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Vol.22 島根の野菜農家が「食品価格高騰」問題を語る【農家の本音 〇〇(問題)を語る】

農家の声

ご無沙汰しています。2025年1月に「野菜(キャベツ)高騰」問題を語った島根奥出雲の野菜農家です。

同記事で私が予告した通り、高騰したキャベツ価格は一気に落ち、輸入キャベツの確保もあって加工筋の在庫が飽和、春先こそ気温低下の影響を受けたものの6月からは順調に価格が下落しました。農産品価格は需給で動き、基本的には足りていれば値段が下がり、不足なら上がるという非常にシンプルな価格形成がなされます。ところが加工筋など一般には見えにくいところで需給ギャップが発生したりするため、消費者としては価格変動の理由が見えにくく、不満がたまりやすいのも確か。そして食品産業全体の価格が高騰した現在、消費者の不満が徐々に顕在化していると感じます。今回は食品価格全般が上がる物価高時代の農業について語りたいと思います。

農産品価格変動の怖さを実感

需給ギャップによってどれだけ農産品価格が急激に動くか。うちでも扱うキャベツを例に具体的に説明します。2025年6月18日から出荷を始めた時点では1ケース10kg1000円でスタート。それがすぐに900円に下落し、以降は何とか900円で買い支えてくれていました。Xの知り合いの農家さんからは「300円だった」「500円もいかない」という声が聞こえてきていたので、松江の市場、卸、スーパーには感謝の言葉しかありません。

高騰した1月には1ケースの価格が4000円程度だったのに6月は900円。6月の900円も特別豊作ということではなく、冬の需給崩壊が招いた人為的な価格下落で、その分想定できたこととはいえ久しぶりに農産品の怖さを実感しました。

それでも奥出雲はまだ良いほうで、島根県内でも弱小産地のキャベツは1ケース「マイナス100円」の値が付けられ、バイヤーから「ピーマン1箱買ったらキャベツ1ケースをプレゼントされた」という話を聞きました。

今は価格高騰に沸いているコメですが、乱高下が当たり前に発生する野菜の側から見ると、高騰したときこそしっかりとした営業活動、営業戦略に基づいた作付け計画を考える必要があるでしょう。

夏のトマトが高騰など売り場の異変が多発

ここ数年、小売り価格に大きなインパクトを与えているのが夏の猛暑です。分かりやすい例としては夏にトマトが高騰するというこれまであり得なかった展開です。

今までですと夏秋トマトは高冷産地のハウスものと露地ものがかぶる8月、高冷産地と平野部産地が重なる10月に市場に溢れて安くなり、小売りは特売商材として棚を用意します。暑い時期のトマトはサラダでパクパク食べられるため消費も旺盛になり、特売商材として売上げに大きく貢献する品目だったからです。

ところが近年、この一番大事な夏のトマトに異変が生じています。9月~10月収穫のトマトが夏の暑さに耐えられず、出荷量が激減し価格高騰。小売りが用意していた棚を埋められないため小売りや卸は赤字覚悟で高騰したトマトを集めるという形になっています。2025年はとうとう9月~10月のトマトを特売商材から外す動きも出てきました。

これはトマトだけではありません。近年の猛暑によって様々な青果品が夏から秋にかけ例年よりも長い期間、価格の高い状態が続いてしまっています。そこに2024年から続くコメの高騰が消費者の財布へ大きなダメージとなって蓄積し、食費全般の買い控えや外食控えといった行動につながっていると思います。

営業の関係上、大手小売バイヤーや高単価商材を扱う高級百貨店のバイヤーと話しをすることも多いのですが、ここ最近の小売業界から「物が売れない。売れにくくなった」という声が多くなってきた印象があります。

同時に地元のスーパーであれば「夏に野菜ありますか? あればそれを全店で軸にしていきたい」という声もたくさん聞くようになってきました。いかに市場経由の産地野菜が末端の地方市場(島根は人口的にもかなり消費が弱い)で不安定な供給になっているか、の証左であると思います。

夏場は野菜も比較的豊富な時期で、特に北海道という大産地からの商品送り込みも増えます。地場ものとはいえ中々メイン商材として扱ってもらい難い夏場に、うちの物を入れ込める余地があるのはありがたいのですが、この「全体として物が売れにくくなった」というのは農家個人の問題とは別に農業全体として大きな課題です。

食品価格高騰と買い控えの時代を生き抜くには

私が前回の記事で指摘していたように高騰したキャベツは消費者には売れず、スーパーの小売りの棚を追われました。棚が無くなると消費者の購買意識から消えてしまうため販売は伸びず、結果として通常生産に戻ってからも棚は無いまま。例年通りの生産ができていても供給過多に陥り、価格は下落の一途をたどります。

食品全般の価格が上がり、消費者の買い控えが進むとこれと同じような問題が今後多発しないとも限らない。生産資材の高騰、特に大型機械の大幅値上げが続くなか、さらなるコスト低減など低価格帯でも戦える経営体力強化の必要性を感じます。

ところで、農家の皆さん、特に卸や小売店と直接販売をしている農家さんや消費者への直接販売をしている農家さんはコメ高騰の折、価格交渉を済ませたでしょうか? うちは一昨年、昨年と二度にわたり卸価格を7~8%上げることができました。

もちろん消費者の食品価格高騰に対する限界点がすぐそこまで来ていることは、卸や小売りのバイヤーと話して私自身承知しています。正直、これからの値上げ交渉が、よりタフなものになるだろうという肌感覚はあります。値上げどころか値下げを要求されても仕方ないと、交渉時に感じる事も多々あります。

Xの農業界隈を見ていると「インフレでも食品価格は最後まで上げられないよね」「農業にはなかなか価格が波及しないよね」といった生ぬるい意見が散見されますが、そんな悠長に構えていては永遠に価格上昇のチャンスを逃しかねません。常に消費の状況へアンテナを張り、上げられるときには勇気をもって価格交渉する。そのためには上げても大丈夫なように欠品させないという信頼関係を構築する努力をしなくてはなりません。

2026年2月8日総選挙の日は全国的に記録的な大雪となり、食品流通が大混乱しました。多くの産地が納品を延着するなか、うちの野菜は島根から東京へ輸送したものも延着せず、きちんと納品されました。期日通りに入れられよう流通業者さんが1日早い土曜から動いてくれたからです。本当に感謝しかありません。

 

【農家の本音 〇〇(問題)を語る】記事一覧

筆者

うちの子も夢中です(野菜農家)

 

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