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子供達のためにオーガニック推進に立ち上がった「カッコいい」市長名鑑②【オーガニック問題研究会マンスリーレポート13】

オーガニック問題研究会マンスリーレポート

2023年3月に栃木県内初のオーガニックビレッジを宣言した小山市は、全国自治体のなかでも先進事例のひとつとして注目を浴びてきました。ですが、その取り組みや発信内容に関しては疑似科学や誤情報に偏っているのではないかとして、これまで何度かSNSやメディアで話題となっており、有識者からは疑問視する声が上がっています。

ファイル③栃木県小山市・浅野正富市長 山田正彦氏らと連携し、オーガニック給食運動の一大拠点に成長

現市長の浅野正富氏は2020年の初当選以来、小山市の有機農業をトップダウンで強力に推進してきました。令和6(2024)年度に策定された「小山市有機農業実施計画」によると、令和7〜11年度にかけて毎年3,000万〜4,000万円もの市単独予算を計上する予定となっており、市町村レベルの有機農業の取り組みとしては異例といえる規模感です。(※1)

学校給食では米を中心に年間数十回の「オーガニック給食」が提供されており、食材の地場産比率は80%近くにのぼるということです。(※2)

さらに現在、浅野氏の動きは小山市内にとどまらず、全国的なオーガニック給食推進の牽引役としても急速に活動の幅を広げています。

各地の自治体・農協・市民団体などで構成される「全国オーガニック給食協議会」では2025年度の代表理事を浅野氏が務め、事務局を小山市が担うという市を挙げた体制のもと、2026年7月には「第3回 全国オーガニック給食フォーラム」の開催地になることが決定しています。(※3)

「全国オーガニック給食フォーラム」にはこれまで多数の国会議員・地方議員・自治体首長・官僚らが出席しており、オーガニック給食をテーマにした集会としては国内最大規模になります。

ただし、小山市の有機農業の取り組み自体は浅野氏の市長就任で急に始まったものではありません。その背景には、浅野氏自身が弁護士時代から長年にわたり力を注いできた、湿地保全の活動があります。

小山市内も含めて3,300haにも及ぶ広大な渡良瀬遊水地は、2012年7月にラムサール条約(水鳥を筆頭に湿地の生態系保存に関する国際条約)に登録されています。浅野氏はNPO法人ラムサール・ネットワーク日本事務局長を務めるなど、遊水地のラムサール条約登録に向けて中心的な役割を担ってきました。

遊水地に近い生井地区では元々、20年以上も前から環境に配慮した特別栽培米「生井っ子」の栽培がおこなわれていましたが、ラムサール条約の登録を機に、小山市ではさらに「ふゆみずたんぼ実験田推進協議会」を設立し、冬季湛水(稲刈り後の冬場も田んぼに水を張り続けることで、圃場の生物多様性を保つ手法)の取り組みが開始されました。(※4)

つまり浅野氏と小山市がそれぞれに推し進めてきた生態系保全の取り組みが、現在の有機農業推進の礎になっていると言えるのです。

二期目の再選を賭けた2024年の市長選で浅野氏が掲げた7つの公約には、直接的に有機農業やオーガニックの文字は登場しないものの、「田園環境を担う農村・農業の支援強化」「次世代に向けた環境問題への投資」などの項目が挙げられていました。(※5)

子供たちが遊水地で自然体験や生きもの観察などに取り組める「渡良瀬子ども自然塾」も、浅野氏らの団体によって立ち上げられ、現在も開催されています。

さて、ここまで見る限り、大変地に足のついた取り組みのようにも見えると思います。筆者としても、ラムサール条約登録をはじめとする生態系保全の取り組みや、関係者の積み重ねてきた長年の努力に水を差すことは本意ではありません。

