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Vol.18 健康にヤバい!? 陰謀論フード【不思議食品・観察記】
科学的根拠のない、不思議なトンデモ健康法が発生する現象を観察するライター山田ノジルさんの連載コラム。驚くべき言説で広まる不思議食品の数々をウォッチし続けている山田ノジルさんが今回注目するのは、「悪魔崇拝者や闇組織の陰謀によって危険な食が我々の健康を脅かす」とみなす「陰謀論フード」の世界。SNSで注目を集める料理研究家のリュウジ氏も、一部のおかしな動きによって悪魔崇拝者認定されるハメに……。
悪魔崇拝者認定された料理研究家
悪魔崇拝者。『ローズマリーの赤ちゃん』や『サスペリア』など、私の大好物であるホラー映画の世界では頻繁に登場するものの、リアルでお目にかかったことはほとんどありません(キリスト教圏じゃないからってのも大きいだろうけれど)。日本で堂々とサタニストを名乗っているのは、アート・ディレクターの高橋ヨシキ氏くらいじゃないでしょうか。
ところが最近、ネット上では驚くべきカジュアルさで「悪魔崇拝者認定」が行われています。やり玉にあげられているのは、いわずもがな料理研究家のリュウジ氏。
リュウジ氏のレシピの特徴は「はやい・うまい・安い・簡単」で、懐の寂しい庶民の味方として大人気。中でもこれまで料理人としては禁じ手であったであろう「味の素」を使ってガッツリうまみを足す潔さが最高です。「顆粒だし」や「うま味調味料(味の素)」といった、手軽に手に入る量産品を使うことで、味がブレず万人が納得するうまさに到達できるのです。自信満々に「悪魔的にうまい!」などと言い切る押しの強い演出も、プラセボ的に料理の味わいを高めています。
過去のインタビュー記事を読むと、レシピ本を出す条件に「フォロワー数10万」とたきつけられたことから、強い言い切り文句がウケるという分析に至ったと説明がありました。そうした背景からネット民がより反応することを強化し、今のスタイルにブラッシュアップされていったのでしょう。
すると当然、ファンと同時にアンチも湧き出てきます。味の素を多用することを引き合いに、人々に害をなす悪魔の手先である! といいがかりをつけられたのです。そこからさらに、「私」を「和多志」と表記するアカウントが、リュウジ氏の著書の表紙に掲載されているアボカドの漬け丼を「卵黄をプロビデンスの目※に見立てた(悪魔崇拝者の証!)」と深読みするまでに発展。シドニー・シェルダン(『ゲームの達人』の人)もびっくりの超訳だぜ。
そのリュウジ氏の著書のタイトルは『悪魔のレシピ』。サブタイトルは「ひと口で人間をダメにするウマさ!」なんだけど……いじるにしてもひねりがほしい。一般に、卵黄を丼の中央に乗せるあしらいはよくあることですし、目にうつる全てのことがメッセージになっちゃう世界観の壮大さに、カーテンを少し閉めてみてはと思いました。
※万物を見通す目を意味するシンボル。多くの意味合いを持ち、秘密結社や陰謀論と関連づけられることも多い。
これな(著者私物)
世に陰謀論フードのネタは尽きまじ
砂糖はヤバい。牛乳はヤバい。添加物はヤバい。小麦粉はヤバい。農薬はヤバい。遺伝子組換え・ゲノム編集食品はヤバい。電子レンジはヤバい。
一般的な食べ物を〇〇は危険だ! とするムーブメントは昔からあるものの、SNSで「(悪魔崇拝者や闇組織の)陰謀によって危険な食が我々の健康を脅かす」という言説がカジュアルに盛り上がるのが、コロナ禍を経た今の時代を感じさせます。国策への不安と不満から不穏な食品にされてしまった昆虫食同様に、リュウジ氏のバズレシピも、不当ないいがかりによって陰謀フードにされてしまう気の毒さ。味の素は特に、その筋では大変有名な船瀬俊介氏が『味の素の罪』(ヒカルランド)で「神経毒物である」とボロくそに叩いていますから(それっぽい根拠を並べていますが、既に否定されたことばかりという印象でした)、ことさら燃えやすい材料だったこともまた、いわずもがなです。
個人的には味の素が1〜2振り入っている料理よりも、陰謀論の人たちが積極的に摂取している様子の重曹や松ジュースのほうがよっぽど健康に悪影響ではないかと心配だったりするのですが、皆様体調はいかがでしょう。
陰謀論で引き合いに出される食品は、今後もまだまだ発掘されていくことでしょう。世に陰謀論フードのネタは尽きまじで、このシリーズはまだまだ続きます。
筆者 |