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第17回 発がん性否定研究を評価対象から除外【IARCに食の安全を委ねてはいけない】

特集

グリホサート(除草剤ラウンドアップの有効成分)を「ヒトに対しておそらく発がん性がある」グループ2Aに分類したIARC(国際がん研究機関)の2015年会議。会議の目的はグリホサートの発がん性根拠の強弱を判断することだったが、IARCは発がん性を否定する重要なデータを選択的に除外していた可能性がある。

疑惑のグリホサート評価委員会座長

WHO(世界保健機関)の傘下にあるIARCの倫理観が問われるのは、今回が初めてではない。

グリホサートは現在、化学物質恐怖症の申し子と言われている。この化学物質に対する主な非難は、ガンを引き起こすとされていることだが、さらにバカげたことに自閉症を含む他の多くの病気の原因にもされている。

(参照:「MITの研究者。グリホサートは2025年までに全児童の半数を自閉症にするだろう。ええ、もちろんです」

IARCの会議はフランスで開催され、グリホサートをどのレベルに分類するかを決めたが、世界各国のすべての規制機関によって安全と判断されているにもかかわらず、一部の活動家たちは有害であると主張した。しかし、この時グリホサート評価委員会のアーロン・ブレア座長は、自身が非常に奇妙な立場にいることに気づいたという。彼は座長であったにもかかわらず、グリホサートとがんとの間に関連性がないことを立証した彼自身がグループ長を務めた研究結果を検討することが許されなかったのである。

この研究は、5万人以上のグリホサートを使用している農業者の疫学調査をしたAHS(農業健康調査/米国国立がん研究所など)の研究で「グリホサートに発がん性は認められない」と結論付けたきわめて信頼性の高い大規模疫学研究である。

それがなぜ? IARCの規則では、発表された研究しか評価の対象にできないからだ。その規制を知っていたブレア座長がAHS研究の公表時期を意図的に遅らせた可能性も指摘されている。

モンサント社(現バイエル社)がラウンドアップの危険性について十分な警告を行わなかったとするカリフォルニア州の訴訟では、この出版差し止めが重要な争点となった。モンサント社はブレア氏に、グリホサートとがんとの間に何の関係もないことを示した彼の研究を「なぜ公表しなかったのか」と質問している。ブレア氏の回答は、それほど説得力のあるものではなかったというもので、さらに「この論文は単に大きすぎた」と主張した。「我々は、……一つの論文に全てをまとめることができなかったので、削除することにした 」と。

IARCは、自らを世界で最も重要な危険有害性調査団体であると考えている。カリフォルニア州は、IARCの危険有害性分類が「プロポジション65(1986年安全飲料水及び有害物質施行州法)」の警告ラベルリストに自動的に含まれるほど権威があるとみなしている。そのため、カリフォルニア州では、IARCの発がん性分類は自動的に「プロポジション65」の警告ラベルに含まれることになる。

それほどに権威のあるIARCの発がん性分類を決める重要な会議の場において、紙数が足りないという理由だけで、信頼性の高い研究を除外するだろうか。

研究が公表されていれば結論は違った

IARCの2015年のグリホサート評価委員会では、17人のがん専門家パネルがグリホサートの発がん性根拠に関する証拠を検討した。

特に不思議だったのは、グリホサートの発がん性を否定したAHS研究のグループ長でもあったブレア座長に対して、委員会がブレア氏の仕事について何も聞かなかったことだ。まだ発表されていなかったからだと言われているが、彼は一言もその研究について語らなかった。

論文発表のタイミングは、通常、大きな問題にはならないが、今回は物議をかもした。というのも、もしブレア氏の研究結果がIARCのがん専門家パネルで検討されていたら、結果は間違いなく違っていたと考えられるからだ。しかし、この知見がないまま、パネルはグリホサートをグループ1(ヒトに対して発がん性がある化学物質)に次ぐ「ヒトに対しておそらく発がん性がある」グループ2Aに分類することを決定した。

ラウンドアップ訴訟を提訴されているモンサント社(現バイエル社)は何が起こっているのかを知りたがり、弁護士は裁判でブレア氏自身を含む多くの専門家に、なぜグリホサートの疑いを晴らすはずの彼のグループの研究結果が公表されなかったのかについて尋問した。「削除することにしたのは、……1枚の紙にまとめきれなかったからです」というブレア氏の答えは納得のいくものではなかった。

ロイター通信の記者もモンサント社の弁護士も、その回答には納得せず、ブレア氏にそのことを追及し続けた。2017年3月の宣誓証言でブレア氏は「自分のグループの所見がおそらく委員会の所見を変えたであろうこと、その結果、グループ2A分類(おそらく発がん性がある)はありえないだろうことを承知していた」ことを認めた。

ロイター通信が疫学と統計学の専門家に取材したところ、ブレア氏グループのデータは「強力で関連性がある」ので、紹介されるべきでなかった理由はないと両者は述べた。モンサント社は、この遅れは意図的なものであるとまで主張した。

ブレア氏は証言の中で、この保留(公表の遅れ)は意図的なものではないと否定したが、彼のグループのデータがあれば、グリホサートと非ホジキンリンパ腫との関連を否定し、グリホサートがグループ2Aの発がん性物質に分類されるのを防げたかとの質問には、いずれの質問にも「イエス」と答えた。

ロイター通信は、明らかに公表が遅れていること、ブレア氏のデータの強さ、2013年の初期のドラフト論文はすべて公表されなかったのに、なぜ2014年に殺菌剤、燻蒸剤、殺虫剤のデータは含まれているが除草剤が含まれていない一つの結果だけを公表したのか、などの疑問を提起した。

ブレア氏は意図的にグリホサートに関する重要な安全性データを省いたのか、もしそうならなぜなのか。その答えはまだ出ていない。確実に言えることはIARCが、グループ2A分類に値しないことをほぼ確実に知っている化学物質に、発がん性物質のレッテルを貼ったということである。

*この記事は、ジョシュ・ブルーム著 2017年6月15日(Part1)https://www.acsh.org/news/2017/06/15/roundup-cover-glyphosate-funny-business-iarc-11426と18日(Part2)https://www.acsh.org/news/2017/06/18/round-cover-part-2-why-did-iarc-exclude-selective-evidence-11429をAGRI FACT編集部が翻訳編集した。

〜第18回に続く〜

 

【長期特集 IARCに食の安全を委ねてはいけない】記事一覧

筆者

AGRIFACT編集部

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