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「オーガニックで健康に」が国策となる日は来るのか【オーガニック問題研究会マンスリーレポート17】

コラム・マンガ

農水省は「有機農業の推進に関する基本的な方針」の見直しに向けて、有識者らを迎えた審議会を開催しています。(※1)
平成18年(2006年)に制定された有機農業推進法はいわゆる「理念法」にあたるため、同法にもとづく具体的な方針として「有機農業の推進に関する基本的な方針」がつくられ、これまで数年おきに内容の見直しがおこなわれてきました。
有機農業25%目標を定めた「みどりの食料システム戦略」発表以来では、今回が初の見直しとなります。「みどり戦略」以降「国策」となった有機農業をとりまく環境は、大きな変化を見せています。

オーガニックの光と影

その象徴となったのが、いわゆるオーガニックビレッジ(交付金による有機推進)を宣言する自治体の増加と、オーガニック給食の拡大だったわけですが、それらを華々しい「光の面」とするならば、地方自治体への疑似科学や陰謀論の侵入、議員や首長による政治利用などは「影の面」と言えるでしょう。

このことは表裏一体の現象として、本連載でも繰り返し指摘をおこなってきましたが、筆者のみならず様々な有識者からも批判の対象となっており、一部マスメディアでも「影の面」が取り上げられるほどの事態となりました。

とりわけ議員や首長による「オーガニック信仰」の政治利用については、参政党のような極右排外主義政党の躍進を許した一因としても指摘されており、社会的悪影響も甚大といえます。ロバート・F・ケネディJrを擁する第二次トランプ政権誕生の社会的背景とも、一概に無縁ではないでしょう。

現在までに公開されている審議会の議事録を見ていて気になるのは、ひとつにはこれらの「影の面」に対して何ら言及が見られない点です。もちろん出席委員や農水省担当者の心情を慮れば、議事録の公開を前提とした審議会で正面から取り上げるには相当にデリケートな話題であることは、想像に難くありません。

筆者個人としては、この問題に向き合うことなく有機を推進することは未来の世代に対してきわめて不誠実だと考えていますが、一方で、腫れ物に触れることなく議論を進めたいという気持ちもある程度は理解できます。ただ、この間各所で挙げられてきた真摯な批判の声を、わざわざ矮小化するような発言までなされているとなれば、話は異なってきます。

「反対の方が非常に声が大きい」

2026年2月に開催された第2回の審議会では、大田市場で仲卸として有機農産物を積極的に取り扱っている株式会社大治の本多諭臨時委員が「ある自治体の副首長が、オーガニック給食の取り組みに関連して外部からの批判を非常に恐れている」と発言しています。また「賛成する人は声を上げないが、反対の方が非常に声が大きい」ということが副首長の言葉の端々から感じられ、それが区にとって障壁となっているとの所感も述べられています。

まるで一部の「アンチ有機」のようなラウドマイノリティの存在が、サイレントマジョリティの賛成意見をかき消しているかのような構図に聞こえます。仮にこれらが副首長の発言をそのまま引用したものだったとしても、批判の内実を紹介せず単に「一部の強い反対者が恐れられている」という点だけを切り取ることは、有機推進のための具体的な議論につながるような適切な話題提供とは言えず、批判の声をノイズとして矮小化する立ち位置のように映りかねません。

他の委員や担当者からでも良いので、具体的な批判内容や論点程度は補足されるべきだったのではないかと思います。

「アンチ、反対派というのは出てくるもの」

臨時委員の人選にもやや疑問が残ります。

フリーアナウンサー、農業ジャーナリストの小谷あゆみ臨時委員は「ベジアナ」を名乗って各地での取材や講演活動などをおこなっていますが、近年はオーガニック給食に対してもかなり好意的な発信を繰り返しています。

25年2月に品川区の森澤区長が小中学校の給食に使用する野菜を「すべてオーガニック化する」と発表した際、そもそも区民のニーズや実現性が低く、調理等の現場にも多大な負担がかかるとして、大きな批判が巻き起こりました。その際にも小谷氏は品川区を擁護する側にまわっているのですが、当時のブログでは

「Xではアンチのコメントが集まっています」
「アンチ、反対派というのは出てくるもの」

などと批判の声を「アンチ」と一括りにして切り捨てています。(※2)