では一体、小山市における有機農業推進の何が問題なのでしょうか。それを読み解く鍵も、浅野氏自身の来歴にあります。小山市や後援会のウェブサイトなど、公式のプロフィールではほぼ触れられていませんが、浅野氏は元農水大臣の山田正彦氏らが中心となって立ち上げた「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」に主力メンバーとして参加しているのです(2025年現在は副代表)。

団体名こそ「TPP」と掲げられていますが、同会は肝心の「TPP交渉差止・違憲訴訟」が最高裁に棄却されたことを受け、2019年には「種子法廃止・違憲確認訴訟」を開始。それ以降の活動を全て種子法関連にスライドさせていきます。(※同訴訟もまた最高裁まで上告の末、2025年11月に棄却された)

浅野氏は小山市長選に出馬する前年にあたる2019年、種子法廃止訴訟の中心メンバーとして精力的に活動しています。11月には山田正彦氏らと共著で書籍『消された「種子法」』も出版し、同書の実に半分近くを占める第4〜7章までを執筆しました。

法律家の観点から種子法廃止を的確に批判した書籍が期待されるところですが、そこは誤情報と陰謀論で悪名を馳せる山田正彦氏が関与している以上、一筋縄ではありません。

案の定というのか、書影の帯文には「コメ高騰、農薬基準の大幅緩和、あふれる遺伝子組み換え作物 ――食の安全と権利が危ない!」「種苗法改定も迫る」などの恐ろしげなコピーがおどります。

浅野氏は同会の広報誌で反農薬運動家の印鑰智哉氏と対談した際、「種苗法改正により農家の自家採種が禁止され、日本の農業と食が多国籍企業に支配される」という懸念(当時流布されたポピュラーな陰謀論)とともに、強硬な改正反対を表明しています。(※6)

時は、2020年3月。「TPPの会」は、当時世間を騒がせた「種苗法改正陰謀論」の前線基地でもあったのです。

それからほんの数カ月後、小山市長選に出馬した浅野氏は、山田氏らの熱心な応援を受けて現職を破り、初当選を果たします。(※7)

AGRI FACTの読者にはあらためて説明するまでもなく、山田正彦氏は現在のオーガニック給食運動を広げたリーダーのひとりであり、「全国オーガニック給食フォーラム」の立ち上げにも深く関与し、そして「オーガニック給食に切り替えなければ子供達の健康被害が頻発し、発達障害が増加する」といった荒唐無稽な誤情報を全国で振り撒いてきた当事者でもあります。

その山田氏と深く世界観を共有する人物が市長となれば、小山市がオーガニック給食運動の一大拠点と化すのは半ば必然だったのかもしれません。

実際に、不安を煽る反農薬運動や反ワクチン思想、オーガニック食品の健康効果を過大評価した誤情報などが市の公的な場から発信されるようになるまで、ほとんど時間はかかりませんでした。

それらは市の肝入りで実施される「オーガニック講座」の現場で、特に強烈に発露していくことになります。(続く)

 

参考・出典

(※1)小山市有機農業実施計画
(※2)全国オーガニック給食視察研修会(新聞「農民」)
(※3)全国オーガニック給食協議会役員
開催決定!全国オーガニック給食フォーラム in 小山
(※4)ふゆみずたんぼ実験田(小山市役所 農村整備課)
特栽米「生井っ子」みどり認定 取り組み22年実る(JAおやま)
(※5)あさの正富後援会だより2024年6月30日号
(※6)【対談】種子法廃止、種苗法改正でどうなる?農村が消え、 食が消える。その前に――浅野正富×印鑰智哉(『TPP新聞』vol.12)
(※7)山田正彦オフィシャルブログ
昨日は栃木県の小山市長選挙の告示日で、朝から浅野正富さんの応援に行きました。
選挙でこのところ落ち込んでいましたが、なんとも嬉しい話です。
山田正彦氏は【浅野市長は農業の問題に最も明るい弁護士】と絶賛

 

【オーガニック問題研究会マンスリーレポート】記事一覧

筆者

熊宮渉(ダイアログファーム代表)

 

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