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農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート29〉【ナス農家の直言】
今回も
「農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート29〉」
をテーマに、農家の私ナス男が農業デマを紹介していきます。
1.(中)急性中毒に対する指標がない!
「ADIは長期的な一日摂取許容量であって、農薬の急性中毒に対する数値指標はない!」
という人がいますが……ちゃんとあります!
「ARfD」が急性中毒に関する指標に当たります。
ARfDとはAcute Reference Doseの略語で、「急性参照用量」と訳されます。
これは人が農薬を短時間(24時間以内)に摂取しても、健康への悪影響がないと推定される摂取量(mg/kg体重)の上限のことです。
急性毒性試験などから、一度に口にしても影響のない無毒性量を、さらに安全を見込んだ安全係数(通常100:種差10×個体差10)で割った値をARfDとしています。
農薬を食品等から短期間に多量摂取しても、ARfDを超過しなければ健康への悪影響は考えられません。
ADIでは農薬成分を長期的に生涯毎日摂取し続けても影響のない量を定め、ARfDでは一度に多量に摂取した場合でも影響のない量を定めます。
長期的、短期的どちらの場合も考慮して安全な無毒性量が設定されているのです。
2.(二)栽培時期のどこから農薬カウントがリセットされるのか分からない!
「地際から刈り取って再生するニラや、ランナーを切り離して栽培するイチゴは、どこから農薬カウントされるのか分からない!」
という意見は、農家の私でもややこしいなと思うのでもっともです。
私が文字で説明するより、下の図を見ていただいた方が分かりやすいでしょう。
https://www.jcpa.or.jp/assets/file/labo/books/leaf14.pdf
各農家が独断で農薬カウント時期を決めているわけではありません。
農薬使用カウントを開始するルールは明確にあるので、その点は安心してください。
3.(三)果樹は何年も同じ木に農薬をかけているから、樹に農薬が蓄積している!
「農薬カウントがリセットされると言っても、何年も同じ樹から収穫する果樹は農薬が残留しているだろ!」
「樹に残留農薬があるということは、収穫物にも残留しているだろ!」
という人もいます。
農家の私が知る殺虫剤や殺菌剤の中で、何年も樹に残留して効果が消えない農薬はありません。散布した後の農薬は太陽の光や水、空気にさらされることでどんどん分解が進み、消失していきます。
ですから適切に農薬を使用している限り、残留農薬は検出すらされないレベルになるのです。
4.(一)有機栽培面積はぐんぐん増えている!
有機農業面積はここ10年で50%以上増えている、という農水省のデータがあります。
たしかに農水省の発表では、有機栽培面積は増えていますが……
増加した有機栽培面積の大部分は、北海道の牧草地です。
牧草は農薬散布をほとんどせずとも栽培が可能ですので、有機JAS認定を牧草で取る農地が増えているだけ、というのが現状です。
野菜や米、茶などの有機栽培面積もじわじわ増えているのは素晴らしいことですが……
「みどりの食料システム戦略」で2030年に有機農業の面積を6万3000haとする目標を政府は掲げているので、帳尻合わせをしているだけでは? と勘ぐりたくもなります。
5.(左)ビールに使われている作物にはグリホサートが使われている!
「ビールの残留農薬検査したら、数種のビールからグリホサートが使用された痕跡があった!」
というサイトがありました。
このサイトでは、定量限界以下ではあるのものの検出限界以上の値が出たことから、ビールの原料である大麦かホップにグリホサートが使われている痕跡があるとしています。
たしかに、大麦にはグリホサートのプレハーベストが認められています。
小麦のプレハーベストと同じ目的で、収穫の効率を上げるための処理です。
じゃあビールはグリホサートの危険があるから飲まない方がいいのかと言われれば、気にする必要がない、というのが私の考えです。
このサイトでは、検出されたグリホサートの値は350mlの缶から推定濃度5〜10ppb(0.005〜0.01ppm)程度と考えられるとのことですが、全く恐れるべき数値ではありません。
グリホサートのADI=1㎏/1㎎ですから、一日摂取許容量の100分の1以下です!
