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第16回 加工肉・コーヒーをめぐる評価の変遷【IARCに食の安全を委ねてはいけない】

特集

IARC(国際がん研究機関)は2015年10月26日、ハムやソーセージなどの加工肉を「ヒトに対して発がん性がある」とする「グループ1」に分類し、牛や豚などの赤肉も「ヒトに対しておそらく発がん性がある」とする「グループ2A」に分類した。その三日後、IARCの上部組織であるWHO(世界保健機関)は「がんのリスクを減らすために加工肉の摂取を適量にすることを奨励したものであり、加工肉を一切食べないよう求めるものではない」と発表し、即座に火消しに動いた。IARCの評価は私たちの食生活を混乱させ続けている。

やり玉に挙げられたコーヒーだが再評価で覆る

科学的には、IARCのこれらの報告はすべて疑わしい。なぜなら、これらはメタアナリシスであり、せいぜい限られた価値しかないからである。さらに使用する研究は、非常に狭い基準を満たした研究を参加者が都合よく選んでいる。

参照

改めて説明すると、IARCでは化学物質などの発がん性について4つの分類を採用している。

グループ1:ヒトに対して発がん性がある
グループ2A:ヒトに対しておそらく発がん性がある
グループ2B:ヒトに対して発がん性がある可能性がある
グループ3:ヒトに対する発がん性について分類できない
グループ4:ヒトに対しておそらく発がん性はない

*AGRI FACT編集部註 IARCは2019年1月にモノグラフの前文を改定し、従来の「グループ4:ヒトに対しておそらく発がん性はない」を廃止した。これによりグループ4に分類されていた唯一の化学物質であるカプロラクタム(ナイロンの原料)は、グループ3に格上げされた。

このハザード同定は何十年も前から問題とされている。加工肉の約四半世紀前、1991年に彼らがやり玉に挙げたのはコーヒーだった。

コーヒーと膀胱がんとの間に弱い関係があると判明し、IARCはコーヒーをグループ2Bに分類した。その結果、米カリフォルニア州のすべてのスターバックスには、悪名高き州法「プロポジション65」の規定に従い、コーヒーに関する警告表示ラベルが貼られることになった。しかし、膀胱がんは決して増えてはいないし、今後も増えることはない。IARCのメタアナリシスの弱点は、委員会の参加者と彼らが含めたい論文の間のバイアスだけでなく、論文が含むケースコントロール研究のバイアスであり、重病人は必然的に想起バイアスを多く持つことになる点である。人はたいてい自分のがんを何かのせいにしたいものなのだ。

ここ数十年の間に、大規模なグループによるコホート研究が行われ、コーヒーの摂取は膀胱がんを含む多くのがんの減少と相関関係があることがわかっている。

IARCの評価委員会が肯定的な結果を重視し、否定的な結果を無視した場合、ほとんどの物質が “発がん性物質 “になってしまう。

私たちACSH(全米科学健康評議会)は、このことを何十年も前から主張してきた。朝食にソーセージを食べたり、コーヒーを飲んだりしても、農薬の除草剤ラウンドアップや携帯電話と同じように、がんを引き起こすことはない。

*AGRI FACT編集部追記
2016年6月15日、IARCが招集した23人の研究者からなる国際ワーキンググループは、コーヒー、マテ茶、及び非常に熱い飲料摂取による発がん性評価を公表した。コーヒー摂取による発がん影響を示す決定的なエビデンスは認められないとして、再評価の結果コーヒー摂取は「ヒトに対する発がん性について分類できない=グループ3」の分類に変更された。

しかしながら、専門家は非常に熱い(65℃超)飲料の摂取は「おそらくヒトに食道がんを引き起こすであろう」としてグループ2Aに分類した。非常に熱くはないマテ茶の摂取に関しては確証が得られなかったとして「ヒトに対する発がん性について分類できない=グループ3」に分類された。

*この記事は、ハンク・キャンベル著 2015年11月2日公開 https://www.acsh.org/news/2015/11/02/meat-coffee-why-only-activists-pay-attention-to-iarc-claims をAGRI FACT編集部が翻訳編集した。

〜第17回に続く〜

 

【長期特集 IARCに食の安全を委ねてはいけない】記事一覧

筆者

AGRIFACT編集部

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