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医療トンデモの入口は農業トンデモ!? トンデモ情報を発信する人の真の目的は?

食と農のウワサ

プロフィール

渕上桂樹さん(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)
岡田恭子さん(ママの保健室@長崎(@mykyo3123)、麻酔科医、ISD個性心理学インストラクター、2児の母)


AGRI FACTで連載中の農業トンデモハンターの渕上桂樹さんが、麻酔科医でワクチンデマを不安に思うお母さんたちと向き合い、正しい情報を丁寧に伝え続ける岡田恭子先生と対談! 医療トンデモと農業トンデモの共通点や、トンデモ発信源の真の目的、トンデモ情報を回避するための注意点を語り合った。

出会いはグリホサート

渕上桂樹さん(以下:渕上):岡田先生との出会いが忘れられないんです。

岡田恭子さん(以下:岡田):先輩に渕上さんのお店に連れてきてもらいました。「野菜や果物で作られたお酒がたくさんある!」とテンションが上がってカウンターに一人で乗り込みましたね。

渕上:その日に放送したナヤラジオのテーマが除草剤だったんです。それをお伝えしたところ、先生は「グリホサートですか?」とちょっと嫌な顔をされました。私が「嫌な顔しないでくださいよ。グリホサートだって、悪者扱いする必要ないですよ。メーカーだって一生懸命作っているんですよ」とお話すると「あ、そういうこと?」って。

岡田:そうそう。私はその当時、グリホサートやラウンドアップについて色々と聞きかじっていて何となく悪いものなのかな、無農薬の方がいいのかなと思っていました。でも、農家のおじいちゃんたちは悪意を持った人には見えなかったので、自分の中で葛藤していました。かと言って、グリホサートについて自分で調べるには至りませんでしたけれど。

渕上:普通はわざわざ調べませんよね(笑)。

岡田:少しだけGoogleで検索してみたんですけど、「ラウンドアップは危険だ」という情報しか出てこなかったので、調べるのやめました。そんな時に、渕上さんと出会いました。「答えはここにあった」と思って安心しましたね。

病院では医療トンデモに出会わない

岡田恭子さん

渕上:私はトンデモハンターをしていることもあり、農業トンデモによく出くわします。先生はどのような医療トンデモに出会いますか。

岡田:病院の中にいると、医療トンデモには出会わないんです。そもそもワクチンを怖がる人やステロイドを極端に怖がる人は病院に来ません。しかも、私たち医師はいわゆる自然派の人と話す機会がないので存在自体を知りませんでした。最近では、女医さんが増えたこともあり、ママ友会で知る機会を得て驚いています。ワクチンについても「注射が怖いだけでしょう」と思っていました。

渕上:確かに、普通にラウンドアップを使っている生産者でも、危険性をわざとあおるような活動や非科学的なことを吹聴している人がいることを知らないことも多いです。無農薬の推奨ならまだいいのですが、「ワクチン打つな!」は命につながっているので大変危険です。

岡田:面識のないお母さん数名から「ワクチンは危険だといわれているけれど、本当?」とTwitterのDMでメッセージを頂きました。その時に、「何を信じたらいいかわからない」という言葉はよく耳にしました。ワクチンは危険という情報を信じている人たちもいる中で、お母さんたちが不安に思う気持ちや疑問を誰に尋ねればいいのかわからない、家族に相談したらそいつら(反ワクチン)は嘘をついているとバカにされたという話も聞きました。丁寧に説明したところワクチンについて正しく理解をしてくださったのでよかったです。

トンデモに対して医療が団体で抗議

渕上:医療トンデモが定説化することで、医療現場にはどのような影響があるのでしょうか。

岡田:私は手術室で麻酔を投与しているので、感染症の専門ではありません。ただ、ワクチンで言えば、子どもの時にワクチン接種をせず、髄膜炎や難聴になっている人を見るので、やはり必要だと思うんですよね。

