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第26回「オリンピックレガシーはオーガニック」と言っていた人たち【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

コラム・マンガ

東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー契約などをめぐる汚職が、今になって次々と明るみになっています。実はかつて、そんなオリパラの開催に向けて、選手村にオーガニック食材を提供しようという運動が存在しました。もはや誰からも忘れ去られつつあるその運動から生まれたさまざまな迷言・珍言をあえて蒸し返し、誰も追わないその後の結果をオリパラ公式報告書から読み解いていきます。


大会組織委員会の元理事が、スポンサー企業から賄賂を受け取った疑いがあると最初に報じられたのが7月。
その後も様々な関係者の逮捕や聴取が相次ぎ、この記事を作成している10月に入ってもなお、関連報道が続いている。

とはいえ、心底驚いている人は少ないだろう。
招致の段階から既に「東京の夏は温暖で、アスリートにとって理想的な気候」と誰の目にも明らかな嘘をつき通し、JOC竹田前会長の汚職疑惑も発覚していた。

招致決定後も「世界一カネのかからない五輪」と言いながら結局予算が倍増するまで肥大化を続け、その裏では都営霞ヶ丘アパートの住民の強制退去がおこなわれるなど、暗部を挙げていけばきりがない。

今さら賄賂くらい想定の範囲内、と冷めた目で見ている人の方がおそらく多いと思う。

「オーガニックこそオリンピックレガシーだ」

ところで、そんな東京オリパラに対してオーガニック業界がかつて熱視線を注いでいたことをご存知の方は、どのくらいいるだろうか。

今となっては耳を疑うような話だが、オリパラを日本のオーガニック市場拡大のまたとないチャンスと捉えて、「オーガニックこそオリンピックレガシーだ」と真顔で語っていた人たちが当時は存在していたのだ。

オリパラのダークサイドが報道されるたびに、彼らのことを思い出さずにいられない。

もう忘れたいと思っている関係者が多いかもしれないが、元組織委とスポンサーに東京地検特捜部の捜査の手が伸びているこのタイミングで、あらためてしつこく掘り返しておきたい。

国産有機農産物の安定供給に目途が立たないが……

発端は2012年のロンドン大会にまで遡る。
気候変動などの環境問題に世界的に懸念が高まるなか、オリパラの運営に対しても、持続可能性に配慮すべきという気運が醸成され、ロンドン大会では選手村の食材に関して有機農産物の調達を「意欲的基準」と定めたフードビジョンが示された。
さらに、2016年のリオ大会も基本的にその流れを踏襲した。

そこで東京大会においても同水準の調達基準が策定されれば、日本の有機農産物に一挙に世界的な注目が集まり、一発逆転の飛躍的な拡大チャンスになる、という期待が生まれた。

むしろ国内の有機の生産量があまりに少ないので、オリパラまでにどれだけ耕作面積を拡大できるか?ということが課題として真剣に検討されるほどだった。

だが結局のところ、わかりきっていたことだが、国内で有機農産物を安定的に供給できる目処が立たないこともあり、2017年3月に組織委の定めた農産物の調達基準ではGAP認証が要件として採用される。
有機農産物は「要件を満たした上で推奨される事項」のひとつとして、付随的に記載されるに留まった。

これにより業界からオリパラへの期待は縮小し、「オリンピックをオーガニックに」のかけ声も徐々にトーンダウンしていくことになる。

それでもなお一部の人々は、食料調達基準の適用外(GAP認証の取得が要件とされない)である事前キャンプやホストタウンでは、海外からのゲストにオーガニックのおもてなしが喜ばれるに違いない!と逞しく活動を続けた。

「海外のアスリートはみんなオーガニックしか食べない」

確かにロンドンやリオの流れを考えれば、東京でも何らかの形で有機農産物が推奨されることは決して不自然ではない。
その意味で、実現性はともかく一時期の盛り上がりは必ずしも無根拠なものではなかった。

ただし一部の人々から聞こえてくる発言には、どうにも首をひねるものが多かった。

オーガニックヴィレッジジャパン(OVJ)事務局長・山口タカ氏「世界のアスリートたちは確実にオーガニックを求めて日本にやってくる。(中略)『全国初! ○○(自治体)ではオーガニックなおもてなしをします!』と宣言すれば国内外から注目されること間違いない」

この発言に象徴されるように、私の周りにも「オーガニックはアスリートのパフォーマンスを上げる」「むしろ五輪がオーガニックを求めていた」「海外のアスリートはみんなオーガニックしか食べない(!)」などと、行く先々で断言して憚らない人たちが確かに存在した。

