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農薬に関するデマで打線組んでみた!〈パート8〉【落ちこぼれナス農家の、不器用な日常】
農薬デマが次々に出てきている昨今。
なかなか一般消費者の方では、デマかどうか分からない巧妙なモノもあります。
ということで今回も、
「農薬に関するデマで打線組んでみた!<パート8>」
をテーマに、農家の私ナス男が分かりやすく紹介します!
1.(中)メダカがいなくなったのは、農薬のせいだ!
「昔は川にメダカがいたのに、今では絶滅危惧種だ! これは農薬のせいだ!」
と、メダカの減少を農薬のせいにする方がいますが、これは言い過ぎです。
メダカが減った原因は複数ありますが、主な原因は河川のコンクリート護岸工事だと言われています。
ある程度の水位と植物が生える土がないと、メダカは繁殖しにくいのです。
それに今の農薬は、農薬登録の際に魚毒性の試験もされており、適切に使用すれば魚には影響はほぼ出ないとされています。
農薬散布の作業風景を見ると感情的になってしまうのも分かりますが、多角的に原因を見たいですね。
2.(左)稲作には農薬より合鴨を使え!
「合鴨を使えば稲作の農薬を削減できるだろう! 農薬に頼るな!」
合鴨が田んぼを進んでいく様子はメディアでも取り上げられていて、一般消費者の方にも知られています。
確かに合鴨農法をされている農家もいますし、農薬を削減できるのも事実です。
その一方で、普及が進まないことにも要因があります。
その要因は、
1. 大きなカモは稲を踏んでしまうので、小さいヒナを毎年買わないといけない
2. 大きくなったカモは処理しないといけない(食肉加工)
3. カモの脱走や獣害の対策として、檻などが必要
4. 田んぼの隅々まで働いてくれるわけではない
などが挙げられます。
農法としては素晴らしいと思いますが、普及を妨げるデメリットもあるということも合わせて知っていただきたいです。
3.(三)農薬は劇物!だから危険だ!
「農薬は劇物に指定されている! そんな危ないものを作物に使っているなんて!」
と、思われる方もいるかもしれません。
確かに劇物に指定されている農薬もありますし、「劇物」や「劇薬」という言葉を聞けば、なんかヤバそうだと感じるのも無理はないでしょうが……
そもそも劇物や劇薬とは、取扱いや販売が法律(毒劇法や薬事法)で厳しく規制されているもの。使用量や用途を間違わなければ、安全が担保されています。
つまり日常の中で、「劇物」や「劇薬」という言葉を、過度に恐れなくても良いということです。
4.(右)ネオニコチノイドで学力が低下! 体調不良者が続出!
「動悸や記憶障害など、1000名を超える体調不良が出た!」
「男児がブドウ狩りのぶどうジュースを飲み続けたら、失禁や腹痛などの体調不良が起きた!」
「果物やお茶の接種を止めたら、生徒の成績が一気に回復した!」
登録者10万人を超える某ユーチューバーが、ネオニコチノイドの危険性をこのように説明していました。
サムネイルもインパクトがあり、動画のコメント欄もネオニコチノイドの使用反対の意見が大多数!
不安を覚えた消費者の方も多いと思います。
しかし農家の私の意見としては、この動画は一方的過ぎますし、ネオニコチノイドが原因の症状とするには以下のような疑問があります。
①ネオニコチノイドは茶やイチゴをはじめ、多くの作物で使用が認められています。
つまりお茶やイチゴの産地では、1000名どころではなくもっと大規模な隠しきれないほどの被害が出ていないとおかしいです。
さらに、ネオニコ系農薬を数千倍で希釈して使用する前の、原液でネオニコチノイドを扱っている農家は一般消費者の比ではないくらい触れています。
農家がバタバタ倒れるくらい影響が出ていないと、説明がつかないのではないでしょうか。
②観光農園のブドウが取り上げられていましたが、その農家が残留基準に引っかかるような農薬散布をしていた可能性もあります。農薬は適切に使用すれば基準値以下の残留値しか出ないのが通常であり、雨や紫外線の影響で検出すらされないこともあります。
全て農薬やネオニコチノイドが原因とするのは、論理が飛躍していると感じます。
このユーチューバーに、質問の回答と根拠としている論文を提示するようにDMをしましたが、答えてもらえていません。
オーガニックを広めたいのであれば、このくらいの視聴者の質問には回答すべきだと思うのですが……
5.(三)家庭菜園では無農薬で野菜が作れるのだから、農業でも無農薬でできるはずだ!
「家庭菜園で無農薬の野菜が作れた! だから農家も無農薬でできるはずだ!」
という主旨のツイートが多くの反響を呼びました。
土にすら触れずに農薬デマを流す方もいる中で、農地を借りて自ら家庭菜園を実践しているという点では、このツイート主は素晴らしいと思います!