渕上:医療トンデモが社会に与える影響はどうでしょうか。

岡田:テーマが大きいですね(笑)。コロナワクチンやマスク忌避もそうですし、子宮頸がんワクチンの積極的勧奨までに8年も要したことは社会にとって大きなダメージだと思います。救える命を救えなかった。病院に来なくて消えてしまった命がもっとあるのでしょう。ワクチンだけでなく、インシュリンを打たずになくなってしまった子供や、抗がん剤の拒否などもありますね。放っておいてはいけません。

あとは、日本テレビの仰天ニュースで、脱ステロイドで肌の調子がよくなったという個人の症例が放送されましたが、そこから「全員ステロイドをやめましょう」という流れになってしまうとやはり違いますよね。今回に関して言うと、6つの学会が共同で抗議のための声明出しました。時代を反映していると思いました。

渕上:時代を反映しているとはどういうことでしょうか。

岡田:今までは、病院にいると「テレビのいうことなんて信用しちゃダメだよ」で終わっていましたが、今はテレビを見た人がインターネットで「脱ステロイド」などと検索をすると、トンデモ情報ばかりに行きついてしまいます。アトピーを治すために体にいい植物性由来のクリームを塗りましょう、花の抽出液を摂りましょう、何十万円も費やして断食合宿に参加しましょう、などです。そうなると、逆に健康を害する可能性もありますので、学会や医師たちがようやく動き出しました。SNSの普及のおかげでわかりやすくなったこともあります。

渕上:コロナで可視化されましたよね。トンデモを放っておいていいわけではない。

岡田:そうですよね。昔は「デマだから、黙っててもそのうち消えるだろう」と放っていましたが、そうすると『黙っている=賛成』と誤解されてしまいます。今はSNSで何度も拡散されるので、「真実なのかも」と思ってしまう。こんな時代だからこそ、専門家が声を上げることの重要性を感じます。これまでは、学会や大きい病院が発信するものとして声あげなかった個人の医療者も多かったのですが、「こびナビ」など医師が一緒になって発信しはじめてから風向きが変わりました。医療者の声なき声が拾われるようになり、Twitterで話題になったテーマがテレビでも放送されるようになりました。

政府は嘘をつき大企業は情報を隠すを盲信

渕上桂樹さんと岡田恭子さん

渕上:テレビなどメディアの科学リテラシーが育っているようには思えません。意味のない両論併記をしているように思います。脱ステロイドをテーマに扱った番組も訂正は入らず「個人の見解です」とされてしまいました。

岡田:「これで痩せました」などの広告も個人の見解との記載はありますが、毎日見せられたら信じちゃいますよ。これからは情報を選択する側のリテラシーも求められます。

渕上:一般人の科学リテラシーが上がらないと、メディアや政治家のリテラシーも上がりません。農業トンデモの講演会に潜入すると、意外と雑なんです。官公庁が出している情報を見ればすぐに間違っていることがわかります。公式情報つまり省庁や医療機関が発信している情報は、全部が正しいわけではないかもしれませんが、多くの人の目にさらされているので、一部の人たちの間で共有されている発信よりははるかに安心できます。

岡田:そうですね、つっこみも入りますからね。ワクチンデマに騙されている人に「厚労省のページやこびナビを見た?」と聞くと「騙されるから見ない!」って言うんです。そもそも見ないという選択しているんですよね。騙されるから怖いから官公庁などの公的な情報は見たくないという心理なんでしょうね。

渕上:その心理をうまく利用するのは、騙す側の人たちです。

岡田:政府は嘘をついている、大企業は情報を隠しているというやつですね。

医師でも医療トンデモに引っかかることがある

岡田:新聞の広告欄に「コロナはない」とか「ワクチンは危険」という本の宣伝が載っているのも理解できません。ベストセラーには読んではいけないトンデモ本も多いですよね。書店は売れる本なら売ってしまう。結局は、売る人と買う人の問題とも言えます。

渕上:差し止めると、言論の自由と言う人がいますよね。

岡田:あまりにもデマなら差し止めてもいいのではないでしょうか。一般の人は見抜けず、読んだら「そうなんだ!」と思ってしまいます。開業医でさえ傾倒する人がいますよ。ワクチンに詳しいのは、感染症内科か小児科の医師くらいです。私も専門性がない分野では発言できないと思ってかなり勉強しました。

