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「食の安全」はなぜ、伝わらないか【FOOD NEWS ONLINE】

コラム・マンガ

こんにちは、小島正美です。しばらく掲載が滞り、申し訳ありません。2月半ばから、「福島第一原発の敷地に増え続ける1000基あまりのタンク水をどう考えるか」というテーマの本の編著に追われていました。ようやく峠を越え、このブログに記事を届ける余裕が出てきました。


ママ美 一線の新聞記者をやめられたのに、忙しいんですね。

正美 元気なうちは、老体に鞭打って書き続けようと思っています。

ママ美 それで、今回は予告とおり、ワクチンの有効性の話でしょうか。

正美 それは次回にして、今回は「『食の安全』がなぜ、伝わらないか」を考えてみます。

ママ美 それはまた、基本的なテーマですね。

食の安全に疑問を持つ消費者

正美 これまでのブログで書いてきたように、今年春、ゲノム編集トマトの苗が無料で配布されます。そのゲノム編集食品の安全性に関するセミナーにパネリストとして参加した際、同じくパネリストとして登壇していた消費者の方から「そもそもゲノム編集食品は安全なのでしょうか」という質問が出ました。この質問を聞き、改めて「食の安全」について考えたくなったのです。

ママ美 毎度おなじみの質問だと思いますが、その質問がきっかけになったのですね。

正美 はい。ゲノム編集トマトは、業者の届け出が国に受理されました。つまり、事実上、国が科学的に安全と事前に確認したため、栽培し、売ることができるわけです。しかし、いくら科学的に安全と認められても、消費者のなかには「ゲノム編集食品は安全なのか」という疑問を持つ人が少なからずいます。

食の安全に関する記事を30年以上書いてきましたが、食品添加物やゲノム編集など新しい食品については、事実に基づき、科学的に安全がいくら証明されても、消費者の「安全なのか」という疑問は解消されることがありません

「安全」は主観的なもの

正美 これは、人それぞれの「安全観」(もしくは世界観、価値観)は主観的なもので、みな異なるためです。1億人がいれば、1億通りの安全観が存在します。つまり、1億人が納得する客観的な安全を示す指標はないということです。

これはアインシュタインの相対性理論と似ています。相対性理論では観測者はそれぞれの時空をもっていて、観測者の数だけ時空があるという考えですが、安全も全く同じだと、つくづく感じたのです。

ある食品が安全かどうかは、見る人の価値観や物差し、思考法によってみな違う。みなが異なる価値観、物差しで安全かどうかを見るので、いくら多数の科学者が「それは安全です」といっても、異なる価値観を持つ人には全く通じません。

つまり、私の考える安全とあなたの考える安全は全く異なりますね、ということです。

正美 たとえば、除草剤をまいても枯れないなどの特質をもった遺伝子組み換え作物は、世界中の政府、科学者によって、安全性が確認されています。3世代にわたる東京都の動物実験でも悪影響は認められていません。しかも、世の中に登場した1996年から世界中の家畜が組み換え飼料を食べ続けていますが、何の危害も生じていません。人は、家畜ほど大量には組み換え食品を食べていませんが、ハワイで栽培される組み換えパパイヤは米国を中心にすでに数億人が食べたと思います。しかし、健康被害は全く出ていません。

こういう科学的事実を並べても、日本(おそらく欧米でも)では半分以上の人は「それでも不安なので食べたくない」とアンケートで答えています。そういう声があるがゆえに、いまだに組み換えではない大豆やトウモロコシを使った加工食品が広く流通しているわけです。

この光景は、万人を納得させる客観的な安全基準がないという現象のひとつです。

リスクコミュニケーションはムダ?

ママ美 政府はリスクの大きさを科学的に説明し、理解してもらうリスクコミュニケーション(学問的な定義では説得や解決を目的としているわけではありませんが)に力を入れています。しかし、そんなことはやっても無駄、ということになるのでしょうか。

正美 なかなかよい質問ですね。決して無駄ではありませんが、科学的な事実を示しても、そう簡単に人の価値観は変わらないという厳しい現実があります。

たとえば、私の経験をお話ししますと、私は毎日新聞社に入ったあともずっと「社会主義こそが理想の世界だ」と信じていました。いったん社会主義の正しさを信じ込むと、旧ソ連で何百万人が粛清されて殺されたという情報を聞かされても、「そんなのは嘘だ。資本主義を守ろうとする資本家のデマ(扇動的意見)」と聞き流していました。ソ連の収容所の実態を暴露した作家のソルジェニーツィン氏が「収容所群島」という本を出しても、これも「誇張して書いているだけで半分は嘘だ」と思っていました。少々の事実ではこの信念は揺らぐことがなかったのです。

ソ連の崩壊でようやく目が覚めた

ママ美 もしかして、いまも変わっていないのですか。

正美 いえいえ、それはありえません。ソ連の崩壊を目の当たりにし、ソ連の社会主義革命を打ち立てたレーニンの像までがソ連の市民によって打ち倒されたテレビのシーンを見て、ようやく目が覚めたのです。ソ連の崩壊は歴史的な事実のひとつなので、結局は、事実という動かしがたい証拠が私の信念や価値観を変えたわけです。ですが、私の信念を変えた事実の大きさは、地球よりも重い超ド級の事実だったということです。ちょっとくらい科学的事実を示しても、人の信念は揺らがないということを物語っています。

朝日新聞の記者(私のかつての知人)は1980年代でも「北朝鮮は理想の国」という連載ルポを書いています。現場に行っても、良いところしか見えないのです。人は、自分が見たいものを見るのです。これも信念のなせる業です。

コロナワクチンの副反応問題も同じ

正美 いま新型コロナワクチンの副反応問題がメディアを賑わせていますが、これも根っこは同じだと思います。遺伝子組み換え作物に反対している市民グループの中には「コロナワクチンは危険だ。接種してはいけない」という声が意外に多い。その人の講演を聞くと「ワクチンは、資本主義が国家を存続させるために集団に強いている道具だ。そんな道具を信じていけない」という論法です。

こういう国家観を持つ人に科学的なデータを示しても説得は難しいと思います。

ママ美 一般的なコミュニケーションをしていても、相手の価値観によっては、「安全」は伝わらない、ということですね。

正美 そうです。リスクコミュニケーションは、相手がどういう価値観や世界観をもっているかを探りながら議論することが大事です。

また、食の安全性について科学的な事実に反する「トンデモ記事」が後を絶たないのも、「安全」が主観的であることと関係があります。このブログでも引き続き、具体的な事例を挙げながら、価値観と安全性の関係を考えていきます。

FOOD NEWS ONLINE「第37回 「食の安全」はなぜ、伝わらないか」を許可を得て転載(一部編集)

筆者

小島正美(「食品安全情報ネットワーク」共同代表)

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