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農薬メーカー座談会「野菜売り場で農産物の『安心』を伝えるために」 農薬メーカーが果たすべきこと(前編)

食と農のウワサ

当誌前々号特集において「安心の農産物マーケティング」のコンセプトを示した。そのキーポイントは、適正な技術で作られた農産物についての「技術」への消費者の納得であり、顧客に「安心」して食べていただくための生産・流通における「信頼」の確立にある。そのためには、農産物を流通・消費する業界人と生産者、技術供給企業が、農業生産技術について共通の情報と認識を持ち、消費者に「安心」を伝えるネットワークを構築する必要がある。
また、消費者の「納得」「安心」を得るためには、ただ「農薬の安全性」を強弁するだけでなく、農薬に関する適切な情報を、生産者だけでなく、流通販売業そして消費者に伝えていくことが不可欠である。
そこで、今号及び次号において、農薬メーカーの方々をお迎えして、農薬開発や利用技術の現状、その安全性について、生産者や流通販売業の方々との情報の共有化の可能性などについてお話しをしていただく。
更に、IPMのための様々な技術が導入されつつある現在、IPMの基本的概念とは何か、また、どういった技術が提供され始めているのか等IPM技術の現状と展望について岡山大学教授・中筋房夫氏にお書きいただいた。
web版『農業経営者』1999年9月1日 特集「『有機・無農薬』を超えて─農産物の『安心』を伝えるために」から転載(一部再編集)
※情報等は、1999年のものです

農薬メーカー座談会「野菜売り場で農産物の『安心』を伝えるために」 農薬メーカーが果たすべきこと(前編)

出席者(※役職等は、当時の情報です)
内田又左衞門さん(日本農薬株式会社開発本部副本部長)
橋野洋二さん(ノバルティスアグロ株式会社マーケティング本部グループマネージャー)
宮原隆さん(ゼネカ株式会社農薬事業部プロダクトマネージメント)

司会・昆(「農業経営者」編集長) 私共は、ただ単に「有機・無農薬」を主張するのではなく、また単に農薬の「安全」を強弁するのではなく、生産から流通販売そして消費者までが「安心」を共有していく、「安心の農産物マーケティング」こそが必要なのではないかと考えています。現在消費者が抱いている農薬への「不安感」は、単に技術的な「安全性」だけに向けられたものではなく、生産流通販売を通しての情報伝達の不充分さ、不正確さによっても引き起こされているのではないでしょうか。そこで今回の座談会では、未だに反農薬派の人々から言及されることの多い『沈黙の春』(レイチェル・カーソン著)の1960年代から、どう農薬が変化し、IPMも含め「安全性」という点でどのような技術開発がなされてきたのかといった技術情報(虫の防除に限らず)や、今後、生産者や流通販売業の方々と情報をどのような形で共有していくことができるのかといった内容について、それぞれのお立場でお話し頂きたいと考えています。

まず、安全性という問題に関してですが。

内田又左衞門(日本農薬株式会社開発本部副本部長) 農薬の安全性に関する情報をお知らせしていく点で、日本農薬学会では、既に24回となりますが、消費者、農家の方々を対象とした「農業と環境と安全性シンポジウム」を開いています。農薬を使っておられる農家の方々は現実にその便宜を受けている人たちなのですから、より農薬の必要性について、消費者の方々にアピールして頂きたいと思っています。この便宜が全くアピールされず、リスクだけが強調される現状は非常に残念です。経営的な農業には、農薬はなくてはならないものです。日本の各都市で開催されたこのシンポジウムにより、消費者の方々の農薬に関する正しい理解が得られてきているようです。

橋野洋二(ノバルティスアグロ株式会社マーケティング本部グループマネージャー) 日本では農薬の安全性がある程度認められているのかなあ、と感じられるのは、消費者の中にある「輸入農産物は不安」という声があることです。それはつまり、輸入農産物にはどんな農薬が使われているのか分からない、ということを示すもので、逆に日本では安全性のチェックされたもののみが使われているということを物語るものだからです。

産婆さんの役割を果たしたレイチェル・カーソン

内田 ところで、レイチェル・カーソンは著書『沈黙の春』で、農薬によって生態系が大きく崩れ、野鳥などが死滅することを「予言」しました。『地球白書1998~99』ではそれについてこう記しています。

「『ニューヨーク・タイムズ』紙の論説委員ロバート・センブルは、レイチェル・カーソンの新しい伝記に関する1997年の書評のなかで、次のように述べている。『コマドリやその他の野鳥が姿を見せない“沈黙の春”が訪れるというカーソンの恐ろしいシナリオは、現実には起こらなかった。しかし、彼女の予言が外れたひとつの重要な理由は、まさに彼女の診断が正しかったからである。』実際、社会は彼女の警告に耳を傾けて、DDTの使用禁止など必要な改革を―少なくともこれまでのところ―回避することができたのである。」

つまり、農薬メーカーは、彼女の診断があったからこそ「沈黙の春」を回避するための技術革新をなし得たのです。

 最近の農薬登録には、急性毒性試験、慢性毒性試験、発ガン性試験、生体の機能に及ぼす試験、有用動植物に対する試験、残留試験と様々な安全性に対する試験が課せられていますが、これらは非常に厳しいものなのでしょうか。また、これらの試験を通った農薬は、少なくとも最近の農薬は安全性の高いものといえるのでしょうか。

橋野 最近の農薬に関しては非常に安全であると言えると思います。最低でも、どれくらい安全であるか、危険であるかは調べられていると言えるのではないでしょうか。特に環境に対する残留性の問題としてDDTが注目を浴びました。DDTは急性毒性が低くてその点では問題はないのですが、環境の中に蓄積されていって、それが回り回って人体蓄積の問題になります。しかし、そういうものは今は農薬登録をとれないようになっています。環境一般に対して、例えば魚毒性の高いものは、仮に登録が取れても、何々県では使ってはいけないとか、かなり地域限定型で絞られてきています。農薬企業の努力もありますが、行政面での規制も厳しくなっていますので、はっきり言って、昔使われていて問題となったような農薬はもう使えないですね。メーカー側もそういう使えないものを出しても商売になりませんから、商売になるような安全なものしか作る意味がなくなってきているのです。

内田 むしろ、DDTの環境に対する毒性の問題が指摘されたことによって、我々農薬業界も多くの事を学んだと言えるのではないでしょうか。その後そういった問題が出ないようにするための指標を獲得したわけですから。それに、DDTのときに学んだ経験が活かされ、PCBやダイオキシンなど同様の問題が発生したときに素早く対応する仕組みが確立できたのです。その後の農薬の進歩は、本当に素晴らしいと考えています。

 さきほど、内田さんが仰ったレイチェル・カーソンがその後の農薬技術や安全性チェックに対して果たした役割は逆に大きかっただ、というお話は大変重要だと思うのです。

内田 そうです。指摘されたように、問題のない農薬を作る検査システムが彼女が行った「予言」によって早くできたわけですから。

 いわば、新しい農薬に関する技術を作り出す産婆さんの役割を果たした「沈黙の春」によって、健全な形で開発が行われているんだということですね。

内田 そうです。

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