも、その流れに同調しなければ後ろめたく感じてしまう、罪悪感を盾に行動を迫ってくる。

でも、スマホで検索したくなる誘惑を意識的におさえて、別のことに時間を使おう。

彼らが一番嫌がるのは、感情で呼応してもらえないこと。

いったん寝かせて放置されてしまうことだ。

何も個人でファクトチェックや検証をする必要は全くない。

それで何かが手遅れになることなど決してないので、安心してほしい。

オーガニック給食にご注意

一見「良い活動」のように見えるケースもある。

たとえば、最近なら「オーガニック給食」には注意が必要だ。

その理由については過去の連載でも繰り返し語ってきたので反復しないが、近年「オーガニック給食」という言葉のひとり歩きについては、目に余るものがある。

子育てをしていたり、さらにオーガニックにも関心があれば、周囲から署名活動や集会への参加を求められる機会があるかもしれない。

その際に、もし余裕があれば、運営団体の活動や主張、バックグラウンドをよく観察してみてほしいが、もちろん通常はそんな時間はないと思うので、ひとまずスルーしてしまって良いと思う。

参考記事

他者を手段化する運動に注意

もっと端的に言えば、

・わかりやすく自信をもって正しさを断言する(例:●●こそ唯一の解決策です!)
・不安を煽る言葉で行動を促す(例:このままでは大変なことになります!)
・考える時間を十分に与えようとせず、即行動させようとする(例:もう時間がありません。未来の子供たちのために、どうか今すぐ●●していただけませんか。)

こうした言葉が向かってきたときはすべて、保留フォルダへ投げ入れてしまって良い。

目の前の他者を手段化せずに尊重しようとする気持ちがあれば、決してこういうことを言わない。

あなたを「動員」の対象として、コントロールしたいという欲求が、上のような言い回しを生み出す。

例えば署名であれば、ちょっと検討してみる、持ち帰って考えてみるなどと応じた際に、提出期限などを理由に「今すぐ書いてほしい」と強く求められる場合は、他者を「動員」の頭数と見ているあらわれだ。

いつか恐ろしいことが起きます、という呪い

ひとつ覚えておいてほしいのは、食と農の不安を煽る情報の多くは、その危険性を示す充分な科学的根拠を持ち得ないため、彼らのいう「人体への影響」が実際に発生するスケジュールや確率に関しては、明言されないという特徴を持っている点だ。

農薬、化学肥料、食品添加物、F1種、遺伝子組換え、ゲノム編集、放射能に至るまで、即座に健康被害が確認できるような食品は当然ながら流通しようがないので、必然的に彼らの主張する「影響」には時差が伴う。

さらには「このままでは数年後には恐ろしい健康被害が多発する」という主張が、いつの間にか10年単位のスケジュールに引き延ばされていたり、「将来にわたって一切の健康影響がないとは言い切れない」といった表現で、ひたすらに解釈の幅を薄めて広げることで、結論は果てしなく先送りされ続ける。

自分たちの主張が間違っていたのかもしれない、という可能性に彼らが向き合う日は永遠に訪れないようになっている。

その数十年後には、彼らはもうこの世にいないのだから責任を追及されることもない。

手遅れなどない

判断を遅らせたせいで何かが手遅れになることなどない、としたのはそういう意味だ。

この「時間差」は、食と農をめぐる不安情報の本質のひとつではないかと思う。

ゴールポストを動かし続けることで無限に延命可能な「不安」に、どこまで真剣につきあう必要があるのか。

少なくとも、煽られるままに慌てて何かを判断する必要はまったくない。

そう考えるだけでも、ほんの少しの余裕が生まれるのではないだろうか。

前編はこちら

【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】記事一覧

筆者

間宮俊賢

 

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