農薬を落とすというナントカウォーターの勧誘を受けてみた（前編）：63杯目【渕上桂樹のバーカウンター】

私のもとに届いた「ご紹介したい水があるのですが、お時間いただけませんか？」というメッセージ。なんでも、野菜や農薬に関係があるそうで、話を聞いてみることにしました。場所は私の店。やって来たのは男性と女性の2名。その水を仮に“ナントカウォーター”とし、勧誘を受けたときのことを書こうと思います。

マルチ商法をあえて聞く

初めはナントカウォーターの会社説明から始まりました。説明してくれた男性は右肩上がりのグラフを示し、会社がいかに成長しているかを強調していました。

次に、男性はナントカウォーターの会社社長との仲が良いことをアピールし、「ぜひ渕上さんも一緒に会いに行きましょう。きっと実りある話ができますよ」と誘ってくれました。

会社説明のあとにはナントカウォーターのナントカ会員の説明があり、「一般会員からプレミアム会員的なものになれば収入になるので、そのために会員を入会させて～」みたいな話になりました。私は「あれ？　マルチ商法かな？」と思ったので、「これってマルチ商法の勧誘ですか？　勧誘だって言ってました？」と確認したところ、男性も女性も「はい！　最初に言いました！」とすごい勢いで即答したのでたぶん私が聞き逃したのでしょう。

今回の勧誘は、私にナントカウォーターを買ってほしいのではなく、ナントカウォーターを販売する代理店になってほしいというものだったようです。

矢継ぎ早の商品説明始まる

会社説明の次は、いよいよナントカウォーターの説明が始まりました。導入部分で、水がいかに大切かという話がありました。男性と女性はパンフレットを見せながら、「地球上の水資源のうち、人間が飲めるのはたったこれだけ」「水を巡って争いが起きるかもしれない」「水を制する者は世界を制する」と言って水の貴重さを強調していました。

次に、災害時に水がとても大切だという話があり、ナントカウォーターは災害時に寄付されてとても感謝されたというエピソードが紹介されました。そして、汚れが溜まった水道管の写真を見せられ、「水道水は大丈夫でしょうか？　こんな水道水を飲んでいるんですよ！」という話をされました。こうした話を聞いて、私は（ナントカウォーターの会社は既存の水道サービスとは別に、より安全で安定した水を提供していると言いたいんだろうな）と思って聞いていました。

ただ、話の後の方で知ったのですが、どうやらナントカウォーターは普通の水道水で希釈して使う物だということでした。いや、まあ、それはそれで全然良いと思うんですけど、だったら序盤の話はどうなるの？　と思うわけです。「水資源が取り合いになったら？」とか、「災害時に水道が使えない時は？」とか、「水道管が汚れていたら？」とか全部そうなんですけど、ナントカウォーターがあっても結局は普通の水道が頼りということじゃないですか。そりゃ、もちろん水道を頼ってもいいけど、それならもっとリスペクトした方がいいんじゃないですかね？　汚れた水道管を見せるのではなくて。なんてことを思ってしまいました。

コロナに効く⁉

次に話題は新型コロナウイルスの話題に移りました。ナントカウォーターは除菌やコロナウイルス対策の効果が期待できるという話になり、「ナントカウォーターを使えば菌やウイルスが実際にこんなに減るんです！」という実験結果のようなものを見せられました。そのデータは膨大に蓄積されているらしく、菌が減少したことを示す写真も何枚も用意されていました。男性は、自身が経営する施設でも除菌のために使っていると説明してくれました。ただ、私には知識がないので、データや論文を見せられてもそれがどの程度の効果を示すものなのか、そもそもそのデータが根拠になり得るのかがさっぱり判断できないのです。

データを見て判断できる知識がないのは私だけではないと思います。だから、そのために認証があるのだと思います。除菌に使う普通のアルコール消毒液なども、各社が自由気ままに効果を謳って（または効果があるかのように示唆して）販売していたら買う側は判断できずに困ってしまいます。しかし、「医薬部外品」と書かれていたら「ああ、きっとこれは効果などの審査を経て認証されたんだな」とわかります。なので、「医薬部外品とかそういうの取ってるんですか？」と尋ねてみたのですが、「そういう認証があるわけではない」とのことでした。私は（そんなに苦労してデータを取って検証しているなら医薬部外品の認証を取ればいいのに）と思ってしまいました。

