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農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート16〉【ナス農家の直言】

農家の声

前回に続いて今回も、
「農業に関するデマで打線組んでみた!〈パート16〉」
と題して、農家の私ナス男が農業に関する嘘やホントを紹介します。

1.(中)米の芽出し浸漬(しんせき)水に、イベルメクチンを!

以前にも、リンゴの農薬散布にイベルメクチンを混用しているかのような投稿をSNSで見かけましたが、某界隈の一部では米の芽出しにもイベルメクチンを使っているようですね。
ミトコンドリアが活性するとか生育がいいとか主張されているようですが……

これ、登録されていないものを農薬として使用することは、農薬取締法違反です。
私は試したこともないので分かりませんが、こういうイベルメクチンの使い方をしている農家を信用してはいけません。

2.(左)グリホサートはEUでは全面的に使用禁止!

「EUではグリホサートは全面使用禁止だ!」

と、活動家のネタにされ続けているグリホサートの使用は、正確ではありません。
つい最近、EUはグリホサートの使用許可を2033年まで更新したからです。

これまた何度でも言いますが、グリホサートはこれからもEUで使用できます!
ネガティブな情報ばかりが目に留まるグリホサートですが、私の記事でも情報を確認してほしいです。

3.(一)浸透移行性農薬不使用だから安全!

慣行栽培のことを批判してオンラインサロンを運営している農家が、「浸透移行性農薬不使用」と謳って野菜をかなりいい値段で売っているようです。
消費者の方には、相当こだわって作っている野菜に見えますが……

要するに、普通の慣行栽培です!

「必要な時のみ農薬使ってます!」と言いたいのでしょうが、慣行栽培でもすでに当たり前のように農薬をなるべく減らしています。
それに、慣行栽培を農薬まみれだとか散々批判していた方が、農薬を使用しているのはいかがなものか!
これでも騙される消費者がいるという事実も悲しいです。

4.(三)キャベツを植えさえすれば、補助金がもらえる!

「農薬まみれでも、管理せずに放置しても、出荷しなくても、植えさえすれば補助金がもらえる!」

と、前述の農家は発信されていますが、間違いです。
主要14品目の栽培に適用される安定政策や収入保険のことをいっているのでしょうが……

これらのセーフティネットにも、生産調整や○○%の売上減少などの条件があるので、無気力でも管理しなくても出る補助金は、農家の私でも知りません。
もしそんなボーナスみたいなものがあるなら、ぜひ教えて下さい!
この方はデマが多く、自身のサロンや農産物に誘導しています。注意して下さい。

5.(右)農薬の基準を決めている規制機関が怪しい!

「農薬の基準を守れば安全と言うけど、その基準を決めている機関を信用してはいけない!」

某政党はこのような理由で、農薬の安全性を批判しているようです。
要するに、政府が信用できないということでしょうが……
リスク分析の考え方に基づいて、残留農薬の基準値設定までには、厚生労働省のみならず、農林水産省や消費者庁、食品安全委員会などさまざまな省庁が関わっています。
詳しくは、下記の図と記事をご覧ください。

基準値設定までの概略

多くの関係機関が携わっており、政府だけがどうこう操作できることではないのです。
残留農薬について不安視している政党の主張は、そもそも破たんしています。

6.(捕)蚊取り線香は農薬入りなので使ってはダメ!

「蚊取り線香は、農薬成分が入っているので危険!」

という主旨のSNSの投稿を見ました。
たしかに、蚊も落とせる成分が人間の健康にも影響があるのか気になる方もいるのは承知していますが、
これはミスリードです。

蚊取り線香の主な原料である除虫菊の成分(ピレトリン)は、蚊には神経マヒを起こさせますが、哺乳類や鳥類など恒温動物の体に入っても速やかに分解され、短時間で体外へ排出されてしまいます。
また、動物の体内だけでなく、光や空気、熱に触れると他の殺虫剤よりも分解しやすい性質があります。
つまり、安全性は極めて高いということです(もちろん、使用上の注意や用法用量は守らないといけませんが)。

ちなみに、このピレトリンの特徴を受け継ぎつつ進化した、合成ピレスロイドという農薬成分が合成され商品化されています。
こちらも、農薬基準法に沿って使用すれば、安全だと言えます。

7.(二)農業は収入が安定しない!

「農家って収入が安定しないでしょう? 大変な仕事ですよね。」

とよく同情されます。
これは本当のことです。
年によっては、売上の10〜20%、もしくはそれ以上、残念ながら変動することも珍しくありません。
作物や出荷先との契約で価格を保つ努力をするなど、個人の農家でも出来るかぎりの努力はしています。
また、台風の被害や豊作すぎて価格が下落した場合などでは、安定政策や収入保険などで、ある程度の損害を補填できます。

しかし、個人ではどうしようもない世界情勢や疫病の発生で、収入ゼロどころか赤字になることもあります。
酪農家の友人は、飼料費の高騰で今年は赤字だと嘆いていました。
コロナ禍で出荷先に卸せず、作物を廃棄しているニュースをご覧になった方もいるでしょう。
自営業なので、安定した給与が出ないこともあるのは当たり前ではありますが、嘆いてばかりでは何も変わらないのは農家も分かっています。日々の精進あるのみです。

8.(遊)毎年海外から米を輸入している!

「米が余るほどたくさん作っているのに、海外から米を輸入している!」

これは本当です。
お米を輸入(ゆにゅう)するようになった経緯(けいい)をおしえてください。:農林水産省 (maff.go.jp)
主に加工販売や災害援助に輸入米は利用されているようですが……

気候条件が悪くて米が不作になった年もありましたが、品種改良や農家の努力などにより、安定して収量を確保できるようになっています。
米の価格は下がっていて、減反や飼料米などへの転換も推奨されているのに、海外から米を輸入しているのはもやもやするところです。
しかし外交上、仕方のないこともあるのでしょう。
私は外交には全く詳しくないので、納得せざるを得ないというのが率直な感想です。

9.(投)TPPで、政府は農業を切り売りした!

TPP(環太平洋パートナーシップ)に関しては色々な意見がありますが、
日本の強みである自動車を世界でより有利に売るために、農業分野で妥協をしたのは、その通りだと私は捉えています。
農作物の関税はなくなったものが多く、海外産の農作物が以前より輸入しやすくはなりました。

ではTPPをはじめ貿易自由化の流れを止められるかと言えば、そんなに簡単な話ではないことは何となくでも皆さん感じているはずです。
結局、世界情勢に対応して、農家も努力していかないといけないということです。

  • 品質のいいものを作る
  • 作物や販路変更を検討する
  • より効率的に栽培できる農機や施設を購入する
  • 逆に自分の農作物を海外に輸出する

など、一農家が出来る努力はみんなしています。
消費者の方には、ぜひ日本の農家を応援するという意味でも、国産の農作物を食べていただきたいです。

まとめ

消費者の方に、農業への関心をより持ってもらうために、これからも、農業デマや消費者の方の疑問を分かりやすく紹介・解説していきます。

 

【ナス農家の直言】記事一覧

筆者

ナス男(ハイパーナスクリエイター「ただのナス農家」)

 

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