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私が耕作放棄地を開拓する理由:32杯目【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】

コラム・マンガ

前回のコラムでは、条件のわるい耕作放棄地を耕すことがいかに労力に釣り合わないかということを述べました。ですが、私は今、兄弟2人で耕作放棄地を開拓中です。市や県と協力し、新しい農場を開く計画を進めています。今回のコラムでは、なぜ耕作放棄地を開拓するのか、その理由を述べたいと思います。

① 何人もの地権者(土地の持ち主)と話をまとめてもらえたから

前回のコラムでは「耕作放棄地は土地が細かく分かれていて、地権者が何人もいる場合が多い」ということを書きました。
私たちが開拓している土地も、3.5haの土地に20人ほどの地権者がいます。
その人たち一人ひとりを探し出して契約を結ぶのは私のような素人には途方もない労力を要します。
私のケースでは、雲仙市の農林課と農業委員会が耕作放棄地対策として地権者全員をとりまとめてくれました。
開拓計画は、熱意と実行力ある雲仙市職員さん・農業委員会の人の協力があってできた仕事なのです。
ちなみに、当事者同士で土地の貸し借りは違反やトラブルにつながりやすいので、農業委員会に相談するのがオススメです。

② 近所の人の応援があるから

私が開拓する耕作放棄地の周囲にはイノシシによる被害が出ていて、周辺に住む人たち(ほとんどが高齢者)が困っていました。
田舎の生活は人間と自然との攻防戦です。
人間チームの活動が少なくなってきたところでは、自然チームの攻勢に圧されてしまうのです。
家の周りが耕作放棄地になると、イノシシが家のすぐ近くに出没するようになります。
そんな状況を不安に思う近所の人たちが、開拓事業を応援してくれるようになったのです。
初めのうちは「ここを拓くなんて、できるのか?」と訝しんでいた人も、開拓が進む様子を見にきて話してくれるようになりました。
たまに話が長くなってしまうこともありましたが、こうした応援は仕事の原動力でした。

③ 開拓が楽しいから

開拓の作業は危険を伴いますが、やってみるとこれが意外と楽しいものです。
初めは歩いて入ることすらできなかったところに小さな道を切り拓き、草を払い、明らかになってくる全貌。
イバラの藪を取り払い、だんだんと光が差して海が見えるようになった開拓地。
はい、完全にロマンですね。
でも、やっぱり危険が多いので、耕作放棄地を開拓するときは保護具を正しく使うなど、安全のためのルールをしっかり守りましょう。

④ コロナ禍で明るいニュースを作りたかったから

開拓計画を始めたのは、全国で新型コロナウイルスの感染が急拡大している真っ最中でした。
私はバーを経営しているのですが、繰り返し営業自粛要請が出ていました。
繁華街からは人が消え、閉塞感が漂っていました。
そんな中、人との接触を避け、耕作放棄地を開拓するのは、私なりの新型コロナウイルスとの戦い方でした。
私たちは何か明るいニュース、それも未来につながるニュースを作りたいと思っていました。

「ここを開拓するぞ」と決めたときは、決して前向きな反応ばかりではありませんでした。
市の職員さんからも「本当にここを開拓するんですか? たった2人で?」と言われましたし、「その広さを開拓するのは無理ですね。行政が予算を投入すればできるかもしれないけど」と言う評論家のような人もいました。
ですが、私たちには、緑の闇に閉ざされた耕作放棄地が拓かれ、光が差し、実りを取り戻す未来がはっきりと見えていました。
そして、何カ月もかけて少しずつ進んでいく開拓を、周りの人たちは興味を持って応援してくれるようになりました。
わくわくして楽しんでくれる人もいました。
私たちはこんな風に、みんなで明るい未来を思い描いて共有したかったのです。

これが、私たちが開拓した耕作放棄地です。

左がbefore、右がafter

いまからずっと前に、初めてここを開拓した先人たちの精神は、私たちに受け継がれているとはっきりわかりました。
私たちはここに果樹を植えて、再び実りを取り戻し、ドリンクなどに加工して販売する計画を進めています。

耕作放棄地開拓には言いようのないロマンがあるように思います。
「耕作放棄地を開拓して食料問題などを解決」という意見をよく聞くのもそれが理由かもしれません。
前回のコラムで述べたように、耕作放棄地を開拓することで何かの課題を解決するのは難しいと思います。
ですが、ロマンには意味があると思います。
私が耕作放棄地を開拓する理由は、ふるさとを閉ざす緑の闇を切り拓き、再び取り戻した光をみんなで見たいと思うからです。

開拓地(ドローン撮影)

 

【渕上桂樹の“農家BAR Naya”カウンタートーク】記事一覧

筆者

渕上桂樹(ふちかみけいじゅ)(農家BAR NaYa/ナヤラジオ)

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