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第18回「怪しさ」から身を守るシンプルな方法を考える(前編)【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

コラム・マンガ

1月4日開催の東京・吉祥寺でのトークイベント(前回参照)に講演者として招かれた間宮さんは、ある「裏テーマ」を用意していました。本当は最後にそのことに触れたかったものの、案の定というべきかまったく時間が足りなかったそうです。主催者からオファーされた範囲を逸脱する内容になるため、エゴといえばエゴかもしれませんが、オーガニックに高い関心や情熱を持っている来場者の方々にこそ、伝えたいことでした。それは次のふたつです。ひとつは、いかに議論のリソースを節約していくか、という問題提起。もうひとつは、真偽の怪しい情報から「取り急ぎ」身を守るための、なるべくシンプルな方法についてでした。会場で披露できなかった内容をここで紹介します。

リソースの節約 種苗法騒ぎで失われたもの

たとえば、種苗法改正にまつわる一連の騒動が社会にもたらした最大の損失は「これほど大騒ぎしたにもかかわらず、結局は種苗法やタネに対する社会の関心、議論がほとんど深まらなかったこと」だと思っている。
(山口亮子氏 SNSで拡散した種苗法改正反対派の主張【種苗法改正を考える緊急連載 第4回】 2020.6.26 SMART AGRI

強硬に広められた改正反対論のほとんど全ては、在来種保護や有機農業に親和的な有識者でさえ、やや呆れつつ距離を置くような、きわめて根拠に乏しい的外れなものだったが、SNSや一部のコミュニティでは強い影響力を持っていた。

そのため、あたかも賛否両論に大きく分かれたかのようなイメージを持たれているが、実態としては、日々発信される「明白に誤った情報」に対して、専門家や農業者がやむを得ず応答して火消しをする、ひたすらにその繰り返しだった。

これほどのエネルギーが、建設的な議論や学習の機会に活用されていたら、と思わずにはいられない。そのエネルギーを今から全部取り出して、ひとりでも多くの国民が西川芳昭さんや竹下大学さんの著書(前回の記事末尾で紹介)を読む時間に変換できたら、もう少し世の中はマシになっていたかもしれない。

そんな妄想に逃げたくなるくらい、不毛に感じられた時間だった。

なお、この話題では、反対論を旗振りした一部のインフルエンサーに批判が集中しがちだが、適切な議題設定の役割を果たしてくれなかったメディアや、安易に反対論に便乗して政局利用を狙った政治家や政党の責任も大きい。

「紋切り型」がリソースを浪費する

では、このような混乱を今後回避するには、どうすればいいのだろうか。

たとえば、種苗法と違って比較的息の長い「あるある」の紋切り型としては「日本の野菜は農薬まみれで」「野菜の栄養価は昔と比べて下がりまくっていて」「グリホサートは世界中で禁止されつつあって」みたいな話がある。

ひとつくらいは聞いたことがあるという人も多いだろうし、複数合わせて畳みかけられると、いかにも日本の農業に悲観的な印象を持ってしまいそうだ。

このような話は、多くの場合に「だからこそ農薬を使っていない野菜を」「栄養価の高い有機野菜を」といったロジックを展開するための枕詞として用いられる。

だがこれらの「枕詞」はいずれも、幾度となく正確な一次情報を提示した上で丁寧に否定されてきた経緯がある。

(念の為に言うと、これらの「否定」はあくまで事実と異なるポイントに絞ったものであって、決して有機農産物そのものの価値を否定しているわけではない)

こういう紋切り型の「情報」をあたかも「驚くべき真実」のように振りかざすことは、仮に短期的には有機農業にとって有利に働いたとしても、長期的にはその本来の価値やイメージをかえって毀損しかねないし、社会の限られた議論リソースをいたずらに浪費してしまう。

党派性をこえたNGリストを共有する

そのようなときに、「今どきその話を持ち出すのは、さすがに恥ずかしいことだ」と応答するためのNGリストのようなものを、党派性を乗り越えるかたちで作成し、共有できないだろうか。

党派性を乗り越えるなど、楽観的で具体性のない理想論に聞こえてしまうかもしれないが、実際に「グリホサートはベトナム戦争で使用された枯葉剤である」といった誤情報に対して、有機農業を推す識者からも明白に誤っているとして指摘が入る場面もある。

おそらくものすごく細く険しい道には違いないが、「主義主張はどうあれ、最低限ここから後ろにはもう戻るまい」という線引きについての社会的な合意形成は、有機農業やオーガニックライフに賛同している人にとっても利益をもたらすはずだ。

誰だって信じたいものを信じる、だからこそ

ノンフィクションライターの石戸諭氏は、2016年大統領選以降のアメリカでSNSや陰謀論についての研究が盛んになったことに触れ、「そこで、繰り返し確認されてきたのは『陰謀論を信じる人は特異な人ではない』『人は見たい現実を見る』という事実だ」と述べている。(現代思想2021年5月号「特集「陰謀論」の時代」

また、山口真一氏の紹介する同国の研究によれば、「約90%の人が、情報の真偽を判断する能力について、自分が社会の平均より高いと考え」ており、さらに約75%の人は「実際の自分の能力より高く自己評価」し、かつ実際には「自身の判断能力を過大評価している人は、時事問題に対する主張の真偽を見分ける能力が低かった」という。
嘘・デマ、自信ある人ほど騙される:77.5%が嘘だと気づけない 2022.1.30 Yahoo!ニュース)

そのことを、誰しも逃れることのできない人間の本質として、自分も例外ではないと受け入れた上で、いわば自らへの保険として、NGリストのようなものを作りあげていく。

もちろん、そこでは有機農業に対して用いられがちな紋切り型の批判(たとえば、実は無農薬野菜の方がかえって毒性が高いのだ、といった極論)についても、平等に俎上に乗せられることが望ましい。

AGRI FACTは言うまでもなく、そのための情報プラットフォームのひとつとして位置づけることができると思うし、一方でAGRI FACTさえ党派的で偏って見えるという人々のためにも、プラットフォームそのものがもっと多く生まれることで、多様性が担保されていく必要もあるだろう。

【続く】

【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】記事一覧

筆者

間宮俊賢

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