だが不思議に思って「みんなって、具体的には誰ですか?」と尋ねても、口籠るか、黙り込むばかりで、まともに答えてもらえたことはなかった。

アスリートにとって食事の管理が重要なのは言うまでもないし、一部にオーガニックを好むアスリートが存在するのが事実だとしても、「みんなオーガニックしか食べない」「確実に求めている」は当然、明らかな誇張であり、デタラメだった。

なぜそんな風にすぐばれる嘘をつくのだろう、と当時は不可解だったが、今にして考えれば「オーガニックこそ正義」という信念に甘えてきた悪しき業界文化を、わかりやすくトレースしていたのだと思う。

報告書にオーガニック関連の記載はほぼ皆無

では、時を経て今年6月に公開された「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会公式報告書」では、オーガニックの扱いはどうなっているのだろうか。

組織委による公式報告書は「オフィシャルレポート」と位置付けられ、3部に分かれている。
第1部は444ページあり、目次には「持続可能性」「レガシー」「選手村のダイニング」といった項目も見られる。
第2部は179ページで、競技やイベントの写真記録が中心。

第3部にあたる「東京2020大会の振り返り」という報告書は大会の運営に焦点を当てた内容で358ページ。
目次に「選手村(本村)における飲食提供/ホストタウンにおける取組について/持続可能性に配慮した調達コード」などを含む。

報告書PDFをすべて検索してみると、「オーガニック」の文字は1件だけ見つかった。
しかし、「サーフィン競技会場でヨガイベントやオーガニックフード販売の計画があった」という旨について書かれているのみで、無観客開催となったため、これは実現していない。

「有機」は全3件あったが、「有機的な連携」「有機的な結合」などで農産物の話ですらなかった。

なお、「GAP」に関しては9件の記述があった。
その他参考までに調べてみると、グルテンフリー5件、ベジタリアン4件、ハラール5件、ヴィーガン0件という結果が出た。

ちなみに、「レガシー」という言葉は報告書第1部だけで179回登場するが、もちろんオーガニックとは一切絡んでいない。
つまるところ、オーガニックはレガシーになれなかったし、全3部・1,000ページに及ぶ膨大な公式報告書にもまったく登場することがなかった。

唯一、組織委による「持続可能性大会後報告書」には、食材の調達に関して「有機農業により生産された農産物や障がい者が携わって生産された食材もありました」という一文(P.97)を辛うじて発見することができたので、実際の取扱量は全くのゼロではなかったようだ。

ただ、グルテンフリーやハラールへの対応が選手側からのニーズという文脈で報告されていることを踏まえると、オーガニックに関しては選手側から特段の強い要望はなかった可能性を推測できる。

わずかな農薬も許せないが、オリパラの暗部には口をつぐむ人たち

それにしても最大の謎は、東京オリパラが招致段階から既に様々な疑惑を抱え、開催決定後にも不祥事が噴出するなか、「オリンピックをオーガニックに」の人たちが一様に、そこにはまったく触れず口をつぐんでいたことだった。

一般論としては「オーガニックといえどビジネスなのだから綺麗事だけでは済まない。清濁併せ吞み、現実と折り合いをつけて利を追うべき」というのも一理かもしれない。

だが普段、わずかな残留農薬さえ許容せず、「今だけ金だけ自分だけ」と他者の経済活動を厳しく追及する「正義」の側の人々だ。
不祥事だらけのオリパラに便乗することや、こんな時だけ不都合な事実をひたすら黙殺する自己矛盾に、良心の呵責はなかったのだろうか。

当時何名かの人に、正面からそのことを尋ねてみたが、やはりはぐらかされたり、うやむやにされて、まともな回答は得られなかった。

本来、オリパラの暗部に向き合って声を上げることと、オリパラを機にオーガニックの拡大を企図することは、矛盾なく両立し得る。

現に、組織委の一員だった山口香氏は在任中から内部批判の声を上げ、今年10月の対談記事でも「アスリートたちは『世界最高峰の勝負の世界』を見せようとしている。その周りの人たちが、砂糖に群がるアリのように、うまみをかすめ取っていく」と述懐している。

一方、「海外のアスリートはオーガニックしか食べない」と言っていた人たちが後に自己批判や反省を口にしたという話は、今のところ聞かない。
当然、今年になって組織委元理事の汚職が明らかになっても、誰も何も言わない。

黙って忘れてもらえるのを待っているのかもしれないが、見る人はちゃんと見ている、とだけ言っておきたい。

【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】記事一覧

筆者

間宮俊賢

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