しかし、発言には賛同できません。
なぜなら、家庭菜園と農業では規模や目的が違うから。
家庭菜園で仮に利益や農作業の時給換算を計算すると、いくらになりますか?
採れた野菜の量から推定して、日本国民1億人以上を賄えるほどですか?
「だから家庭菜園より農業は偉い!」などというつもりは毛頭ありません。
ただ、農業も簡単ではないということは理解していただきたいです。
6.(二)自然をナメるな!
「自然に任せれば、野菜は手をかけずとも育つ!」
「農薬に頼り過ぎだ! 自然のエネルギーをナメるな!」
と、本気で慣行栽培農家にコメントできてしまうのが、SNSの恐ろしいところです。
他人に言われずとも、農家が一番自然の力の恐ろしさを知っています。
● 雑草は少しの期間で、あっという間に生えてくること
● 病害虫の初期の発生を見逃せば、作物が致命的なダメージを受けること
● 天候不順や災害被害で、離農せざるを得なくなる可能性もあること
どんな栽培方法であれ、自然の脅威は一緒です。
慣行栽培農家の私としては、自然の脅威で離農するリスクを少しでも減らすために、最低限の農薬を使っています。
7.(捕)ペットも農薬まみれのフードを食べているからガンが増えている!
「○○というフードは、モンサント製(ちなみに米モンサント社は独バイエル社に買収され現在は存在しません)! 農薬まみれの原料で生産されているから、ペットもガンが増えている!」
これも言い過ぎだと私は思います。
ペットのガンが増えている最大の要因は、ペットの寿命が伸びているからと言われています。
人間が長生きするにつれガンのリスクが高まるのと同じように、ペットも昔と比べて長生きしている分、ガンになりやすいと考えられます。
ペットに健康でいてほしいという飼い主の気持ちはすごく分かります。
そのためにも、情報は多角的に集めた方がいいでしょう。
8.(遊)もし農薬が原因で病気になったら、お前は責任取れるのか!
「農薬肯定派や慣行栽培農家は、国民が病気になったら責任を取れるのか!」
そう言われると……
国が定める農薬の残留基準値やADIに基づいて農薬散布をしているだけなので、私や農家は責任を取る立場にありません。
なので、責任の所在は国でしょう。
B型肝炎やアスベストの被害が国の責任だと認められたように、病気の被害の根拠や農薬との因果関係が認められれば賠償はされると思います。
そして農薬使用の責任の所在を農家に問う前に、まずは農薬デマを流している方に責任の所在を問うべきです。
特定の方の根拠不明の情報を信じて、それでも不幸にも病気になってしまった場合。
その方は、責任を取ってくれますか?
健康不安を煽るインフルエンサーの中には、
● 同業者(農家)は加入できない
● 個人の経験や知見を発信しているので、経済的・精神的損失は補償しない
などの文言があり、発信の責任を一切取らないオンラインサロンを運営している方もいます。
どんな情報を信じるかは個人の自由です。
しかし発言の内容を信用する前に、責任の所在を聞いてみてからでも遅くはないはずです。
9.(投)農薬の使用基準を守らない農家がいるから安心できない!
「農薬の残留基準値を大幅に上回る野菜が出ているとニュースになった!」
「慣行栽培の農家は信用できない! 無農薬で栽培している農家だけが信用できる!」
これは、度々話題になることです。
たしかに、農薬の使用基準を守らない農家がいるのは、残念ながら事実です。
JAを含む多くの出荷先は、農薬の使用履歴の提出が求められており、抜き打ちの残留農薬チェックがあります。
もしも残留農薬が検出されたら……その農家の出荷停止はもちろんのこと、社会的信用を失うでしょう。
しかしそれでも、チェックをすり抜けてしまうこともあります。
それならば、やはり無農薬で栽培している農家は唯一信用出来るかというと、残念ながらそうとは断言できません。
農薬不使用を謳っていても、嘘をついて農薬を使っている可能性もゼロとは言い切れないからです。
「じゃあどの農法なら信用できるんだ!」と、混乱される方もいるかもしれません。
極論ですが、本当に100%の安心や信用を求めるのであれば、自分で家庭菜園をして自給自足をするしかないと思います。
食という、生きるために必要不可欠なものを他人に委ねないことしか、100%の安心と信用は得られません。
農家の私としては、信用して買ってもらえる作物を提供できるように、これからも農薬の基準をきっちり遵守して栽培するだけです。
まとめ
農薬に関するデマで打線組んでみた! シリーズが〈パート8〉まで続いていますが、打線のメンバーが弱くなることはなく、むしろ次々とルーキー達が台頭してきています。これからも新しく出てくる農薬デマをどんどん取り上げていきます。
筆者ナス男(ハイパーナスクリエイター「いわゆるナス農家」) |