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Vol.2 “看板”だけが先行する現場でいま起きていること(後編)【「オーガニック給食」ブームの光と影】

「オーガニック給食」ブームの光と影

農水省が策定したみどりの食料システム戦略や有機・オーガニック運動の活発化を受け、「オーガニック給食」を掲げる自治体が増えている。何らかの形で“オーガニック”をうたう給食に取り組んだ自治体は、すでに数百に達すると言われる。しかし、その内実を精査していくと、「過去に一度だけ有機人参を出した」というレベルの単発事例から、コメの全量有機化までと、自治体による温度差が激しい。全国各地で「オーガニック給食」ありきが横行するブームの現在地 後編を報告する。

出発点は2パターン

熊宮渉氏は、多くの場合、オーガニックビレッジの出発点は次の2パターンだという。

  • 首長からのトップダウンの指示、議員からの圧力• 市民団体
  • 一部生産者からのボトムアップによる強い要望

いわゆる“ママ系”市民団体や、ごく少数の有機生産者グループが連携し、「子どもたちのためにオーガニック給食を」「差額は行政が負担すべきだ」と働きかけるケースだ。

「こうした市民団体は、署名集めやイベントなどを無償で動いてくれるので、政治家や行政サイドと思惑が一致した場合には、実に“使い勝手のいい存在”になってしまいます。一方でそれに乗る生産者側も、規模は小さく、経営的にも必ずしも安定していない場合が多い。量も品質も安定しないのに、『自分たちはいいことをしているのだから評価されないのはおかしい』という思考に陥りがちです」

そこに、首長の「全部買い取るよ」といった安易な約束が重なると、現場の栄養士や給食センターが対応しきれない現実とのギャップが一気に噴き出す。

ビジョンも生産基盤もないまま「走り出してしまう」構造

一方で、オーガニック給食やオーガニックビレッジがうまくいかない主な原因は、大きく二つに集約される。

1. 地域としてのビジョンがない
「何のために有機を増やすのか」「地域農業をどうしたいのか」という議論がないまま、先に「オーガニック給食ありき」で話が始まってしまう。

2. 生産基盤がない
地域の有機生産者がごく少数、しかも技術面・経営面で不安定な場合が多い。

「じっくりと生産基盤から整えないといけないのに、ビレッジ宣言を急いだ結果、宣言が終わった頃には具体的なプランもないまま交付金の残り期間が1〜2年しかない。正直『もう間に合わない』としか言いようがない。そうなると、どうしてもイベント的な単発導入に流れていきます」

その結果、「オーガニック給食」という名前だけが立派で、中身は看板倒れ――という構図が繰り返される。

「有機は目的ではなく道具」という発想

では、オーガニック給食や有機農業支援は、どうあるべきなのか。

熊宮氏は、有機農業やオーガニック給食を「ゴール」とみなすのではなく、地域が目指す姿を実現するための「道具」として位置づけるべきだと強調する。地域資源の循環や生物多様性の保全、環境負荷の低減といった課題をどのように解決したいのかを先に定め、その手段の一つとして有機をどう組み込むかを設計すべきだという考え方だ。その結果として有機の作付面積が増え、地域農業全体の底上げにつながっているのであれば、対立や反発は生まれにくいとみている。

学校給食も、その文脈の中で位置づけられるべきだろう。

  • 地元の農家との関係をどう築くか
  • 子どもたちにどんな“食の経験”を届けたいか
  • 給食センターの設備や人員で、どこまで対応できるか
  • 教育・環境・農業振興をどう一体化させるか

こうした議論をすっ飛ばして「オーガニック給食をやるにはどうしたらいいか」と考え始めた瞬間、ツールが目的化し、形骸化への道が開いてしまう。

現場の栄養士が示す、もう一つの方向性

オーガニック給食をめぐる議論がヒートアップする一方で、現場の学校栄養士が静かに実践を積み重ねている例もある。

「例えば東京都中野区には、地域の旬の野菜や伝統的な江戸東京野菜などを積極的に取り入れ、生産者と直接やり取りしながら給食づくりをしている栄養士さんがいます。

手作りのパネルで食材の背景を伝えたり、産地との交流を企画したりと、非常に“地に足のついた”食育に取り組んでいる。その栄養士さんはむしろ、有機給食ブームには慎重で、ラベルよりも中身を重視する姿勢を持っているんです」

こうした事例に共通するのは、「オーガニック」という看板を前面に出さないことだ。地域の農と子どもの学びをつなぐことを第一に考え、その結果として有機農産物も選択肢の一つとして位置づける。

そこでは、不必要な対立もイデオロギー対立も生まれない。

「オーガニック給食」を問い直す

有機農業には、土壌や生態系への配慮、資源循環など、評価すべき側面が確かにある。一方で、「アレルギーやアトピーは農薬のせいだ」といった科学的根拠の乏しい言説や、感情に訴える映画・キャンペーンが、その正当な評価を歪めてしまっている側面も否定できない。「オーガニック給食」は、そうしたさまざまな利害と感情が交差する“交差点”になっている。

  • 首長や議員にとっては、分かりやすい「いいこと」の旗印
  • 市民団体や運動家にとっては、メッセージを拡散する格好のテーマ
  • 一部の生産者にとっては、販路確保と価格補填を求めるための手段
  • コンサルや周辺ビジネスにとっては、新しい市場

そこに、子どもたちの給食と、地域農業の将来が巻き込まれていることを、私たちは見落としてはいけない。現在の議論がしばしば「オーガニック給食の賛否」という二項対立に矮小化されているのではないか。本来問われるべきなのは、「地域の農業をどう維持・再構築していくのか」「学校給食を通じて子どもたちにどんな経験や知識を届けたいのか」といった根本的なテーマだ。しかし、ラベルとしての“オーガニック”に注目が集まるあまり、その裏側で行われるべき生産基盤づくりや、栄養士・生産者・行政が地道に積み上げる協働のプロセスが十分に評価されていない。

熊宮氏は最後にこう語った。

「わざわざ『オーガニック給食』という名前をつけて、それをやりたい人たちのための言葉にしてしまったこと自体が、問題の出発点だったのかもしれません。給食も有機も、本来は地域の農業と暮らしを良くするための手段のはずです。今一度、目的と手段を取り違えていないかを、現場ごとに問い直す必要があると思います」

Vol.3へ続く

 

筆者

AGRI FACT編集部

 

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