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「家族が農業トンデモにハマりまして」という人の話を聞いてみた:33杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

コラム・マンガ

農業の不安を煽るトンデモはいろいろありますが、真に受けてしまった人の中には人生が変わってしまうことも、家族にまで影響が及んでしまうこともあります。中身を知っている人なら「なんてばかばかしい」とため息をついてしまうかもしれません。しかし、トンデモはもともと不安を煽る目的で作られているので、本当だと信じたなら重く受け止めてしまうのも当然の話です。私は職業柄、農業トンデモを真に受けてしまった人と話す機会があります。たまにですが、その家族と話す機会もあります。今回は、農業トンデモを真に受けてしまった人の家族はどう思っているのか、実際に聞いた話をご紹介したいと思います。農業トンデモの中でも代表的な「種苗法改正で種取りが原則禁止される。タネが外国企業に支配される。伝統的な品種がなくなる。農業が大変なことに」というストーリーを信じてしまった人の家族の話です。

Case1 関東からやってきた男性

「妻が最近農業にハマって、いまいろいろな農家のところに研修に行っているんです」という男性から聞いた話です。

私は「いいですねー。何かきっかけでもあったんですか?」と尋ねてみました。
すると男性は、「それが、誰かの講演を聞いたのがきっかけで『将来タネが買えなくなる』と言うようになって、それから自分で農業を始めることになったんです」と答えました。

「あ、たぶんそれ、種苗法のことですね。もしかして、奥さんは将来タネが買えなくなる!とか言っていませんでしたか?」

男性「そうです。法律のせいでタネが大変! と言うようになって。タネがなくなってしまう将来に備えて、種取り農業を始めると言っているんです。でも、僕はどうもおかしいと思うんですよね。そんな大変な法律が通るんですか? なんか、外国企業が利益のために日本の法律を変えようとしているとか言うんですけど、そんなことがあり得るんですかね?」

「改正種苗法だったら外国企業じゃなくて国内の農家が集まって話し合っていますし、法律を読めばわかると思いますが、そういうやばい話は関係なくて、品種の著作権法みたいな、ごく普通の法律です。どういうわけか、陰謀論の定番ネタになっちゃったんですよね」

男性「やっぱりそうでしたか。なんかおかしいと思ったんですよ。でも、知識もないからうまく説得できないし、それに、この話になると必ずケンカになるんですよ」

「……ああ、でも、農業を学ぶのは、まあ良いことでしょうし……」

男性「それが、妻はそのために今まで勤めていた会社を辞めたんです。私は反対したんですが」

「え……そうでしたか……。では、せめて少しでも多く利益が出るようにやっていきたいですね」

私たちはその後、「作るならどんな野菜を作りたいか」などを話しました。
そして、「農業は『タネが危ない』みたいな終末論の延長で始めても続かないでしょうし、美味しいものを作ったりして楽しくやりましょう」と言って別れました。

Case2 夫婦でご来店の2人組

奥さんの方が「農業に興味があります!」というご夫婦。

品種のことを説明していたら、「でも、自分でタネを植えたらいけないんでしょう? SNSで見たんだけど、なんか農家は大変なことになるそうね」と話してくれました。
私が「ああ、種苗法のことですか?」と聞くと、奥さんはとてもうれしそうに「やっぱりマスターは知ってるんですね! さすが! うちの主人は全然興味持ってくれないのよ。説明してあげて!」と上機嫌でした。
ご主人の方は「てへへ」という感じで笑って見せていました。

「そうですねー。種苗法について、どんな話を聞きましたか?」

奥さん「なんかタネを採るのが禁止されて、モンサントという外国企業に独占されて、伝統的な品種がなくなって、農家がみんな経営難になるんですよね?」

と、わりとよく聞く種苗法トンデモセットを話してくれました。
私は、しばらく奥さんの話を聞いたのち、「いくつか補足があるので、よく聞いてください」と前置きして、種苗法の大まかな説明をしました。
奥さんは「え、モンサントはもうないの? 種苗法は伝統品種と関係なかったの? 農家はもともとタネを買うのが当たり前なの?」と一つずつ驚いていました。

種苗法は普通に生活するうえで知っておく必要があまりないので、一般人が予備知識を持っているケースはまれです。
それは別にいいと思うのですが、ぶっ飛んだトンデモ情報に出会ったときにうっかり真に受けてしまうことがあるのです。

「そうですね。種苗法なんて身近じゃないですし、誤解するのも無理はないと思いますよ。登録品種についてはどんな風に書いてありましたか?」

奥さん「え? 登録品種? そういうのは書かれていなかったと思う」

「法律の基本的な話なのにおかしいですね。農水省が作った説明用のサイトとか、全国で開かれていた説明会についてはどうですか?」

奥さん「農水省の説明? そういうのも知らなかった」

「どうも、その情報源は大事なことが全部抜けているように思えますね~」

奥さん「そうね。なんで書かれていなかったんだろう? 都合が悪いからかな。やっぱり私、騙されていたのかも?」

「仰るように、情報源が間違っていたのかもしれませんね。種苗法はこうした情報が一時多く出回っていたんです」

奥さん「そうなんですね。ここで聞いてよかった。ああ、でもどうしよう? 私、SNSで何度もシェアしてしまいました。友達にも……」

そして、最後に奥さんが席をはずしているとき、ご主人はこう言いました。
「今日はすみません。妻は少し前から急に『タネが危ない!』みたいなことばかり言うようになって。聞いてもよくわからないし、どうしたものかと思ってたんです……」

私は「奥さんはわるくないですよ。何を見たのかはわかりませんが、相手は不安を煽るプロですから。でも、この手の農業の不安情報を入口に、変な医療情報にハマってしまう場合もあるので気を付けたいところですね」と答えました。
ご主人はそれにも心当たりがあるような反応をして帰っていきました。

トンデモを真に受けた人たちのその後の様子

農業の不安を煽るトンデモを発信している人たちは、彼らのことを知っているのでしょうか?
「会社を辞めてまでタネを守ろうとしてえらい」と称えるのでしょうか?
それとも「いや、そこまで重く受け止めなくても……」と怯むのでしょうか?
きっとどちらでもなく、おそらく知らないと思います。
ですが、私は知っています。
彼らの顔も、表情も、声も、そして家族のため息も。

 

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

 

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