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Vol.3 野菜農家が「SOS商法(売り先)」問題を語る【農家の本音 〇〇(問題)を語る】

農家の声

千葉県で明治から続く農家の5代目、メロンとサツマイモを主に栽培している富岡優人です。農学部を卒業後すぐに就農し、今年で4年目。農家・農業の現場を知ってもらうきっかけになれればと思い情報発信しています。

農産物の「SOS商法」

巷で「SOS商法」が話題になっています。大量の誤発注や大量注文をドタキャンされた小売店がネットで窮状を訴えると、同情や善意で集まった客の協力で完売し、食品ロスを免れる。よかった、よかったという新手の販売方法です。最近では農産物バージョンが展開されていて、農家が「助けてください! 〇〇を買ってくれないと捨てるしかありません!」などと言って消費者の情に訴え、悪天候や管理不足による病害などでできてしまった市場価値の低い商品を売りさばくケースが見受けられます。

SDGsとも絡めた「規格外品ビジネス」を含めて、僕はこのような販売方法に対しては否定的な立場です。限られた需要の一部を、市場価値の低い生産物が満たしてしまえば、正規品の消費は落ち込み、その品目全体の価格が下落します。「悪貨は良貨を駆逐する」ですね。巡り巡って農業者全体の不利益になるため、積極的に販売するべきではないと考えています。エンタメ商法としては成立するとは思いますが……

これらの話題が出たときに気になるのが、「農家は農作物が育って収穫時期になってから販売先を考える出たとこ勝負」と誤解している消費者が多いのではないかということです。今回そうした誤解を解くためにも農家の栽培・販売方針について語りたいと思います。

栽培前から売り先は決めている

売り先はたいがい栽培を始める前から決めています。決して出たとこ勝負ではありません。

一番わかりやすいケースが、特定の取引先向けに育てて納める「契約栽培」です。納入先の要望に合わせて栽培する契約栽培では、事前に納入量と時期、買い取り価格が決まっています。学校給食用に提供する場合もほぼ同様です。

契約栽培ではないケースについても、作付け前から販売先を決めていることがほとんどです。現実問題として栽培方針は売り先のニーズに応じて変わってくるので、売り先が決まっていないと何もできないのです。同じサツマイモだったとしても、売り先に合わせて、栽培する品種を変えたり、使用する肥料や農薬、資材なども変えていく必要があるからです。

みなさん「特別栽培」や「有機JAS」はご存じと思います。これらの認証を得るには栽培開始前からの手続きが必要ですし、取得する認証によって使える農薬や肥料の種類や量、回数が決まっています。農家は事前に売り先を想定した栽培計画を立て、認証の手続きをしながら栽培していきます。小売業者へ直接卸したり、直売が主な販売先の場合、これらの認証を取って差別化する生産者が多いです。

また、収穫したい農作物のサイズも売り先に合わせて変えるので、品種や栽培期間も事前に決まってきます。

たとえば加工品用に栽培されるサツマイモは、大きいサイズを大量に収量重視で栽培されることが多いです。一方、青果用(スーパーなど一般に販売されるもの)は、調理しやすいLサイズやMサイズが求められるので、それらのサイズで揃うタイミングを狙って作付けから収穫まで大まかなスケジュールが決まっています。それぞれ加工用、青果用で好まれる品種があるので、栽培前の苗を注文する時点で売り先を決めていることになります。

僕が営農する地域のサツマイモ農家に見られる傾向としては、加工品用はサツマイモを使ったスイーツやペーストなどを製造している業者に直接卸す場合が多く、青果用はJA(農協)に出荷することがほとんどです。加工業者に直接卸す場合は、前シーズンから商談がまとまっていることもよくあります。

そして上記の話ともつながりますが、質と量のどちらを優先するかで管理体制が変わってきます。加工品用で外見を気にしなければ、そこそこの管理(作業精度)で広い面積に作付けできます(もちろん加工用も管理が楽ではないです)。青果用で品質が求められると、管理し切れる面積は限られてきます。その点も考慮して作付けを始める段階から決めているわけです。

さらに、いわゆる規格外品(なお農家にとって本来の規格外品とはゴミのことであり、ここで指しているのは規格外品ビジネスで扱われるB級品やC級品などのこと)の販売先も、栽培が始まる前から決まっているものです。

農協出荷の場合はそれぞれ需要のある市場に振り分けてくれるのでお任せで良いのですが、個人で取引をしている場合は、サイズごと、階級ごとに売り先を分けて計画していることが多いです。我が家で言えば、サツマイモはほぼ全量が農協出荷です。

市場ごとに加工業者さんが集まるところや、スーパーのバイヤーさんが集まるところなど特色があります。メロンなら、1番上の階級の『秀品』のみ庭先販売で、優品、良品はJAで市場に持っていってもらって販売します。

計画的な安定生産が食を支えている

メロンやサツマイモに限らず、基本的にはどの作物でも同じようなことが言えると思います。

経営意識のある農家の農作物販売は、栽培を始める前から販売先が決まっており、そのニーズに合わせて栽培方針を決め、作付けを開始するものです。「出たとこ勝負」では、利益を確保して生き残っていくことはできないでしょう。

ニーズに合わせて計画的に生産する農家、そしてそのニーズをフィードバックし流通の調整機能を担う市場やJAが日本の食を支えてくれています。

個人的な思いとしては、目立つだけの生産者が評価されるよりも、均質なものを安定供給し、日本の食料自給に貢献しているような農家さんが評価されて欲しいと願っています。

そして、もし消費者の皆様が「農家を応援したい」と思うのなら、スーパーなどで綺麗で美味しそうなものを正規の売値で購入してくれることが、そんな農家さんたちへのシンプルで一番の応援になると思います。

 

【農家の本音 〇〇(問題)を語る】記事一覧

筆者

富岡優人(野菜農家)
主にメロン(30a)とサツマイモ(2.2ha)を栽培する千葉県農家の5代目。茨城大学農学部卒業後の2019年4月に新卒就農。大学で培ったアカデミックな視点と現場の視点の両方から発信。今の知識に慢心せず、アップデートのために日々情報収集中。2023年開催の第61回全国青年農業者会議にて農林水産大臣賞(最優秀賞)を受賞。「めろん屋富岡」 https://lit.link/melonyatomioka

 

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