体重50㎏の人なら350ml缶を実に5000本! 毎日飲み続けて、ようやくグリホサートによる異常が出る、ということになります。
どれだけアルコールに強い方でも、毎日5000缶も飲めるはずがないのは、誰でも想像がつきますよね!
グリホサートを危険視するより、ビールの飲みすぎによるアルコールの過剰摂取を気にする方が現実的です。
なにより発がん性に関しては、グリホサートよりもアルコール飲料の方が上のカテゴリーに分類されるのですから。
ホップにグリホサートをかけている可能性については、ホップ生産者にも改めて確認しましたが、これはあり得ないです。
実際のホップ栽培やホップが実っている様子を見たことがありますか?
穀物ではないので、ホップにグリホサートを使ったら枯れてしまいますよ!
グリホサートにいちゃもんをつけるより、お酒は楽しく節度よく飲みましょう!
6.(右)危険物区分の農薬が存在する!
「危険物という区分の農薬が存在して、作物に散布している! 危険だ!」
と騒いでいる方々がいます。
そもそも危険物とは、一般的に火災や爆発、中毒などを引き起こす危険性のある物質の総称のことで、消防法や毒劇法で規制されています。
農薬にも油性成分を含むものが多くあり、危険物として取り扱わなければならないものがあるのは事実です。
しかし実際の取り扱いの際に、それぞれの農薬のラベルやSDS(安全性評価シート)などに沿った取り扱いをしていれば、使用は認められているのです。
もちろん危険物の農薬でも、適切に使用していれば、消費者に対する安全性は言わずもがな。
危険物という言葉のインパクトで、不安にならないようにしましょう。
7.(捕)自分で古来の自然農法で栽培しようとしたら、新規就農を断られた!
「放射線で変異した米は食べたくないから、古来の方法で栽培した野菜を売りたいと言ったら、市役所に断られた! 農政は分からず屋だ!」
という愚痴の投稿がありました。
どこの市町村かは記載がないので詳しい事情は分かりませんが、農政の方は賢明な判断だったと思います。
あまりにも農業に関して、間違った認識をしているからです。
放射線米とはおそらく「あきたこまちR」のことを指していると思われますが、あきたこまちRは放射線育種米ではなく、交配育種の米です。
確固たる計画があった上での自然農法で就農であれば、農政の方も話は聞いてくれると思います。
だからまずは農業に関して正しい認識を持ってから、農業を始めることをおすすめします。
8.(遊)外国産のそばは危険!
「外国産のそばにはグリホサートが残留している!」
という記事を見ました。
たしかに外国産そばには、収穫直前にグリホサートが散布されている可能性があります。
現在の残留基準値(5ppm)を超えるものはないが、基準値ぎりぎりの残留も見つかっているという内容ですが……
「じゃあ日本で食べられているそばはやばいのか!」と言われれば、基準値を超えていればそもそも輸入できませんし、基準値を超えていなければ安全は担保されています。
現在日本産のそばの自給率は20%ほどと言われていますから、日本産のそばをみなさんで食べましょう!
9.(投)農薬メーカーが自民党に献金している!
「与党に口利きをしてもらって、農薬の安全性の審査などに優位なことをしてもらっているかも!」
といった発言を某大学教授がしています。具体的な指摘ではないので真意はよく分かりませんが、一応、政業の癒着で安全性の審査が歪められていると仮定します。
総務省が発表した収支報告書の発表を見ると、農薬メーカーが数千万円ほど自民党に献金しているのは事実です。
しかし以前の記事でも紹介しましたが、政府が関与して安全性の審査を歪められるほど、簡単な仕組みではないのです。
自民党が永遠に与党とも限りませんし、なんなら政府は有機栽培も推進している立場ですよ?
お金の動きだけで農薬の今後が分かるのであれば、活動家に流れているかもしれないお金も利権がらみということですかね。
まとめ
次回でいよいよ、農業デマシリーズは節目の〈パート30〉を迎えます。
こうご期待!
筆者ナス男(ナス農家&サイト「農家の決断」管理人) |