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第40回 川田龍平議員の大炎上と発達障害と逃げてゆく人々 『子どもを壊す食の闇』の闇②【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

コラム・マンガ

前回は河出新書『子どもを壊す食の闇』(元農林水産大臣の山田正彦氏の著書)のとりわけ悪質な点として「発達障害と農薬を結びつける執拗な言及」を取り上げたが、その後1カ月足らずの間にも本書をめぐり様々な出来事があった。

まず、AGRI FACTにも寄稿をおこなう晴川雨読氏の検証記事がブログで公開された(本稿執筆時点では全12章のうち2章分まで)。

次に、河出書房新社の担当編集者が、出版直後に退職してしまったことがわかった。
こちらの問い合わせに対しては、とうとう最後まで返事をいただくことができなかった。

そして本書とは一見、直接関係のないところでひときわ注目を集めたのが、12月7日の夜にX(Twitter)に投稿された、川田龍平参議院議員の発言だった。
有機農産物を食べると発達障害が改善する(発達障害には残留農薬が関与している)と事実上断定する無責任な投稿に対し、医療関係者や発達障害の当事者まで巻き込んで、かつてないほど大きな批判が巻き起こった。

川田議員の大炎上

12月11日19時時点で、この投稿は424.3万回表示されたが、そのうち賛同を示す「いいね」はわずか352回。
一方で1,700件超のコメントがつき、ほぼ全て批判的な内容となっている。

コメントでは国会議員としての資質を問う声が多く見られたが、元々川田氏が投稿したブログは、水野玲子氏の新著『新版 知らずに食べていませんか? ネオニコチノイド』(高文研)を紹介する内容になっている。

川田氏は書籍の内容に触れ、「82ページ目には、オーガニックな食事で、子どもの発達障害の症状も改善!と題して、有機農産物を活用した学校給食の拡がりを取り上げてくださっています。」と謝意を表明している。

川田氏は「オーガニック給食を全国に実現する議員連盟」の共同代表を務めている。
その立場で、オーガニック給食が広まれば子どもの発達障害が「改善」されると事実上言ってしまっているのだから、議連自体の良識が何重にも疑われかねない。

一方、川田氏に向けられた猛烈な批判に比べると、「元ネタ」といえる水野氏に言及した投稿や記事はほとんど見つけることができない。

「オーガニックな食事で、子どもの発達障害の症状も改善!」の発信源、水野玲子氏

著者の水野玲子氏とはどのような人物だろうか。
近著『身の回りにある有害物質とうまく付き合いたいです!――真の「オトナ女子」化計画』の著者紹介によれば、水野氏はサイエンスライターを名乗っており、「有害な化学物質から次世代の健康を守るための市民活動、調査や研究」をおこなっているという。

同書の帯には「妊娠中 妊活中の方 必読!」と記されており、目次にはドーナツ、ホワイトチョコ、マヨネーズ、電子レンジ、ラップなどの「有害物質」が並ぶ。

水野氏には他に著作として『知ってびっくり 子どもの脳に有害な化学物質のお話』『乳がんに負けない!あなたの命を守る食事(共著)』などがある。

『乳がんに負けない〜』で水野氏は3章「乳がんのリスクを高める人工化学物質」の執筆を担当し、要注意の物質として農薬にも言及している。

なお、水野氏が理事を務めるNPO法人ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議には、同じくネオニコチノイド系農薬への強硬な批判で知られる黒田純子氏も名を連ねる。

逃げてゆく人々①

現役国会議員が軽率な発言により批判の矢面に立たされることは当然としても、その情報供給源の人物まで追及が及ぶ場面は、相対的に少ないように思える。

11月に話題となった「あきたこまちRを考える院内集会」においても、的外れな質問を繰り返す議員らには有識者やメディアからも強い批判が集まったが、議員に対してロジックを提供してきた反農薬運動家の印鑰智哉氏は、今も全く態度を変えることなく、同じ内容の講演会を各地でおこなっている。

論理的に筋の通った批判や、科学的根拠の提示、SNSでの炎上をもってしても彼らは大して傷つくことも説明を尽くすこともなく、ときに恨み言を呟きながら、いつもどこかへ逃げていってしまう。

そしてまた見えない場所で全く同じ話を繰り返し、まるで卵でも産みつけるようにして各地に新たな不安を振りまき続けている。

水野氏の著書と同じく『子どもを壊す食の闇』も、その攻撃的なタイトルの割には目立った反響はなく、発売後は運良く?炎上を免れているものの、前回までに取り上げた通り、発達障害に対しては川田氏と全く同じスタンスと言っていい。