渕上:医師だからといって、トンデモにひっかからないわけじゃないんですね。

岡田:そうですね。8割が本当で2割が嘘なので、「そうだよね」って共感していると、おかしな方向へ。途中で気がつけるかどうか、ですね。

渕上:農業トンデモもそうですね。最初から最後まで嘘ではありません。でも、要所で嘘を入れてきます。トンデモだとわかっていながら主張する人と、分からずに広めないと!と躍起になっている人がいますね。

トンデモ情報発信の目的は票集めと金集め

渕上桂樹さん

渕上:農業トンデモを発信する人たちの目的が何なのかわからなかったんです。信じて拡散する人ではなくて、情報の発信元の人たちです。トンデモハンターをしているうちに、彼らの目的は「票集め」と「モノを販売することによる金集め」だとわかりました。

岡田:間違ってはいるけれど、家族や子どもを守るために活動しているので悪い人たちではないんだろうなと思っていました。確かに、信じて拡散する人たちはそうでしょうが、そのような人たちの背後に存在している人たちの目的が票集めとお金集めだというのは納得です。
実は、私は一時期オンラインサロンに入っていました。閉鎖された会の中にいると、「えっ」と思うのはなかなか難しいです。オンラインサロンは人を選ばないと危険です。

渕上:おかしなことを言う自然派の後ろには、健康食品売っている、本売っている、講演会で儲けている人がいることがあります。

岡田:マルチサプリとか、水とか、シーツとか。私は全部買ったことがあります。買わなきゃ納得できないし、いいと聞くとすぐに買っちゃう。で、買ってみて別に変わらないなと思いました。私は何を目的にこれを買ったんだろうって、50年後に健康でいたいために今を犠牲にするのかって。

渕上:トンデモを言う人たちは「10年後、20年後の影響はわからないでしょう」とよく言いますよね。

岡田:どんなものでもわからないですよ。無農薬の農産物をずっと食べていてもガンになる人もざらにいます。結局、何を食べても将来どうなるのかはわからないです。

医療トンデモの入口は農業トンデモ

渕上:医療トンデモの入口は、農業トンデモだと考えています。たとえば、無農薬野菜はいいですが、そのようなイベントに参加すると医療トンデモの人が待ち構えていることもあります。

岡田:子ども向けの農業体験に参加したことがあります。子どもに色々な経験させたいという親心を利用して、行くと実は…というところも。善意を悪用していますよね。

渕上:農業体験に行ったのに「市販のシャンプーを使っていませんか?」とか「まさかワクチン打っていないですよね?」などと言われてしまったり。

岡田:いま聞くと「そういう構造か!」と思いますが、はじめて聞くと「そうなの⁉︎」と信じてしまいますよね。講演会に行って、周りが盛り上がっているのを見ると、たとえそれが少人数だったとしても大多数に感じてしまいます。
ところで、『くるくる村』の由来って何でしょう。

参考

渕上:循環型だとか、みんなが来る来るとか、色々な意味があるみたいです。

岡田:ブラックジョークじゃないんですね! 私が穿った見方をしていました(笑)。ある意味、踏み絵だ!

渕上:巧妙ですよね(笑)。農業関係者としては、医療トンデモの入口に農業を使ってほしくないです。

岡田:農業というか食は毎日のことなので、医療より身近なんでしょうね。トンデモを言う人たちが食べ物に目を付けるところはさすがですね。

“意識の高い人たち”が少数派で固まって安心する

渕上桂樹さんと岡田恭子さん

渕上:トンデモを発信する人たちは、みんなが何となく怖いと思っている不安を上手にくすぐりますよね。

岡田:「みんな知らないの? 私が教えてあげなくちゃ」って。

渕上:いい気分にさせてくれます。私はみんなが知らないことを知っている、意識が高い人なんだって。「みんなにも気づいてほしいんです、私のように」って。

岡田:「私は気づきました。だから私の直感で考えます」って言う人がいますよね。同調圧力が嫌いなので、マスクはしません、ワクチンは打ちませんって。それは同調圧力じゃないですよ。

