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「飲食店オーナーから見た規格外野菜」:21杯目【渕上桂樹の“農家BAR NaYa”カウンタートーク】

コラム・マンガ

飲食店を経営していると、「私もお店を開きたいと思っています」という方からお話を聞く機会があります。私の店は農業をテーマにしたバーなので、その内容は農産物や仕入れに関するものが多いのですが、中でも「規格外野菜」についての話題がよく出ます。先日は、自分のカフェを開きたいという若い女性から「農家さんと仲良くなって、行き場のない規格外の野菜や果物を仕入れることで、農家さんの役にも立って、仕入れも安くして、Win-Winの関係を~」というアイデアだったのですが……。

規格外野菜の不思議な魅力

どうやら規格外野菜には不思議な魅力があるようで、「規格外野菜を利用すれば農家は助かるだろう、飲食店は助かるだろう」というアイデアを聞いたのは一度や二度ではありません。
人々を惹きつけてやまない規格外野菜ですが、そこにはいくつかの誤解があります。

以前農業をしていたとき、「規格外野菜を(格安で)譲ってほしい。○○kgくらい。来週の〇曜日にお願いします」のような要望をもらって戸惑うことがありました。
規格外野菜とは狙って出せるものではありませんし、わざわざ用意してもおカネにならなければ仕事として成立しないからです。

しかも、規格外野菜をせっせと売ることは正規品の値段を下げることにもつながります。
こうした理由から、規格外野菜の利用にメリットが少ないことはもはや農家の共通認識に近いですが、実は飲食店側からしても同じことです。

メリットの少ない規格外の利用

理由は2つあります。効率と安定性です。

1つ目の効率とは、時間とおカネの両方の意味です。
規格外野菜は普通には流通していないので、集めて回るのには時間がかかりますし、苦労して集めてきた不ぞろいの野菜をカットして、使えない部分を取り除いていたら仕込みにも時間がかかります。

私は農家を回ることが多いので、たまたまそのときにあれば規格外野菜を仕入れることもありますが、普通の飲食店経営者にそんな暇はないと思います。
今は野菜が(原材料の高騰にも関わらず)とても安く、普通の規格の野菜を仕入れても経費はかかりにくいので、苦労して規格外野菜を利用するメリットは薄いのです。

2つ目の安定性とは、量と品質の両方の意味です。
規格外野菜は収穫して選別するまでどのくらい採れるのか分かりませんし、野菜の出荷先によっては収穫の日も決まっています。
ですので「規格外野菜を来週〇曜日に〇〇kgお願いします」という要望には応えてもらえないのです。

また、規格外野菜には文字通り規格がないので、品質も安定しません。
規格外野菜の話では「曲がっているけどおいしいきゅうり」が例としてよく登場しますが、それは等級を変えて出荷できるものですし、直売所でも売れるので「行き場のない野菜」ではありません。

つまり、「規格外野菜は見た目が良くないだけで味は遜色ない」というのは誤解で、実際に行き場のない野菜は食味のわるいものや、すぐに消費しないとたちまち傷んでしまうようなものもたくさんあるのです。

飲食店では「今日は良い規格外野菜がありませんでした」とお客さんに説明するわけにもいかないので、量・質ともに不安定な規格外野菜には期待できないのです。
こうした理由で、私の店では正規の値段で、正規品の野菜を主に仕入れることにしています。

規格外をめぐるプロの動きにこそ注目を

「それでも、農家のために規格外野菜をなんとかしたい!」「廃棄される野菜をなんとかしたい!」と言う人もいます。
規格外野菜を社会共通の課題として捉える人たちです。
私も何度かこうした考えを持つ生徒さん・学生さんから連絡をもらい、お話ししたり一緒に考えたりしたことがあります。
「飲食店オーナーから見た規格外野菜」2生徒さん・学生さんは解決策を探していることがほとんどですが、この課題を一発で解決するすごいアイデアはありません。ですが、ヒントならあります。

ヒントとは、規格外野菜を加工したジャムやお菓子のことではありません。
安定した栽培技術の向上・普及にそのヒントがあると思うのです。
様々な環境で、安定した品質の野菜・果物を栽培する技術を高めることは、規格外野菜のテーマに直結します。

規格外野菜の課題は、今まで誰も目を向けて来なかった未知の課題ではなく、たくさんのプロフェッショナル達が何世代にもわたって取り組んできたテーマなのです。
プロフェッショナルとは、農家、研究者、資材を作る人、品種開発をする人、化学・機械メーカー、技術を普及させる指導員、学校の先生たちや、規格について考える市場関係者や流通業者など数えきれないほどです。

規格外野菜で料理を作った高校生が地元テレビに取材されることはありますが、こうしたプロフェッショナルの仕事の多くは一般に知られる機会がありませんでした。

私は「捨てられる野菜をなんとかしたい!」と集まった関心が、こうした仕事に向くことに期待したいと思います。
規格外野菜に関心を持った方は、ぜひこうしたプロフェッショナルの話を聞いてみてください。
彼らもまた、あなたと同じ気持ちで仕事に取り組んでいるかもしれません。

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

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