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第3回 農薬登録を取るまでの作業、安全性試験の概要【たてきの語ろう農薬】
本連載はこれで3回目ですが、前の2回でリスク(危険性)とベネフィット(利便性)をハカリにかけて物事を判断することの重要性と、危険性は最終的に物事を決定する際の一つのファクターに過ぎないということを述べました。とはいうものの農薬の場合に限らず危険性、言い換えれば安全性は関心の高いところですから、安全性のレベルがどのぐらいであるかということを避けて話しをすることはできません。
※web版『農業経営者』2001年7月1日 【たてきの語ろう農薬】から転載(一部再編集)。本文中の役職や肩書き等は2001年7月現在のものです。
前2回でリスク&ベネフィットの説明をしました
本連載はこれで3回目ですが、前の2回でリスク(危険性)とベネフィット(利便性)をハカリにかけて物事を判断することの重要性と、危険性は最終的に物事を決定する際の一つのファクターに過ぎないということを述べました。
とはいうものの農薬の場合に限らず危険性、言い換えれば安全性は関心の高いところですから、安全性のレベルがどのぐらいであるかということを避けて話しをすることはできません。
ただ、具体的な危険性情報をお話しする前にリスク&ベネフィットの話は理解してもらっておく必要があります。その後でないと「安全性は高ければ高いほど良い」という話に終始してしまって、無意味な議論になってしまうからです。前回の車の話を思い出してください。「安全性が高ければ高いほど良い」のだから、みんな車をやめて徒歩で移動すれば良い…という訳ではないですよね。農薬の議論もそういう結論になっては意味がありません。
農薬として世の中に認められるには?
一つの農薬が世に出るためには、「農薬取締法」で認められて登録を取得する必要があります。まず重要なことは病害虫や雑草に高い効果を持っていることです。この法律はもともと効果の低いモノや粗製乱造された農薬を取り締まるのが目的でした。ですから十分なベネフィットを持っていることが実証されなければなりません。これは各農薬会社の社内試験だけではなく公的機関におけるほ場試験を2~3年以上積み重ねて、効果や薬害を厳しくチェックされます。そして、一定の品質のものを作る能力やチェック方法なども要件に入っています。効果試験は農家の方なら試験法などイメージがつくと思いますので細かい説明は省きます。
次に安全性が確保されているがです。これには多くの要件がありますが、大きくは人畜に対する毒性と自然界への影響の2つに分けられます。
図に主な試験について記しました。この中で農薬を使った作物を「食べる」ということについて考えるならば、慢性毒性と特殊毒性に興味が集まることになると思います。
慢性毒性の興味はADl(一日許容摂取量)に集約される
農作物には微量であっても農薬が残留しているはずです。そして、毎日多種の農作物を食べているので、それぞれに残っている農薬を合計すれば、どんな農薬をどれぐらい口にしているががわかります。
そして、どれぐらいの量であれば毎日口にしても健康に危害を及ぼさないかを数値で示したのが「ADl」です。食べる人にとっての安全性はこのADIを越えるが越えないがで判断することになります。
ADlの求め方は動物を使った長期試験を行い、試験後解剖して臓器などの異常の有無を調べます。そして、なにも変化が見られなかった農薬の投与量を求めます。その数字に安全係数というのをかけて出された数字です。安全係数は色々な場合に対して国際的な専門家の話し合いで決められている数値で、農薬の場合は動物と人間の身体の違いを考慮して10分の1、個人差を考慮して10分の1、あわせて100分の1を使うことになっています。
この100分の1というのはかなり厳しいものです。もしも自動車にこの安全係数を適用すると日本の年間交通事故死者数を100人以下にしないと使用できないことになってしまいます。
特殊毒性はやや難解
発ガン性については微生物を使った簡易な試験(変異原性言試験)は気軽に出来るので広く行われている試験で農薬でも行われます。これは細胞の中にある遺伝子を傷つける可能性があるかを調べることが出来ます。ただし、あまり精度は高くなく、この試験で陽性になったからといって発ガン性があるという訳ではありません。もっと精度の高い試験としては小核試験があります。これは動物試験で、赤血球が作られる際に遺伝子が変異していないかを調べる試験です。これで陽性になればアウトです。さらにADlを求める際に行った長期試験でもガンが発生したか調べます。
催奇形性は妊娠前後の動物に薬剤を授与して胎児に与える影響を見ます。繁殖性試験は世代を通して行う長期試験です。
最近話題の環境ホルモンはまだ確実な試験方法が決まっていません。色々な方法が提案されて実行されてはいます。
これらを全てパスして、晴れて農薬の仲間入り
主な試験だけを説明しましたが、これらを全てパスして農薬として世に出ることが出来ます。その確率は新規農薬候補化合物の5万分の1と言われています。また、投資額も30億円以上となります。一方、農薬登録を取っていないのに病害虫に効くと宣伝しているものはこれらの試験をパスしていない、あるいは行っていないものです。それらを「農薬ではないから」という理由で使うことは法律上許されてはいません。法の抜け道がたくさんあり、直ちに違法とはならないのですが倫理的にどうでしょうか?
やはり正規な試験をパスして安全性のデータがそろっている「農薬」を使用したいものです。消費者もそのことをよく理解して欲しいと思います。
筆者西田 立樹(「農薬ネット」主宰) |
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