ミネラル不足……

次に、話題はミネラルの話になりました。ナントカウォーターはミネラルを多く含んでおり、毎日飲むことで不足しがちなミネラルを補うことができるという話でした。そして、ミネラルが不足するとどうなってしまうのかという話になりました。

男性は「現代の野菜は昔に比べて栄養価が低いんです」と言って1950年代の野菜と栄養価を比較したグラフのようなものを見せられました。そして、「ミネラルが不足するとまず影響があるのはどこだと思いますか？　それは脳です。最近発達障害が増えていますよね？　それはミネラル不足が原因ではないかと言われています。普通の食生活で大丈夫でしょうか？」と、発達障害と食事を関連付けて話していました。

パンフレットの次のページには池上彰さんが登場するTV番組のキャプチャ画像があり、そこには「現代型栄養失調が増えている」といったテロップがありました。話をまとめると「現代の野菜は栄養が少ないので、普段の食事ではミネラルが不足し、現代型栄養失調や発達障害が引き起こされる」という趣旨のようでした。私は（1950年代と現代では栄養素の測定方法や基準などが根本的に違うからそもそも比較することができないんじゃない？　あと、発達障害が食べ物のせいって、そんなこと言って偏見につながらないか？　発達障害がある子を支援する人たち、誰も食べ物の話なんてしてないけど。それに、現代型栄養失調って食生活の問題で野菜のミネラル不足の話じゃないんじゃない？）と思って聞いていました。

残留農薬……

次にいよいよ農薬の話になりました。市販の野菜にいかに多く農薬が残留しているかという話で、「日本の農薬使用量は世界でもトップクラス！」というグラフを見せられました。このグラフは、日本の野菜がいかに危険であるかを印象付けるときによく使われるもので、私も過去に何度か見たことがありました。私は（うーん、またこれか。使用量を見せられてもなあ。農薬によって成分も影響の強さも全然違うし、種まき前の種子に使うか出荷する作物に使うかでも全然違うから量が多いとか少ないとか比較しても仕方ないんだよな。そもそも各国で農薬の定義が違う可能性だってあるしなあ……）と思って聞いていました。

そして、話の終盤では実験を披露するということで、女性が担当してくれました。女性は、袋から市販の青じそを取り出しました。大手スーパーで購入した青じそだそうで、女性は「この青じそは農薬が使われています。味にはっきり現れているので実験をお見せしましょう」と言いました。私は「ちょっと待ってください。何の農薬ですか？　味でわかるんですか？」と聞きましたが、「何の農薬かは知らないけど、農薬を落とせば野菜本来の味がわかるので」と言って、ナントカウォーターで洗った青じそと何もしていない青じその2つを出されました。

「まずはナントカウォーターで洗った青じそを食べてみてください」と言われ、私は言われた通りにちょっとちぎって食べてみました。女性は「どうですか？　美味しいでしょ？」とにっこり微笑みました。私は「美味しいですね」と答えました。そして、「ではこっちのナントカウォーターで洗っていない青じそを食べてみてください」というので、今度はそっちをちぎって食べてみました。うん、まあ、これも美味しいと思っていると、「どうですか？　最初の方が風味がはっきりしてるでしょ？　この実験を見せたかったんです」と嬉しそうに言いました。

私は（いや、そんなの実験じゃなくてただのトリックじゃないですか。最初に食べた方が味を感じやすいからでしょ？　本当に実験する気があるなら逆の順番で食べてみないとわからないのでは？）なんてことを思っていたら、最初の青じそをテキパキ下げられてしまいました。私は「ちょっと待って！　もう一度最初の青じそを食べさせて！」と言ってかじってみましたが、やっぱり違いはありませんでした。

電気を通す⁉

最後の実験は「ナントカウォーターはミネラル豊富なので電気を通すんですよ」というものでした。「え？　電気を通す？　電気抵抗は何オーム？」なんてことを思っていたらこれまたテキパキとコンセントに電球がついたコードをつなぎ、一部むき出しになった部分をナントカウォーターのコップに出し入れして、電球をチカチカつけたり消したりしていました。2人は軽快に話しながら電球をチカチカチカチカと点滅させていて、私はその様子をずっと眺めていました。きっと私の目もチカチカしていたに違いありません。

男性と女性は「どうですか？　これがナントカウォーターです」と言いました。私は少し考えましたが、せっかくの機会ですし、周りで聞いている人もいるので正直に丁寧に感想を述べることにしました。どんな結末になったかは、次回のコラムに書きたいと思います。

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