また、品川区の説明資料ではオーガニック(有機栽培)以外に特別栽培農産物も使用対象に含まれていることを指摘して「アンチ、反対派のメディアリテラシーが不足しているため、一部記事の見出しだけを見て(全てオーガニックと誤解して)感情的に反発している」かのように事態を矮小化しています。

ジャーナリストであれば、カッコ付きの「オーガニック給食運動」が抱える様々な問題点や悪影響について承知していないはずがないのですが、残念ながら小谷氏の発信する記事は「オーガニック給食がママたちの力で全国に広がっている」など、常に手放しで称賛するトーンに満ちていて、広報記事を読んでいるような錯覚に陥ります。

なお品川区のオーガニック給食のその後については、科学ジャーナリストの松永和紀氏や日本農業新聞の取材、内部資料などを通じて、詳細に検証されている通りです。

小谷氏は品川区の件について「単に反対や否定より前向きな議論を」とも述べていますが、批判の声を「アンチ」のレッテルに丸めて逃げ切ろうとするSNS的な振る舞いに、議論を前に進める効果は薄いように思います。

「抗がん剤に匹敵する有機農産物の可能性やエネルギー」

株式会社アグリーンハートの佐藤拓郎臨時委員は青森県黒石市で米と大豆を中心に有機農業100haを目指す大規模経営をおこない、設立当初から障がい者を積極的に雇用し続けていることや、都心の消費者向けの直営店の出店など、その先進的・意欲的な事業展開から成功事例として取り上げられることも多い生産者です。

その意味で今回のような審議会委員に選出されること自体に違和感はありませんが、一方で有機農業を始めた理由としてインタビュー等で、「家族の病気をきっかけに抗がん剤の恐ろしさと、抗がん剤に匹敵する有機農産物の可能性やエネルギーを知った」「障がい者が増えている原因を探すなか、参加したセミナーや文献を通じ、障害や少子化などの要因に化学肥料や農薬、遺伝子組み換え技術などの影響が疑われていると知った」などと述べており、たとえ経営手腕や人間的魅力に優れているのだとしても、むしろその影響力の大きさゆえに、危うさを感じざるを得ません。(※3)

言うまでもなく、「オーガニックを食べると健康になる・病気が治った=オーガニックを食べなかったから病気になった・治らなかった」というメッセージは、本来その人に必要な医療へのアクセスを阻害し、最悪の場合には人命を奪う呪いへと容易に転化します。これは可能性の話ではなく、現実に被害事例が多数存在しているため、優れた経営者であれば多少はこれを言っても許されるという種類の言説ではありません。悪意か善意かも関係ありません。

「健康とか成分の違いのエビデンスをこれからしっかりと取っていって」

審議会の性格を考えれば、各委員の発言や主義・主張は自由に保証されるべきであり、一方で筆者を含む我々にはそれを批判する自由もあります。

ただ、それらとは別に、出席した農水省の担当者からも消費者への訴求を高める方法として「健康とか成分の違いとか、そういったところのエビデンスをこれからしっかりと取っていって」などの発言が残されている点は気掛かりです。

たとえ出席委員へのリップサービスが含まれているのだとしても、国として有機の拡大にとらわれるあまり「オーガニックを食べると健康になる/食べないと病気になる」的な言説に寄り添っていくようなことがあれば、厳しく批判していかなくてはなりません。

かつて表立って問題視されることのなかった放送業界におけるハラスメントや性加害がいま明るみになっているように、食と農の誤情報による健康被害や人権侵害に対しても、適切な報道やケアがなされる社会を筆者は目指しています。有機推進を志す方々とも、このような問題意識を共有していけることを願っています。

出典

(※1)令和7年度  食料・農業・農村政策審議会果樹・有機部会(農林水産省)
(※2)品川区がオーガニック給食の全野菜を有機にすると発表したらXでザワついてる件について考えます(ベジアナ☆小谷あゆみ)
(※3)農家のストーリー 佐藤拓郎(大成農材オフィシャルサイト)

 

【オーガニック問題研究会マンスリーレポート】記事一覧

筆者

熊宮渉(ダイアログファーム代表)

 

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