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怪しさ満点「デトックス・プロジェクト・ジャパン」イベント潜入記:10杯目【渕上桂樹の“農家BAR NaYa”カウンタートーク】
デトックス・プロジェクト・ジャパン(以下DPJ)というグループをご存じでしょうか?「世界中で禁止や規制が進む除草剤(グリホサート)が使われている」「毛髪を調べたらグリホサートが検出された」「その結果、食の安全が脅かされている」と主張するグループです。なんだか真面目そうな感じがしますが、実はこれ、見る人が見れば突っ込みどころ満載の爆笑トンデモグループなのです。そのイベントに潜入してきました。
怪しいグループのイベントに潜入
① デトックスの定義って何?
そもそもデトックスという言葉には科学的な定義がありません。代替医療などでよく使われていますが、定義も検証もできないものなので、みんなが思い思いに使っている単語です。もちろん、代替医療の全てがインチキだと言うつもりはないものの、最近ではすぐに突っ込まれるので大手企業はあまり使いたがりません。
② 検査の意味っていったい何?
DPJは「毛髪からグリホサートが検出された」「だから危ない」みたいに主張していますが、それが意味することは何なのか、疑問がいくつも湧きます。たとえば、毛髪からは様々な成分(アミノ酸など)が検出されるはずですが、それらは問題ないのか? 検出された成分は食品によるものか、外部から付着したものかどうやって判断できるのか? 身体から排出されたものなら“デトックス”されたことになるのではないか? どのくらいの量が検出されたら問題なのか?など尽きません。DPJはわざわざ国会議員を集めて毛髪検査をしたのですが、当の本人たちが検査の目的や意味を説明できていません。
③ わざと危なそうに見せかけていないか?
「グリホサートは世界中で禁止・規制が進んでいる」「日本だけ規制が緩い」という前提、間違いです。調べてみるとグリホサートは世界157カ国で承認されているごく普通の薬剤。もちろん、他の薬剤と同様、世界各国で基準や規制がありますが、DPJは日本と海外の基準の違う部分だけを小さく切り取って「日本だけ規制が緩い」と危険を演出しています。
このように、出発点からして怪しいグループなのですが、そのDPJが設立3周年記念イベントなるものを開くという情報を耳にしました。「え? 周年を記念するようなものなの!?」と驚きましたが、トンデモハンターとしてこのイベントに参加しないわけにはいきません。というわけで、私も参加してきました。内容はトンデモワールド全開でした。
「量の概念」がすっぽり抜けた雑な講演
イベントはオンラインで行われ、主に3人のパネリストが順番に話す形式でした。一番気になった点は、リスクを語る上で必要不可欠な「量の概念」がすっぽり抜けていることです。「量の概念」とは「一度に、または一生でどのくらい摂取したら」影響があるのか、という考えです。たとえば、塩の食べすぎや日光の浴びすぎは害を及ぼしますが、ゼロにするのもかえって健康によくないですよね? 逆に、人間の生命維持に欠かせない水にも致死量があります。このように、リスクの世界で「量の概念」は無視することができないのです。講演では最後まで量の概念が無視され、「グリホサートは少量でも危険だという研究もあります」という極めて雑な説明があるのみでした。
このほか、パネリスト同士が矛盾を起こしているのもしばしば。1人目が「科学の進歩はすさまじく速い!(だから科学怖い)」と言ったかと思えば、2人目が「科学の進歩は遅すぎて、自然に敵わないのです!(だから自然すごい)」と言ってみたり、1人目が「特定の虫だけに効く農薬、草だけに効く除草剤なんてあるのでしょうか? そんなはずはない! 人間など他の全ての生物に影響があるはずです!」と言ったかと思えば、2人目が「農薬が効かない虫、除草剤が効かない草が出てきている!」と言ってみたり。「なんで仲間同士、盾と矛に分かれているんだよ!」と他人事ながらハラハラして見ていました。
反対に、3人が妙に一致していた点も。それは、全員同じように「~というわけで、学校給食を有機に変えるべきです。みんなで声を挙げましょう!」と締めくくること。どういう訳か3人とも「まあ、禁止するのは大変だし、とりあえず給食を変えればいいんじゃないですかね? あまり厳しく言うのもねえ」と最後に突然トーンダウンするのです。え? あんなに危険性を訴えていたのに、グリホサート禁止を主張しなくていいの? 給食だけ有機にすればOKなの? 給食を食べない人たちはいいの? と疑問がいくつも湧いてくるのですが、一番の疑問は“食の安全とリスク”というテーマで、足並みの揃った社会活動を呼びかけている点でした。
