寄付 問い合わせ AGRI FACTとは
本サイトはAGRIFACTに賛同する個人・団体から寄付・委託を受け、農業術通信社が制作・編集・運営しています

根拠あやしき「グリホサート情報」を流し続けるマムズ・アクロス・アメリカの正体

食と農のウワサ

インターネットやSNS上で「5種類の子ども向けワクチンから、除草剤の主成分であるグリホサートが検出された」「母乳からグリホサートが検出された」といった根拠のあやしい情報が流布されることがあります。こうした言説の出所の一つが「マムズ・アクロス・アメリカ(MAAM)」というアメリカの民間団体です。ゼン・ハニーカット氏が創設したマムズ・アクロス・アメリカの正体に迫ります。

マムズ・アクロス・アメリカと創設者ゼン・ハニーカットとは

マムズ・アクロス・アメリカは、遺伝子組み換え食品や農薬に反対する運動を展開しています。その一方で、腸を健康にするとうたう「リストア」という薬品や、健康全般の万能薬であるとする水素分子を含んだ製品などを販売しています。科学者たちはどちらも、うたわれている効果には根拠がないとしています。

このように、マムズ・アクロス・アメリカは、農業や食品にバイオテクノロジーなどの先端技術を持ち込むことに反対する自然派志向の団体で、近年強く敵視しているのが、除草剤ラウンドアップ製品群の有効成分グリホサートです。

創設者であるゼン・ハニーカット氏は、世界中を飛び回って数多くのキャンペーンやロビー活動をしています。また、マムズ・アクロス・アメリカは、農薬や作物のバイオテクノロジーに反対する抗議活動やデモ行進、ソーシャルメディアを使った抗議活動を数多く主導しています。これらの活動には莫大な費用が必要ですが、マムズ・アクロス・アメリカは資金源を公表しておらず、州や連邦政府のロビー活動に関する情報開示書類も提出していません。

ハニーカット氏は、マムズ・アクロス・アメリカを立ち上げる直前に、個人的にも企業的にも破産をしており、活動を支える独立した財源を持っていないようです。マムズ・アクロス・アメリカにはスポンサーがついており、その多くが有機食品を販売しています。

マムズ・アクロス・アメリカを立ち上げる前、ハニーカット氏は遺伝子組み換え作物について説明するビデオを投稿しました。その中で彼女は、グリホサートがうつ病、糖尿病、免疫疾患、血液脳関門の溶解などあらゆるものを増加させる原因であるとしています。もう何でもありです。

マムズ・アクロス・アメリカの主張1:ワクチンからグリホサートが検出されたので危険

マムズ・アクロス・アメリカの発表をもとに、遺伝子組み換え作物や農薬を嫌う自然食品関連企業や神秘主義的(スピリチュアル)な疑似科学のウェブサイトなどで「ワクチンは危険」という主張が繰り返されています。

しかし、科学者や医学者のほとんどすべてが、ワクチンの有効性と安全性を認めています。ワクチンに関する解説書を見れば「人類の死亡率の低下に対する貢献では、ワクチンは抗生物質以上であり、これに勝るものは衛生的な水の供給くらいしかない」とあるほどです。また、ワクチンを含むすべての医薬品は、多くの試験と審査を受け、さまざまな公的機関の承認を得て、製造販売されます。

それにもかかわらず、マムズ・アクロス・アメリカはそのウェブサイトで次のように主張しています。「マムズ・アクロス・アメリカはセントルイスの研究所と契約し、インフルエンザワクチン、ジフテリアワクチン、三種混合を含むいくつかのワクチンのサンプルから非常に少量のグリホサートを検出した」。

詳しいデータが公表されていないので、マムズ・アクロス・アメリカが本当にそのような検査結果を得たのかどうか確かめることはできません。しかし、検出されたはずのグリホサートの量は、彼らが使用した技術の測定限界以下と考えられ、信頼性が高いとは思えません。

ワクチンの製造工程や透明性を理解していない

さらにマムズ・アクロス・アメリカは、ワクチンにグリホサートが入り込んだ経路として、「ある種のワクチンは、大量のグリホサートを含む遺伝子組み換え飼料を与えられた、ブタ由来のゼラチン上で成長するという事実から、グリホサートは容易にワクチンに含まれる可能性がある」と説明しています。

確かに家畜の飼料には、EPA(米国環境保護庁)によって最大400ppmのグリホサートの残留が認められています。しかし、これは数々の研究で害があるとされている値の数千分の一にしかなりません。

また、グリホサートは動物の体内に入っても速やかに排出され、蓄積されることはありません。ラットの実験ではグリホサートのほとんどが161時間以内に体内から排出され、測定可能な量は残っていないことが確認されています。

次に、マムズ・アクロス・アメリカはワクチンの製造方法を誤解しています。規制当局は、ワクチン製造業者の品質管理手続きにおいて、除草剤に限らずあらゆる汚染物質の残留を調べています。主流的なワクチンの製造方法は、ニワトリの卵を使ってワクチンのもとになるウイルスを育てるものですが、卵を産むニワトリが何を食べているかによって、卵の中でウイルスがどれだけ育つかが大きく変わるため、メーカーは特にニワトリの栄養状態に注意を払います。