何も、川田氏だけが突出して特異なことを言っているわけではない。
『全国オーガニック給食フォーラム資料集』を見ても明らかなように、オーガニック給食運動の世界では発達障害とオーガニックは息を吐くように、何のためらいもなく直結して語られてきている。
そこに賛否や議論の声はほとんど存在していない。
川田氏の投稿の無邪気な書き振りには、その空気感がよく反映されていると思う。

そんな状況を省庁も行政も有機生産者もオーガニック業界団体も、今日まで何ら咎めることもなく黙認してきた事実は、何度でも繰り返し強調しておきたい。

逃げてゆく人々②

退職してしまった担当編集者についても触れておこう。
本書のあとがきに書かれていた編集者の氏名で検索してみると、Instagramでは出版直後の10月23日に本書を紹介する投稿をおこなっており、出版に至った経緯も綴られていた。

そこでは、山田氏が制作したドキュメンタリー映画『食の安全を守る人々』の上映会に参加した編集者が、映画の内容と山田氏の人柄に感銘を受けて、自らの意志で山田氏に執筆依頼を持ちかけた様子が明らかにされている。

「無私の姿勢」「みんなが山田先生のことめちゃくちゃ慕って」「山田先生の魂の提言」など、山田氏への心酔を隠さない一方で、「この日を迎えるまでにまっっじで色々ありまして」「つくってきた本のなかでぶっちぎりでいちばん大変だったかも」と、帯文騒動の影響を匂わせる記述とともに制作過程を振り返っている。

この映画上映会を企画し、編集者と山田氏を引き合わせたのは、同じ河出書房新社から出版された『FLOWで不老 循環美でオーガニックに生きる』の著者、勝田小百合氏だったという。

勝田氏は、オーガニック化粧品の販売などをおこなう株式会社アムリターラの代表取締役を務める。
公式サイトによれば、アムリターラは「代替医療や自然栽培の野菜の流通業に携わってきて同じ思いを共有していた3人で始めた会社」で、勝田氏は他にも『エイジレス魔女の作り方』『老けないオーガニック (美人開花シリーズ)』『アンチエイジングの鬼プレミアム (ワニブックス 美人開花シリーズ)』などの著作がある。

なりふり構わず恐怖や不安を喚起するキーワードでオーガニックを訴求する慣習は、食品の世界だけではないようだ。

なお、X(Twitter)上にも同編集者のアカウントが確認されたが、本書および山田氏についての言及は一切見られなかった。
そして、「このアカウントは年内で閉じようと思います」として、2023年末でのアカウント削除を予告している。

こんなにも軽々しい経緯で、こんなにも社会に害を与えかねない誤りに満ちた本が、批判に向き合う覚悟もないまま一冊生まれてしまう。
そして、誰も責任をとらない。

みんな逃げ出したあとの静けさ

最後に、出版から三週間ほど経った11月16日時点で確認された本書の反響を簡単に紹介しておきたい。

  • X(Twitter)では、Yahooリアルタイム検索によると過去30日間、書名による投稿はわずか37件。内訳はネガティブな投稿が75%。
  • Instagram にて書名での検索結果は4件。TikTokでは1件も確認できなかった。
  • Facebookでは山田氏と年代の近い支持者からの反響が一定数見られた。

口コミは極めて少ない。
Amazonレビューの投稿は3件で、短い賞賛が2件と批判が1件。
このほかには読書メーターで支持者と思しき好意的な投稿が1件ポッドキャストで生産者からの批判的なレビューが1件個人ブログでの批判(Amazonレビューと同内容)が1件のみ見つかった。

ポッドキャストでの批判は「結論ありきで恣意的な描かれ方が多い/感想か事実か判然としない/農業は経済活動であるということを見落としている」といったものだった。

なお、丸善雄松堂が運営する書籍データベース「Knowledge Worker(ナレッジワーカー)」では、「丸善のおすすめ度」星ひとつ(最低ランク)に分類されている

新聞などの書評に取り上げられた形跡も見られない。
河出書房新社のオウンドメディア「Web河出」上では本書のプロモーション情報は一切確認できなかった。
公式サイトの書籍紹介では「種苗法廃止」という致命的な誤植がずっと放置されている(種苗法は2020年に改正されたばかりで、廃止される予定はない)。

もう当事者の誰も、この本については触れたくないということなのかもしれない。
だったら出さなければよかったのに、と心底思う。

追記:
2023年12月15日 ハフポスト日本版に、相本啓太氏による専門家へのインタビュー記事が公開された。

2023年12月16日 ABEMAヒルズの番組内容をまとめた記事が公開された。

国立環境研究所のエコチル調査コアセンター次長 中山祥祠氏、ノンフィクションライターの石戸諭氏がコメントを寄せている。

 

※記事内容は全て筆者個人の見解です。筆者が所属する組織・団体等の見解を示すものでは一切ありません。

【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】記事一覧

筆者

間宮俊賢

 

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