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第5回「消費されるオーガニックと、料理人の矜持」【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

コラム・マンガ

ミシュランガイドに新登場の“グリーンスター”指標

2020年12月に発売された『ミシュランガイド東京2021』では、レストランのサステナビリティ(持続可能な取り組み)を評価する指標として新たに「グリーンスター」が導入された。東京では、三つ星を獲得した「レフェルヴェソンス」と「カンテサンス」、サステナブルシーフードの取り組みでも知られる「シンシア」など6店が今回、グリーンスターも併せて取得している。

グリーンスターは本家のミシュランガイドでも2020年より追加され、トップシェフの世界でもサステナビリティが大きな潮流になっていることを印象づけるニュースとなった。

この一見「良いこと」に思えるグリーンスターの導入に対して、受賞したシェフから批判的な意見も上がっている。2020年6月に配信されたWIREDの記事によれば、コペンハーゲンの有名店「レレ」のクリスチャン・プリージ氏はグリーンスターの選考プロセスの不透明さを指摘し「マーケティング戦略にすぎない」「greenwashing」と切って捨てている。同じくコペンハーゲンの「アマス」のマット・オーランド氏も「サステナビリティを単に“流行”と見て飛びつこうとする中身のない行為」「オーガニックという言葉と同様に、すぐに無意味なものになる」と手厳しい。

プリージ、オーランド両氏は、世界一のレストランとも称される「ノーマ」でのキャリアを経験している。「レレ」にせよ「アマス」にせよ、有機食材を積極的に使用していることで知られる。食材調達の未来と真剣に向き合ってきたからこそ、これまでサステナブルと真逆の美食文化を賞賛してきたミシュランが、彼らの努力に便乗するような仕方で安易にグリーンスターを導入することが許し難いのだろう。実際、プリージ氏も当初はグリーンスターに期待を寄せていたと自身のウェブサイトで綴っている。

オーガニック店を名乗らない理由

「オーガニックという言葉は無意味」とまで断じたオーランド氏の心情は、いかほどのものだろうか。僕の周囲では、有機の食材を多く採り入れながら、あえてそのことを前面に打ち出さない飲食店が少なくない。以前、何人かにその理由を尋ねたことがあるが、答えは概ね、同じような内容だった。

有機だけが売りではない

ひとつは、有機を選んでいるのは結果に過ぎず、それ自体をコンセプトや制約にするつもりはないというもの。どんな店をつくりたいかという理想が最初にあり、そのために本当に使いたいと思える食材や、信頼関係を築いて共に歩みたい生産者に出会えれば、それが有機なのかどうかで判断することはない。逆に有機であっても美味しくなければ、当たり前だが使わない。それなら本質から外れた看板をわざわざ掲げる必要性もメリットもないということだ。

招かざる客を呼び寄せる

もうひとつは、「店を守るため」というもの。店という場は、味やサービスの質、店の雰囲気や姿勢に共感して通ってくれるお客様との信頼関係によって守られ、育てられていく。だがオーガニックを看板にしてしまうと、丁寧に作り上げてきたディテールよりも「オーガニックか否か」を基準に店を選ぶ客を招き入れることになり、少なからず客層が変化してしまう。そのことを彼らは肌で感じている。人によっては、もっとはっきりと「客の質が下がる」とさえ言う。

なまじ「自然派」のイメージがついてしまったために、食材がオーガニックかどうかを過剰に気に掛ける客から、執拗な問い合わせを受けて疲弊した経験を語る店もある。もちろん、そんな特殊な客はごく一部だということくらい、店側もわかっている。だが小さな店なら尚のこと、そのようなクレームじみた問い合せへの対応に時間とエネルギーを取られるくらいなら、今の店をありのまま愛してくれているお客様を大切にしたいと考えるのは自然なことだろう。

農薬の味がわかる!?

