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「農業トンデモ発信源を追ってたどり着いた虚しさと使命」:27杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

コラム・マンガ

長崎にはありとあらゆる農業トンデモを熱心に吹聴して、みんなの不安を煽るものすごい政治家がいます。過去のコラムでもその政治家が発信する変なトンデモについて触れましたが、私にはずっと気になっていることがありました。それは、「当の本人は本気でトンデモを信じているのか?」ということです。

農業トンデモを発信する政治家

「種苗法改正でタネが支配される!」
「世界が禁止する危険な成分(グリホサート)の除草剤を日本だけが輸入して、健康被害が続出している!」
「発達障害の原因は農薬!(だから給食をオーガニックにしよう)」

これらはもちろん、根拠に乏しいトンデモ話です。
でも、もしも本当だったらどれも大変なことですよね。
なので、もし本気でそう思って言っているとしたら、当然仲間で情報共有して何かしらの対応をしているはずです。
一般人ならまだしも、政治家ならなおさらでしょう。
実際はどうなんでしょう?
確かめてみるしかありません。

上役の党県連幹事長は関知せず

というわけで、その政治家が所属する党の県連の幹事長(当時)に会って話を聞いてみることにしました。
幹事長はトンデモ発信政治家と同じ県連の責任ある立場でありながらも、トンデモハンターにとても協力的な方。
なので、きっといろいろ聞けると思ったのです。

結果から述べますと、なんとその政治家は議員の仲間内で(種苗法や除草剤などの)課題を全く共有していないことがわかりました。
また、これらの問題について何かしらの対応で動いている様子が全くないこともわかりました。
こんなことがありえるのでしょうか?

もしそんなに危険な問題を知ったなら、一般人の私でも関係機関やメーカーなどに確認くらいはします。
実際、「タネが危ない!」という講演を聞いたときには関連する法律を確認した上、農業の知的財産権の専門家に話を聞きましたし、「除草剤(グリホサート)で健康被害が!」という講演を聞いたときには農水省や厚生労働省の情報を確認した上、メーカーの情報を確かめたこともありました。

ましてや政治家で、講演会でも熱心にタネが危ない! 農薬が危ない! と言っていた人がその課題に取り組んでいなかったというのはどういうことでしょう?
答えは一つしかありません。
それは、「当の本人もトンデモだとわかっていてわざと不安を煽っていた」ということです。
幹事長にその可能性を尋ねると、否定することを避けました。

政治家に面談を申し込むも拒否

私は「本人と直接対話がしたいので伝えてほしい」「話がしたいだけで本人のイメージを下げるつもりはないので、対談は非公開でも秘密でも良い」と申し出ましたが、後日、対話は拒否されたと知らされました。
一方がフェアな対話を申し出て、一方が無条件で拒否する構図ですが、驚くべきことに後者が政治家をしているのです。
幹事長は失望した様子で、「彼は政治家ではない」とバッサリでした。

私はいたたまれない気持ちになりました。
なぜなら、長崎には「タネが大変なことになる!」「食の安全が売り渡される!」という農業トンデモを真に受けて、本来必要ない不安に苛まれ、思いを託した人たちがたくさんいるからです。
そして、今でもそういったトンデモを信じてSNSで「タネが危ない!」「グリホサートが危ない!」と訴えかけたり、署名活動をしたり、私の店に質問に来る人たちがいます。
幹事長は「彼はSNSなどオープンなところで(農業トンデモを)発信するのを控えるようになったようだ」(詳しい人にツッコまれるから?)と述べていましたが、ばらまかれた食への不安は今でも人々の心に残り続けているのです。

ちなみにその政治家、今では「子供にワクチンを打たせるな」といった医療トンデモ活動をしている模様です。
これは命に関わることで、こうなることはずっと前から言い続けてきたことですが、医療はさすがに専門外なのでもうこれ以上追うことはできなくなりました。

トンデモハンターの範疇では限界も

私は今まで、農業トンデモを追い、発信源(主に社会的地位のある人)を追及するのには意味があると思ってやってきました。
その中でたくさんの仲間ができましたし、全国の皆さんからメッセージをいただき、思いを聞かせていただけるようにもなりました。

ですが、当の本人がトンデモだとわかっていてわざと発信している場合、そしてなりふり構わず議論から逃げ回る場合、トンデモハンターのできることには限界があると知りました。
これからも同じようにトンデモを追い続けて意味はあるのだろうか?
私は虚しさを覚えたのです。

根拠なく不安を煽るトンデモ情報にどうやったら対抗できるのだろうか?
安全を守り、農業・食を支えるたくさんのプロフェッショナルたちみんなが堂々と誇りをもって働ける社会はどうやって繋いでいけばいいのだろうか?
農業・食品分野の発展にどうやって貢献できるのだろうか?

そのためには、トンデモハンターに注力するよりも、共感・協力してくれる繋がりを増やし、表現力を磨いたりするなど、もっと違ったやり方で取り組まなければならない。
虚しさの中から、新しい使命を見つけた気がしました。

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

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