マムズ・アクロス・アメリカが問題にしている、ブタなどの細胞を使う場合も同様で、動物細胞は厳重に管理された環境で培養され、細胞を養うためにどのような化学物質が使われているかはすべて明らかになっています。

つまり、グリホサートの量の多少にかかわらず、ワクチンの製造過程にそのような化学物質が混入していたら大問題になります。見過ごされるはずはないのです。

ワクチンの製造で最もコストがかかり、手間がかかるのは、卵や動物細胞の中で増やしたウイルスを分離精製する行程です。精製工程では、精密な分離技術を用いて、卵や動物細胞のタンパク質やDNA、その他の汚染物質などを取り除きます。非現実的な話ですが、グリホサートがここまで到達したとしたら、ここで破壊されることになります。

マムズ・アクロス・アメリカの主張2:母乳や尿から微量のグリホサートが検出されたので危険

マムズ・アクロス・アメリカは「自分たちが資金提供をした非公式の検査」で母乳や尿から微量のグリホサートを検出したと主張し、インターネットで流布させました。

この結果に異議を唱えたのが、ワシントン州立大学の科学者で授乳専門家であるミシェル・マクガイア氏を中心とする研究です。マクガイア氏は、国際母乳・授乳研究協会の執行委員であり、米国栄養学会の全国スポークスマンでもあります。マクガイア氏はグリホサートが母親の母乳に蓄積しないと発表しました。彼によれば「私たちの研究は、グリホサートがヒトの母乳に含まれないという強い証拠を示している」ということです。

一方、マムズ・アクロス・アメリカの調査結果は、報告書を作成した研究者がデータの共有を拒否したため、その内容は検証されていません。そればかりか、この調査結果は、公表されている安全性データと一致していません。マムズ・アクロス・アメリカの調査で検出された最大値は、0.43ng/mL(0.00000043mg/mL)ですが、これは欧州連合(EU)が健康影響は無いとする値の4000分の1よりも小さい数値です。

また、マムズ・アクロス・アメリカの調査に使われた手法は、水に含まれるグリホサートを検査するために設計されたもので、脂質を含む母乳の検査には適しません。母乳に適した検査方法なら、数値はさらに小さくなります。

マムズ・アクロス・アメリカは、マクガイア氏の研究に除草剤メーカーの研究員が含まれていることから、公平な研究ではないと批判しました。しかし、マムズ・アクロス・アメリカの主張のもとになっている検査は、マムズ・アクロス・アメリカが資金提供をしています。これは公平なのでしょうか。

その後、そのような利害関係のない、独立したドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)に所属する科学者による報告書でも、グリホサートの危険性は確認できませんでした。

遺伝子組み換えや農薬を批判することが目的

マムズ・アクロス・アメリカが日常的に使われる商品からグリホサートを検出したと主張するのは、今回が初めてではありません。これまでにも、ワインから除草剤を検出したと主張してきましたが、数々の独立した研究で否定されています。

つまり、マムズ・アクロス・アメリカの主張は客観的で公平なものではなく、最初から遺伝子組み換え作物や農薬を攻撃し、妨害しようという目的が先にあります。遺伝子組み換えや農薬の使用を好まない、というのは個人の自由ですが、それを正当化したり、他の人に押しつけたりするために、事実や科学性を歪めてはいけません。それに伴う風評被害は非常に深刻なものになります。

一部のメディアは、注目を集めるために、不安をあおるような刺激的な記事を大げさに書き立てる場合があります。疑問に思ったときには、前提にさかのぼって科学的根拠を確認するようにしましょう。


アメリカの「Genetic Literacy Project(遺伝子リテラシープロジェクト=GLP)」は、資金の独立性を保ちながらバイオテクノロジーのイノベーションに関する情報を収集・分析し、調査結果を発表している。この記事はGLPが公表した下記記事・調査結果をAGRI FACT編集部が翻訳・編集したものである。

Moms Across America:健康への不安を煽る「消費者」団体、遺伝子組み換え作物や化学物質がターゲットに
GLP(2019年1月2日更新)

母親の母乳にグリホサートが含まれているというMoms Across Americaの主張に新しい研究が異議を唱える
ワシントン州立大学(2015年7月24日)

関連記事

検索

Facebook

ランキング(月間)

  1. 1

    日本の農薬残留基準値は改正されて緩くなったのか – グリホサートの真実とは2【完全版】(vol.7)

  2. 2

    日本の農薬使用に関して言われていることの嘘 – 本当に日本の農産物が農薬まみれか徹底検証する

  3. 3

    もしも農産物の”規格”がなくなったら

  4. 4

    第47回 都知事選から考えるオーガニック問題【分断をこえてゆけ 有機と慣行の向こう側】

  5. 5

    世界がラウンドアップ禁止の流れになっているのは本当か – グリホサートの真実とは2【完全版】(vol.8)

提携サイト

くらしとバイオプラザ21
食の安全と安心を科学する会
FSIN

TOP
CLOSE