こうしたことからわかるのは、彼らが本質的にはオーガニックというコンセプトに理解と共感を持ちながらも、オーガニックが健康マーケティングに利用されたり表層的に消費されている現状からはあえて距離を置くことで、店と客を守ろうとしている点だ。ある意味、小さな店が取材を断る動機にも通じるものがある。

だいぶ前のことだが、カフェでジュースの注文を受けてサーブした際に「本当に無農薬なのか。もし少しでも農薬を使っていれば私は味でわかる。嘘は通用しない」と凄まれたことがあった。一杯のジュースに味がわかるほどの量の農薬が含まれていたら、それはさすがに生命に関わるかもしれないが、直接農薬を注ぎ入れでもしない限り、そんなことは起こり得ない。

笑い話のように聞こえるかもしれないが、このような「消費者」を生み出しているのは、農薬や化学物質の恐怖を煽るマーケティングをおこなってきた、あるいは黙認し放置してきたオーガニックサイドであり、同時にまた科学コミュニケーションの敗北の結果でもあると思う。

かっこいいお店の条件

僕自身が店長を務めていたカフェは、周囲からはオーガニックカフェと呼ばれていたし、そう見られることまで否定しようとは思わなかった。それでも「食材がオーガニックなのかどうかは店の本質ではないよね」というコンセンサスを、時間をかけてスタッフみんなで培ってきた。

するとやがて、僕らスタッフが憧れて目標にしたり、足を運ぶ店のなかに、いわゆるオーガニックや自然食の店はほとんど含まれないようになっていった。学ぶことがなかったからだ。

オーガニックコーヒーを売りにしている店のなかには、オーガニックというだけで美味しくもなければ、おいしくないという自覚すらない店もあった。10年以上前の話なので、さすがに現在ではそういう店はだいぶ淘汰されたのではないかと思うが、オーガニックという記号だけで喜んでお金を払ってくれるお客さんを囲い込まなければ成り立たないのは、なんだか辛い。

半面、僕らが憧れた店は例外なく、生産者や加工業者、バイヤーと一緒に汗をかき、お互いを高め合える関係性のもとに店をつくろうとしていたし、何より食材とお客さんを大切にしていた。その背中のかっこよさの前では、食材が有機かどうかなんて、少なくとも僕にとっては些末なことでしかなかった。

ゴールはオーガニックの先

とはいえ、冒頭のミシュランの事例にも通じるように、世代が下るにしたがって、食にまつわる環境負荷を下げること、生産者との互恵的な関係を築くこと、食材や食文化の持続性を高めることなどは、良い意味でスタンダードな感覚として、共有されつつあるように感じる。それこそ気負いなく、大声で叫ぶまでもなく。

慣行農業をむやみに忌避するような感覚はむしろ薄れてきているし、そもそもそのような攻撃的な素振りは必要とされていない。オーガニックは、彼らが持続可能な社会を築くためのたくさんのツールのひとつにすぎず、もっとずっと先のゴールを見ている。

その一方で、自覚の有無に関係なく、恐怖と不安を煽る仕方でオーガニック以外を否定し、分断を再生産し続けるビジネスやイデオロギーも、巧みに姿を変えながら生き延び、人々を苦しめている。そのことはAGRI FACTの取り上げる様々なファクトチェックを眺めるだけでも、現在進行形の問題であることがよくわかる。

わがままな客か当事者か

無農薬が良いと言うとき、僕らはどれほど農薬について理解しているだろうか。農薬を使用している側の考えにどれだけ耳を傾けたことがあるだろうか。その農家が友人だったとき、除草がつらい、最小限の農薬を使わせてほしいと言われたら、努力が足りない、時代遅れだ、欧米は進んでいる、と責めるのか。それとも、話を聞き、まずはとにかく草取りの手伝いに毎日でも足を運んでみるのか。

金を払って「ニーズ」を突きつける、わがままなお客さん(消費者)で終わるか、当事者として矛盾や葛藤を一緒に引き受けるか。問われているのはそういうことかもしれない。

持続可能な社会を願えばこそ、オーガニックという言葉に絡みつく呪いを今の世代で終わらせなければいけない。いま目の前にいる人を大切にできているかどうか。そのことを日々問われ続ける飲食の現場には、呪いを解くためのヒントが詰まっていると思う。

筆者

間宮俊賢

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