質疑応答でトンデモ回答が連発
パネリストの講演が終わり、質疑応答に入るとトンデモはいよいよクライマックスを迎えました。「虫よけは使ってもいいんですか?」という質問には「天然系ならいいと思いますよ! なぜなら安全だから」という大雑把すぎる回答が。「おいおい! 天然かどうかって、安全性と全く関係ないでしょ! 自然界にも毒性の強いものは山ほど存在しているし、そもそも天然かそうじゃないかの境界線はどこに引けばいいんだよ!」と画面に向かって思わずツッコミを入れてしまいました。次に、「ダニの害はどうなんですか?」という質問には「ダニ自体に害はないんですよね(だから薬剤を使う必要なし)」という雑すぎる回答。もちろん、農業の世界でも普通の生活でも、ダニは無害じゃないです。だから対策を講じるのです。農薬や薬剤の危険性を過剰に強調する人は、現実的な危険を過小評価する傾向にあるのですが、DPJも例外ではありませんでした。
「誤解を招くといけないので、
SNSなどに公表しないで」
最後は、市販されている食品の商品名を出して根拠なく危険性と結びつけて不安を煽り、食品メーカーさんが大迷惑するようなお話で終了。「誤解を招くといけないので、この内容はSNSなどに公表しないでくださいね~」と繰り返しアナウンスされましたが、そんなに問題のある食品なら堂々と公表した方がいいのでは? 講演で散々「メディアが報じない隠された真実!」「声を挙げていきましょう!」と言っていたのに。何かまずいことでもあるんですかね? まあ、私は書きますけどね。
本家本元のアメリカの団体代表者が
怪しい商売に手を染めていた
「さすがにこれは怪しすぎるぞ」と興味をひかれた私はDPJについて調べてみました。すると、DPJはアメリカに本家本元があり、Moms Across Americaという団体の“デトックス・プロジェクト”という活動(まんま同じ名前)が元になっていることがわかりました。代表はゼン・ハニーカット氏という女性。講演の中で何度も登場した名前なので覚えているのですが、なぜか彼女の職業は明かされませんでした。あれほど引用される人物なのにどうしてでしょう? 不思議に思って調べてみると、出てくる出てくる! 高額な浄水器に始まり、電磁波対策グッズ、認可されていない成分が入ったサプリメントなど、ありとあらゆる怪しい健康グッズを販売する業者だったのです。もちろん、「グリホサートが心配な方はこれでバッチリ安心!」みたいなサプリだってあります。まるで霊感商法ですね。さらには「病院には行かずに○○で治そう!」みたいな反医療活動にも関与している様子(英語で検索するとサイトが出てきます)。もはや笑い飛ばせるトンデモを越えています。完全にカルトです。こんなやばい商売を日本で広めたらまずいですよ。
国会議員の毛髪検査は
趣旨を伝えていない可能性あり
私はここで心配になりました。DPJは「国会議員23人の賛同を受け、毛髪検査に協力してもらった」と繰り返し強調していたからです。国会議員が間接的にとはいえ反医療活動にお墨付きを与えているとしたら、この国の科学リテラシーはお先真っ暗。そう思った私は議員のうちの一人に連絡を取ってみました。すると、「DPJ? そういえば数年前に頼まれて毛髪を提供したことがあったけど、そのくらいしか関わっていませんね」との回答が。DPJの講演内容を伝えると、中身を知らなかったようでしたが、「情報ありがとうございます。今後関わりには気を付けます」と私の報告に耳を傾けてくれたのでまずは一安心。DPJは「多くの国会議員が賛同している」と得意げに主張していましたが、なんだかこれも怪しくなってきましたね。もし中身を知った上で賛同している議員さんがいるなら、ぜひ私の番組で対談しようではありませんか。
怪しさ満点のデトックス・プロジェクト・ジャパン、あなたたちのトンデモ商売は全てお見通しだ! 違うと言うならトンデモハンターの私をメンバーに入れてみたらいい。
【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧
筆者渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ) |