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第15回 ベジタリアン団体が給食の加工肉使用で学校を提訴【IARCに食の安全を委ねてはいけない】

特集

オーガニックカルトが学校給食で有機食材の利用を熱心に働きかける事例は日本だけの現象ではない。海の向こうアメリカの東海岸や西海岸のリベラルな地域でも、反農薬やヴィーガン、ベジタリアンといった自分たちの思想を学校給食に押し付けようとする活動が起きている。その根拠となっているのが農薬や加工肉を発がん性物質に分類するIARCのハザード同定だ。

IARC分類をもとに学校を提訴

学校給食は子どもの学習を持続させるために重要である。子どもたちの中には家庭のさまざまな事情で、学校給食が健康的で栄養価の高い唯一の食事ということがあるからだ。そのため栄養や安全性には細心の注意が払われている。

ところが、「健康的ではない」ことを理由に通常の学校給食提供に反対する団体もある。例えば、NYのPTAは、有機農法を用いた食品のみを学校で提供するよう求める決議を行った。カリフォルニア州では、学校給食に「加工された肉類」が含まれることを阻止するための訴訟が起こされた。

2017年4月初め、責任ある医療に関する医師会(PCRM)という団体が、カリフォルニア州のロサンゼルス統一学校区とパウエイ統一学校区の学校が生徒にホットドッグ、ペパロニ、ランチョンミートなど、大腸がんと関連があるとされる加工肉の提供をやめさせる目的で訴訟を提起したのだ。

学校を訴えたPCRMはWebサイトで、加工肉を最もリスクの高いカテゴリーの「グループ1=人に対して発がん性がある」に分類したIARC(国際がん研究機関)の2015年10月のモノグラフを引用している。

IARCの分類システムの欠陥に深入りするまでもなく、データが発表された論文によれば、加工肉類とがんとの関連性は非常に弱い。悪名高き「プロポジション65(1986年安全飲料水及び有害物質施行州法)」のガイドラインに基づき、がんを引き起こすもの全て(そうでないものも多数)を表示するカリフォルニア州でさえ、加工肉の表示を拒否している。

アルコール飲料も同じくグループ1に分類されている。したがって、もしPCRMのメンバーの誰かがワイングラスを手にしているのを見かけたら、「偽善者」と呼ぼう。また化学兵器のマスタードガスもプルトニウムもグループ1である。彼らはソーセージ加工肉をはさんだホットドッグがマスタードガスと同じように子供にとって危険だと本気で考えているのだろうか?

これがIARCの単純化された分類システムの問題点の一つで、被曝の可能性や実際の曝露量がまったく考慮されていないのだ。しかし、カリフォルニア州にとっては、IARCの発がん性リストに掲載されれば、警告ラベルを貼る理由にはなる。

PCRMの食育ディレクターであるSusan Levin, M.S., R.D.は、Webサイト上でリスクの低さを無視し、”大腸がんは今や若者の間で急増している”、”カリフォルニアは今すぐ加工肉を禁止して、Z世代以降の罹患率を下げる措置を取るべき “と述べている。

若者の大腸がんの症例数が多少増えたという発表があり、その後メディアで過剰に報道されたが、実際の増加は50歳未満の10万人あたりで1〜2人増えたにすぎない。そもそも大腸がんを語るときの「若い人」とは50歳以下のことであり、小学生ではないのだ。当然、学校給食でソーセージやハムサンドを中止する理由になるはずがない。大腸がん全体の症例数は減少しており、50歳以下のわずかな増加は、肥満の増加に起因していると考えられている。

子どもの健康より食肉排除の目標を優先

責任ある医療に関する医師会(PCRM)とはいかなる団体なのか。PCRMはワシントンD.C.を拠点とするベジタリアンやヴィーガン食のための非営利擁護団体なので、彼らの問題意識は加工肉ではなく、すべての肉に向けられている。この学校給食に対する訴訟は、食肉が私たちの食生活から完全に排除されることを目指す、彼らのより大きな目標のための最初の小さな一歩なのだろう。

しかし、肉は子どもたちのバランスの取れた食事には欠かせない食材だ。ACSH(全米科学健康評議会)のシニアフェロー、ルース・カヴァ博士は、「肉には重要な栄養素が含まれており、その中にはビタミンB12のように他の食品からは摂取できないものもあります。また、鉄分、カリウム、その他のビタミンやミネラルも含まれています」と語る。

アメリカでは5人に1人、約1,500万人の子どもたちが、適切な食料を安定的に入手できない家庭で暮らしている。学校栄養士会は、“毎週月曜日の朝、週末に十分な食事がとれず、学校の朝食を求めて熱心に列に並ぶ生徒たちの顔から、この飢えを目の当たりにしています。”と指摘する。

学校給食における重要な課題とは、十分な食料を買えない家庭で暮らしている20%の子どもたちに焦点を当て、いかに健康的な給食や食生活を安価に提供するかにほかならない。ベジタリアンやヴィーガン食政策に費やす資金があるなら、その課題解決に使うべきだろう。

*この記事は、ジュリアナ・ルミュー(分子生物学シニアフェロー)著2017年4月18日公開 https://www.acsh.org/news/2017/04/18/wheres-beef-vegetarian-group-suing-over-meat-school-lunches-11151 をAGRI FACT編集部が翻訳編集した。

〜第16回に続く〜

 

【長期特集 IARCに食の安全を委ねてはいけない】記事一覧

筆者

AGRIFACT編集部

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