渕上:少数派でいるのが好きで、多数派に従わないんだということですね。

岡田:多数派でいると、「みんなそれぞれだよね」と仲間は作れませんが、少数派だと仲間内でまったく同じ考え方ができるので、安心できて心地いいんでしょう。山に一人でこもるのは嫌だけど同じ志を持った仲間と村を作ろう、はまさにそれでしょう。

薬機法改正を医療トンデモ抑制のきっかけに

岡田:トンデモを言う人たちは、世の中を分断させようとしているんですか。

渕上:トンデモを発信する人たちは対立する必要がないところにわざわざ境界線を引くので、分断は起こり得ます。種を守る人と関心のない人や、有機と慣行の間に線を引く。そして、正しい情報にふれる機会を遮断していきます。

岡田:種の映画を観るとそっちに流れていっちゃいますよね。渕上さんを知って、AGRI FACTを知って大丈夫なんだって思えるようになりました。医療についてもたくさんの資料を読んでいますが、まず「専門家」が本当の専門家なのか調べるところからはじめます。
改正薬機法が2021年8月から一部施行されて、「セラピー」や「トリートメント」「便秘に効く」などの表現もアウトになったので、医療トンデモは少し抑えられるかもしれません。

渕上:改正をきっかけに、いい方向へ行きたいですよね。科学は「効くかもしれない」とは言えません。ちゃんと勉強をしている人ほどと断定避けます。トンデモの断定とは対照的です。

トンデモの蓋を開けて可視化することが大事

渕上:一般人は、くるくる村のように色々なところに潜んでいるトンデモにどのように気をつけたらいいと思いますか。

岡田:情報源を複数持つことでしょうか。YouTubeだけ見ていると、欲しい情報しか入ってこないフィルターバブル(註:フィルターバブルとは、インターネット上で泡のなかに包まれたように、自分の見たい情報しか見えなくなること)があるし、TwitterやInstagramだけだとフォローしている人からの情報しか入りません。新聞を読んでみよう、テレビを見てみよう、で、ツッコミを入れてみる。コロナで人と直接話しにくいのは困りますね。こんな些細なことをLINEでは相談できないよね、となるとネットの闇にハマってしまいがちです。

渕上:最初に公的機関の情報をチェックするクセをつけたほうがいいですよね。

岡田:でも、一般の人がファイザー社の人が流したデマの真偽を確認するために、アメリカの国際安全衛生センター(CDC)の情報まで探すかというと、やはり難しいと思います。
メディアの切り取り方の問題もあると思います。「ワクチンを打っていたのに感染者○名もいた」なのか「ワクチンを打っていたので軽症で済んだ」なのか。ですので、題名だけではなく、中身まで確認することが大事です。

渕上:YouTubeなどのSNS側もデマ情報の規制をしはじめていますね。

岡田:YouTubeがデマ情報の規制をしたら「政府は真実を隠したいんだ、こっちが本当だ」とニコニコ動画に流れて盛り上がってしまうだけだと思います。規制の意味はあるのでしょうか。情報の広がりが限定的になるからいいのでしょうか。

渕上:トンデモが地下にもぐると、カルト化して被害は大きくなると考えています。私のトンデモハンターとしての仕事は、トンデモの蓋を開けて世の中に知ってもらうことです。トンデモが存在していて、いたるところで待ち受けていると知っていれば、のめり込む前に入口で立ち止まる人が増えるのではないでしょうか。オレオレ詐欺でも、知っていれば対応できます。存在を知らないと、その都度、その場で判断しないといけなくて、発見が遅れます。私はトンデモこそ可視化することに意味があると思っています。

岡田:確かに! 人は見えないものに恐怖を感じますしね。可視化することには意味がありそうです。

渕上:本日はありがとうございました。(2021年10月2日)

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